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鏡開き狂想曲

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第一章『ドキッ★小餅だらけの大運動会』


「ずいぶん、派手な神様だな」
 正月とは様変わりした福神社に向かって、鬼院 尋人(きいん・ひろと)はそう呟いた。
 それをいうなら、自分だってこの空間から浮いている。
 馬に乗った見事な騎士姿。西洋の鎧と兜と馬の組み合わせで神社を訪れる者なんて、仮装行列以外はなかなか見られない。
 が、本人はすこぶる真面目だった。これが自分の正装(?)だ。
「違うと思うけど。……カビだぜ、これ」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、尋人のその言葉に突っ込む。
 どうやら今の福神社の惨状を、知らずに訪れた者もいるようだ。
 神社の危機と知り駆けつけた涼介。
 手短に尋人に対して、手短にその状況を説明する。
 他にも、布紅の大事と聞きつけてやってきた遠鳴 真希(とおなり・まき)神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)などが集まっている。他にも、今まさに駆けつけようとしている者たちがいる筈だ。
「それにしても、話には聞いていたが」
 少し呆れ顔で涼介が呟いた。
 実は和装を好むなど古風な面のある涼介。神社も自分の趣味に合う空間だったが、……これでは風情も何もあったもんじゃない。
 鏡餅が飛びはねる福神社。しかも鏡餅はみな大なり小なりカビていて、その胞子を神社中に撒き散らしている。
「このままじゃ、布紅が貧乏神に戻ってしまう」
「それは困る! こうして正装してきた甲斐がない」
 カビた鏡餅を退治すれば、布紅と福神社、ひいては空京神社を救うことになる。
「助けてやらなきゃな」
「そうね、助けてあげなきゃ」
 やってきたヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)も涼介に頷いた。
 ヴェルチェも、布紅神社の騒動を聞きつけてこの場へやってきた。
 こちらはこちらで、神社に似つかわしくない色っぽさだ。
「布紅ちゃんはカワイイから、助けてあげたくなっちゃうのよ」
「神様に向かって可愛いとは」
「しょうがないじゃない、本当にカワイイし」
 神様とはいえ、見た目は子供に見える。
 しどけない姿から誤解される事も多いが、子供好きのヴェルチェ。布紅の惨状を見過ごすことができなかった。
 食べ物だって粗末にしてはいけないと思っている。
 だから、餅もカビをはがせば大丈夫。そう思って来てみたものの。
「ちょっとカビが生えたくらい、食べられ……食べ……ムリ、何よあれ……」
「うわぁきれ…いく、ないね、やっぱり」
 ヴェルチェの溜息に、遠鳴 真希が応じた。
 赤青緑といえば聞こえはいいが、それが全部カビなのだからきれいなんてものじゃない。
「なんとかしなきゃね」
「ふふふ〜、はりきってお役に立ちますよぉ」
 パートナーのケテル・マルクト(けてる・まるくと)が少し舌たらずな声で応じる。
 増殖する小さな鏡餅。
 しかも飛んで跳ねて、更にはこちらに敵意を向けている。
 ほったらかした恨み、とでもいうのだろうか。
「このままじゃ埒があかないな。……社殿の奥に巨大な鏡餅がある。そいつを叩けばなんとかなりそうだ」
 涼介の言葉に頷く有志の面々。
「わたしは小さい餅を叩いて道を開こう。巨大餅は、それからだ」
「だったら、あたしはボス餅を叩くよ。ハンマーあるし、鏡割りにいいでしょ」
「私も、ボス餅をなんとかするね!」
 ぴょこんと、小鳥遊 美羽が手をあげる。パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)ーが、少しはらはらしながら美羽にこう忠告した。
「美羽さん、無茶はしないで下さいね」
「大丈夫だよ! ちょっと大きいお餅を切るくらいでしょ? お料理と一緒!」
 お料理どころではないと思う。ベアトリーチェは言葉を飲み込む。
「大丈夫か? 翡翠」
 その隣で、神楽坂 翡翠のパートナー・レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が翡翠の心配をしていた。
「神社ですから、そうそう不幸も起こらないでしょう」
「いや、今その神社自体が不幸になってるし」
 弱いわけではないが、昼間は徹底して不幸な翡翠。
 何が起こっても対応できるよう、レイスは準備を始める。
「それにしても、退治した後はどうします? 片づけが大変だ」
「そうだな。誰か……」
 涼介は思案げに考え込んだ。
 そこへ飛んできた、可愛らしい声が二つ。
「おにいちゃん!」
 体操服姿で、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が涼介に駆け寄ってきた。
「おてつだいにきました!」
 きれいに洗うための準備も万端。
「私も参加させてくださいませ。布紅さんをお守りし、きれいにして差し上げたいのですぅ」
 おっとりと話しかけるのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
 パートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もその後ろで頷いている。
「では……小さい餅を叩くもの、巨大餅を倒すもの、布紅や神社を清掃するもの、の3つに分かれるとしようか」
 ざっくりと方針を決めて、確認しあう有志。
「じゃ、行くか」
 涼介の合図で、鳥居をくぐる。
 パンパン、と、尋人が拍手を打った。
「お参りとお賽銭は後回しになるが、すまない」
 律儀にそう詫びてから、騒然とした福神社の社の中を見すえると、憤慨したようにこう言った。
「まったく、ゆるいにもほどがある!」