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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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第7章


 朝には変わりはないが、太陽はもう地平線から完全に顔を出している時間だろう。
 それでもジャタの森付近では陽が差してくることはない。
 分厚い雲からは大量の雨が降り出していた。
 風も強くなりだしている。

 ホイップの杖があった場所は台風の目となっている為、周りは酷い状態なのに、ここだけは被害が少なくなっている。
 そこにいるのはアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)ソロモン著 『レメゲトン』(そろもんちょ・れめげとん)だ。
「さあ、我が主よ! 今こそ我を開け!!」
 レメゲトンの本体からソロモン72柱の中のウガリット神話では嵐と慈雨の神とされているバアルを探しだし、確認する。
「必要な情報は得た」
 そう言って本体を閉じるとアルツールは杖のあった辺りに魔法陣を描いて行く。
「本当に出来るのか?」
「一応、私は儀式魔術学科の教師だよ。封印の儀式くらいは一人でやってみせるさ……恐らくあまり長くは持たないがな。」
 魔法陣が完成するとバアルの幻影が飛び出したが、封印自体は失敗してしまった。
「やはり、この台風は強すぎる。よくホイップ君はこんなものを……うまく生き残れたら、ホイップ君に中古の箒でもプレゼントしてやろうか」
 アルツールはぽつりと呟くと、他に出来る事を探しに行ったのだった。

■□■□■□■□■

 台風対策本部では珠樹がみんなの前で確認をしていた。
「台風の上空と地上の気温差を周囲と同じ程度にして上昇気流を止め、水蒸気の吸い上げによるエネルギー供給を断ちますわ。そのために、氷術などで地表近くの気温を下げる作戦がメインですわ。短期決戦のため、上空からも温めますわ」
 皆、頷く。
「では開始ですわ!」
 その言葉でイルミンスールの生徒も、他の生徒も皆、外へと飛び出し台風へと向かって行った。

「まだ急激な変化はなしですね」
 台風の中で監視を続けているのは幸とメタモーフィックだ。
 突如、突風が吹き目を閉じる。
「ママ危ない!」
 風に飛ばされて来た倒木が幸を直撃する前にメタモーフィックが気づき、雷術で進路をずらした。
「ビリビリやだぁー」
 雷が不得意な為に自分の雷術で作った雷で泣きだしてしまった。
「フィック、大丈夫ですよ。私がついてます」
「うん……」
 幸が優しく言うと、メタモーフィックは泣きやみ、また幸に近づこうとする物を警戒し出した。
「エルと陣が頑張ったんです。私も出来る限りのことはやりますよ」
 幸は中心部手前まで移動して急激な気圧の変化がないかチェックをしに行ったのだった。

 台風の外側ではすでに到着したイルミンスール生が氷術を使い、地表を冷やしている。
「ちゃんと暖かい格好してる? 台風をなんとかする前に自分が倒れたら意味ないからね!」
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)はイルミンスール生に言いながら自分は危険な台風の中央部へと走って入っていく。
 中央までくると足を止め、周りに気を付けながら氷術を発動させ、地表を冷たくしていく。
「暴風に吹っ飛ばされんなよ!」
 近くで声を掛けてきたのは実だ。
 実も中央で地表を冷やしている。
「そっちもね!」
「おうっ!」
 2人は互いに励ますと自分の持ち場を離れることなく仕事をこなしていく。

 メイコ・雷動(めいこ・らいどう)マコト・闇音(まこと・やみね)も中央に来ていたのだが、他の動きとはちょっと違うようだ。
「もしかしたら5000年間、台風と一緒に封印されていた精霊がいるかもしれない! そいつと契約出来ればこの台風も弱まる! まこち、そっちはどう!?」
 メイコは台風の中を色々調べながらマコトに話しかけた。
「ダメだな。誰も出てくる気がしない」
 マコトは隠れ鏖殺寺院の同志に連絡をしていたのだが、台風の対策に出てくる者はいなかったようだ。
「そうか」
 メイコとマコトはそのまま精霊を探し続けたが、精霊は残念ながらこの台風の中にはいなかった。

 台風の外側。
 商人のタノベさんにお願いして取り寄せてもらった簡単なロケットを取り付けた飛空挺と箒で閃崎 静麻(せんざき・しずま)達は台風の上空へと向かおうとしていた。
「そんじゃ、素敵なドライブへ――」
「そのドライブ、わたくしも連れて行っていただきますわ」
 静麻が出発しようとした直前、話しかけてきた者があった。
「やっばいお客さん登場だな」
 静麻はトミーガンを構えた。
「軽口を叩いている場合ではありません」
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が隣で雷術のスタンバイをする。
 後ろにいたのは箒に乗ったティセラだった。
「こんな大所帯のドライブに参加だなんて、何が目的なのかしら?」
 神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)がティセラへと質問する。
「別に、戦いに来たわけではありませんわ。お望みならそうしますけど、今はそれどころじゃないのでは?」
 確かにティセラの言うとおり、一刻も早く上空へと上がり台風の上空を暖めたいところなのだ。
「わたくしにもそのロケットを貸して……いえ、いただきますわ」
「ティセラも……お手伝い?」
 閃崎 魅音(せんざき・みおん)は静麻の背中に隠れてそう問う。
「ええ、そうですわ。ですから早くなさって。それとも無理矢理奪われたいんですの?」
 ティセラは殺気を出し、威嚇する。
 静麻は予備のロケットをティセラに手渡した。
「それで良いのですわ」
 そう言うと、ティセラはロケットをマッシュから借りてきた箒に取りつけ、さっさと台風の上空へと行ってしまった。
「一体……どういうことなんだ?」
 静麻達4人も呆然としているわけにはいかないとすぐに気が付き、台風の上空へと上がって行った。
 上空へと上がるとティセラが爆弾を放り投げては自分の剣圧で爆発を起こさせ、上空を熱しているのが見えた。
 爆弾はきっとおやじ特製のものなのだろう。
 爆風で少しずつだが雲が薄れてきているようにも見える。
「負けてられませんね」
 レイナはさっそく火術を使用し、魅音、プルガトーリオも火術で暖めて行く。
 途中、静麻がSPリチャージで回復をしていた。

 1時間後。
 雲は分厚いものではなく、白く清らかなものへと変わっていた。
 封印されていた杖の穴からは最後にもの凄い突風が吹いたが、それ以上は何も起こらなかった。
 事が全て終わったのを確認するとマコトはメイコにも告げずに帰って行った。
 ティセラもその存在は結局、静麻達4人にしか確認されておらず、いつの間にか去っていたのだった。

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「なんで逃げ惑っている人達を一網打尽にしないんですかね」
「さあな」
「せっかく情報渡して、箒まで貸したっていうのに……ねぇ、シャノンさん?」
「……」
 事の成り行きを見ていたマッシュとシャノンもどこかへと去って行った。