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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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第3章


 太陽は完全に落ち、月明りと星の煌めきが奔走している皆を照らす。

 タノベさんから材料を受け取り、空京へと向かう一行に不穏な影が付きまとう。
 現在、グランは綾乃の箒の後ろに乗っている。
 行きではファルのソリに乗っていたのだが、全速力で走り続けている為、交代したのだ。
「このままおやじが何もせずにいるとはとても思えないのですが……」
 小型飛空艇でグランを護衛している樹月 刀真(きづき・とうま)が呟く。
「ひょっほーい! 呼んだかな?」
 突如、背後から現れたのは元薬屋のおやじシャガ・コチョウだ。
「その材料を渡してもらおう! 貴重なものだ……高く売ってティセラ様に鞭のプレゼントをさせてもらう!」
 おやじはそう言うと、手榴弾を投げつけてくる。
「落ちないで下さいね!」
「はいっ!」
 グラン目がけて投げられた手榴弾は綾乃が空中で後方一回転を決め、避けた。
「ファル! グラン達と一緒に先に!」
「う、うん!」
 呼雪はファルをグラン達と一緒に先に行かせると、自分は背後から近付いて来るおやじと向きあった。
 試作型星槍を持ち、おやじへと突っ込んでいく。
 その勢いのまま、切り付ける。
「効かない、効かない」
 が、寸でのところでかわされてしまった。
「わわわっ! こっちに来たーーーー!」
 鳳明は自分の方へと向かって来たおやじにおっかなびっくりしていたが、用意していた水風船を投げつけた。
「うわっ!」
 中身はタダの水だが、着火が必要な投擲物を封じ込めるには有効だったようだ。
 ついでに粉系の爆弾もダメになっている。
「ちぃっ! また来るからな――」
「させませんよっ!」
 刀真の轟雷閃がヒット。
 水も掛かっていた為、良い感じに全体が痺れている。
 その為、おやじはバイクから転げ落ちた。
「……みんなで力を合わせた結果」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はおやじを倒した事に満足そうだ。
「本当はこういう戦い方は嫌なんだけど……ごめんなさいっ!」
 近寄った鳳明はそう言うと、おやじの足の腱を光条兵器で切った。
 おやじは痺れている為か、声も出せないでいる。
 こうして、おやじは無事(?)捕まった。

「月夜このおやじを踏んでやって下さい」
 捕まえたばかりのおやじを前に刀真が月夜に向かって言う。
「……」
 それを月夜は視線だけで抗議した。
「……うん、嫌なのは分かるんですけどね、急いでいるんで頼みます」
「うー……」
 本気で嫌そうに月夜はおやじの腹をふんづけた。
「あふん……」
 気持ち良さそうな声を上げると、周りに居る全員がどん引きした。
「ホイップは何処にいるの?」
 そのまま、月夜は質問をする。
「居場所は……知ってたって言うもんか!」
「ということは知らないんですね」
 刀真が聞いてもおやじはそっぽを向くだけだ。
「じゃあ、ティセラに会いたいんだけど連絡先は?」
 この月夜の質問には、顔をぷいっと背けてしまった。
「お、教えてくれないともう踏んであげないから!」
「ふぐっ……いや! ティセラ様を売ることは出来ん!」
 おやじは頑なに口を閉ざしてしまった。
「はぁ……」
 刀真は溜息をつく。
「これなら……分かるんじゃないのか?」
 呼雪はおやじのポケットに手を突っ込んで何かを取りだした。
 携帯電話だ。
 刀真は受け取ると履歴を調べ始めた。
「それは……ふぐぅ! ふぐっ!」
「邪魔しないでね?」
 五月蠅くなりそうなおやじの口をふさいだのは鳳明だ。
「あった。これですね」
 見つけたティセラの番号に掛けてみる。
 3回ほどコール音が鳴ったところで、電話に出たような音がした。
「………………はい」
 たっぷりの間をおいて、ティセラの声が聞こえてきた。
 その間からおやじをどれだけ嫌がっているかがうかがえる。
「おやじ……いや、シャガではありません。樹月刀真と申します。直接会って聞きたい事があります」
「……はい、そうですかって簡単に出向くわけありませんわ。話しがそれだけでしたら失礼――」
「待って下さい! では聞きたい事があります」
 切ろうとしたティセラに刀真が食い下がる。
「……なんです?」
「何故女王になりたいんですか?」
「決まっていますわ。テロにも負けない強固な国を作る為ですわ」
 刀真は納得しきれていない表情をしていたが、次の質問へと移った。
「星剣は特定の条件を満たした人は全員使えるのですか? それとも貴女だけが全て使えるのですか?」
「剣の花嫁でしたら誰でも使えますわ。ただ……星剣の持ち主になるのでしたら、持ち主を殺す必要がありますわ。剣の花嫁でしたら自分の光条兵器は体内に戻す事が出来ますから。勿論、わたくし達十二星華でしたら複数の所有が可能ですわ」
(ホイップのは特殊で、封印しているものがある間は体内に戻すことが出来ないのですが……教える義理もありませんわね)
 ティセラがもう用が無さそうだと、切ろうとするのを月夜が電話に出て止めた。
「シャガは色々と問題があって協力者としては適当でない気がするんだけど……何であの人なの? まさか気に入ってる?」
「協力者を選ぶ事などしませんわ。自分の仲間であるのなら助けるのは当然です」
 そう言うと、今度は本当に電話を切ってしまった。
 質問が終わり、色々な情報を胸に一行は空京へと向かって行った。
 おやじはきちんと縛られ、連行されている。

■□■□■□■□■

 グラン達は先に空京の宿屋へと着いていた。
 ホイップの部屋へと入るとそこでは準備万端整っていた。
「早く調合を開始しようぜ」
 アレクセイがグランの背中を軽く叩いた。
「わたくしも、簡単な手伝いなら出来ると思いますわ」
 ミラベルもグランの近くへと寄った。
「皆さん、宜しくお願いします」
 グランはそう言うと、調合の説明をしていく。
 行く途中で、調合の事を聞いていたファルと輪廻が説明の手伝いと補足をし、調合は開始となった。

「中々面白いじゃないか」
 大佐は調合の材料を見て呟いた。
「これってもう混ぜちゃって良いの?」
 蒼が青い液体を火に掛けている鍋の中へと入れようとした。
「待った!」
 慌てて、大佐が止める。
「ほえっ?」
「ふぅ……爆発させる気か」
「わわわっ!」
 蒼はびっくりして持っていた瓶を落としそうになる。
「結構、慎重さが必要である。言うとおりに調合していくのであるよ」
 大佐は冷や汗をぬぐい、少しずつ蒼に指示を出していった。

「なあ、グラン」
「はい? なんでしょう?」
 計量中のグランにアレクセイが話しかけた。
「この薬は借金魔女……ホイップにしか効かないのか?」
「そうですね……この薬は石化する薬を飲んだホイップちゃんにしか効きません」
「他の人が石化薬を飲んだ場合は?」
「分かりませんが……多分、ホイップちゃん限定だと思いますよ? 間違えて他の人が飲んでも大丈夫なように作っていたはずですから」
「そうか」
 会話が終わると、調合へと集中していくのだった。