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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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【十二の星の華】剣の花嫁・抹殺計画!(第3回/全3回)

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第一章 奪われた青龍鱗

 毒苺のなる巨樹から少しばかり離れた森の中、イルミンスール魔法学校から女王器『青龍鱗』を運んでいた一行は、十二星華の一人、パッフェル・シャウラの襲撃を受けていた。
 パッフェルのランチャーが放った「赤い光」に撃ち抜かれた「剣の花嫁」たちは全身を水晶化させられたばかりか、眼帯を外したパッフェルが右瞳を赤く輝かせると、花嫁たちも同じように瞳を赤く輝かせて立ち上がり、パートナーたちへ襲い掛かったのだった。

 全身が水晶と化している、そう思えたのは瞳が赤く輝くまでだった。
 冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は赤く輝いた瞳を見開くと同時に、小さな体を目一杯に捻ってから拳を撃ち出した。
「きゃっ」
 千百合のパートナーである如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の神経は超感覚によって研ぎ澄まされていたはずだが、水晶の体となった千百合が機敏な動きをした事、そしてパートナーである自分に遠当てを放った事への戸惑いから、闘気の塊りを避ける事は出来なかった。
 日奈々の体は吹き飛ばされたが、シャンバランの仮面をつけた神代 正義(かみしろ・まさよし)が受け止めた。
「っと、大丈夫か?」
「はい… でも… 千百合が―――」
 日奈々が言い終える前に正義は日奈々を抱いて跳び避けていた。2人の上空からウォーハンマーが振り下されているのに気付いたからである。ウォーハンマーを振っていたのは正義のパートナーの大神 愛(おおかみ・あい)であった。
「アイちゃん!!」
「そんな… 愛さんまで…」
「くっ!!」
 再び振り下されたハンマーが地面を砕いた。水晶化している為、そして操られている為であろうか、その威力は普段よりも大きいように感じられた。
 瞳が輝くまでは、その体は固まった一つの水晶であった。しかし今、襲い来る花嫁たちは、正義や愛が装着しているヒーロースーツのような、薄くて伸縮性のある水晶を纏っているかのように、滑らかで機敏な動きをしていた。
 同じくパッフェルに全身を水晶化されたリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)葉月 アクア(はづき・あくあ)が跳び出したのを見て、鬼崎 朔(きざき・さく)がパッフェルに詰め寄った。
「これは一体どういう事だ!」
「操って、襲わせているのよ」
「なっ! そんな事が可能なのか…」
 尼崎 里也(あまがさき・りや)の肩を借りているブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)は、水晶化した自身の左腕と左胴体を見つめながらに首を傾げた。
「でもボクは、何ともないよ」
「本当に、何ともないのか?」
 里也が覗いてみても、カリンの外見に変化は無かった。もちろん、水晶化している事を除いて、ではあるが。
「全身が水晶化した者を操る事が出来る、という事か?」
「そう、全身を水晶化させて初めて、操れる」
 操られたリーンが雷電属性を得た拳を緋山 政敏(ひやま・まさとし)に撃ち出している。その拳を政敏は顔を歪めながらに避けているが、それを見た朔も同じように顔を歪めた。
「なぜパートナーを襲わせる! そんな必要はないだろう!!」
「水晶化していない者を襲わせているだけ、近くにパートナーが居るだけよ。そんな細かい指示は出せないわ」
 近くに居るから襲われる。全身を水晶化させられたパートナーが動き出したなら、近くに寄るのは当たり前ではないか。しかし、それが裏目に出ていたのだ。
「止めろ! アイちゃん! 止めるんだっ!!」
 正義は、愛の攻撃をひたすらに避けていた、避けるしかなかった。地面を砕く程のハンマーに高周波ブレードで真っ向から向かう事も、それを受け止める事は余計に無理があるように思えた。そして何より正義には、最愛のパートナーである愛を攻撃するなど到底できなかった。
「アイちゃん! 目を覚ませ! 止めてくれっ!!」
「……落ち着け…… 仮面の男よ…… 奇怪な事態に…… なろうとも…… 敵は…… 変わらん……」
 正義の背から聞こえたクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)の声は、一見、静かで落ち着いたものに聞こえたが、その音には押し込められた怒りが込められていた。
 パートナーが操られているなら、操っているパッフェルを倒せば花嫁たちも元に戻るはずだ。しかしパッフェルを殺してしまっては、水晶化を解く方法を聞き出せない、それが枷となり、彼女を攻撃できない者や彼女に協力する者がいるのだが……。
 自身のパートナーを、そして目の前で多くの花嫁たちを水晶化して愉しんでいるパッフェルへの怒りは、クルードの脳裏からそれらの事を忘れさせてしまう程に募り沸いていたのだった。
 クルードの言葉に、正義は視線をパッフェルへと向けた。愛を、そして花嫁たちを操っているパッフェルは、木々の枝上から笑みを浮かべて、桐生 円(きりゅう・まどか)マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)と共に正義たちを見下ろしている。
「正義さん」
「よし、狙いはパッフェル!!」
「……援護する……」
 いち早く飛び出した日奈々、その勢いに引かれる様に正義、クルード、そしてクルードのパートナーであるリョフ・アシャンティ(りょふ・あしゃんてぃ)が続いて飛び出した。
 側面から、水晶化した愛と千百合が駆け寄ってきたが、リョフはランスを振りて、彼女たちとの距離を確保した。
 前方から飛び出してきた桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)に、クルードは等活地獄を放ったが、目視からの反応だったであろうに、円とオリヴィアも同じく等活地獄を放ち相殺してきた。
 しかしそれでも2人の動きを止めるというクルードの目的は果たされていた。3人の横を駆け抜けた日奈々は煙幕ファンデーションを用いてパッフェルとの間に煙幕を張った。
「行けるっ!!」
 煙幕の中から正義はソニックブレードを放った。煙幕を張った直後に日奈々は狙撃されたしまっていたが、これまでの戦いで見せつけられたパッフェルの早撃ちと、その正確性、また反応の速さなどを考えると、日奈々への射撃は明らかに遅い一撃だった。
 正に好機であった。
 煙幕を斬り裂いた正義の一撃は、見事にパッフェルの胴を斬りつけて―――。
 パッフェルは吹き飛んだ、しかし正義の手応えは「剣と剣が打ちあった時の打突感」だった。
 斬撃の瞬間、彼女の背後を護っていたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)高周波ブレードを割り込ませて防いだのだった。
「ぎゃっ」
 ミネルバは、パッフェルを抱えたまま、背中を木の幹に打ちつけられて悶絶した。それでもすぐに首を起こしてパッフェルの胴を覗き込んだ。
「よかったー、フリフリの衣装も… 少ししか切れてない」
「………… 衣装じゃなぃ……」
 パッフェルは赤らめた顔を隠すように上体を起こしたが、腹部に受けた傷の痛みに顔を歪めた。メイド服の両腹部が裂けており、血の滲んだ肌が露出していた。ミネルバが防がなければ、パッフェルの腹部は裂けていた事だろう。
 一撃に全てをかけた正義はマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)則天去私による拳撃を頭に受けて、あっさりと気絶した。仮面の下では、何とも地味な……、と思っているのかもしれないが、とにかく一撃を与えて眠りについたのだった。
 立ちはだかるクルードの星輝銃の銃口に、同じく星輝銃の銃口を円がカチ合わせた瞬間に、オリヴィアはパッフェルとミネルバの元へと駆け出した。
「パッフェルの元には行かせませんわ。あなた方の相手は私たちです!!」
「邪魔だよぅ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が立ちはだかったが、オリヴィアは毒虫の群れを放つと、ミネルバに向けて叫んでいた。
「撤退するよ! パッフェルを引いて来な!!」
 正義に続けとばかりに政敏とリョフは「花嫁たちを止める」ではなく「パッフェルを討つ」に指針を変えていた。そんな2人には、朔とスカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が迎撃体勢に入り、対処したのだが、マッシュもオリヴィアと同様の危機感を感じていた。
「射撃速度が落ちたのは、その瞳のせいか?」
「…… 落ちてなんかないわ…… そんなわけない」
 パッフェルはランチャーを政敏に向け構えたが、それはマッシュの目でも余裕で捉えられる速度であった。自覚している、そしてその上で認めないつもりか、それならやはり…。
「くっ、シャノンさんっ!!」
「あぁ。賛成だ」
 シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)は一帯に光術を放って間合いを取った。シャノンが指笛を吹くと、森中の木陰から、5体ものゴーレムが次々とその姿を見せた。
「さぁ、今のうちに!!」
 空飛ぶ箒を用いて飛び上がったミネルバは背後にオリヴィアを乗せ、駿馬に跨った円は背にパッフェルを乗せて駆け出した。
 石の魔物、ゴーレムが5体も…。頬を引き攣らせた政敏に対し、詩穂は唇を尖らせた。
「ちょっと〜 ゴーレムが相手じゃ、みかんが効かないじゃん〜」
「ふざけてる場合かっ!」
「ふざけてなんかないよ〜! って、どこ行くのっ?」
「奴らを追うんだよ、ゴーレムは任せたぞ!」
「ちょっと、パートナーはどうするのよ!」
「押さえ込むより撒いた方が良いと思うぞ―――」
 政敏の横を葉月 ショウ(はづき・しょう)が血気に満ちた目をして駆けていった。
「あいつ、殺気立ちすぎだっ」
「ちょっと、本当に行く気?」
 クルードとリョフがゴーレムに向かいて、2人の行く道を作っていた。
「… 構わん… 行けっ」
「そうだよっ、ここはあたしたちが何とかしちゃうんだから」
 5体ものゴーレム、そして操られた花嫁たち。意思のない敵と戦局となった場から、パッフェル一行とショウ、そして政敏が駆けて抜けて行ったのだった。