波羅蜜多実業高等学校

リアクション

chapter.11　権力の証明　


　ナガンの言葉通り、船の外はつい今しがたまでなかなかの混戦模様となっていた。が、それもヨサークがセイニィを打ち倒したことで一段落し、小競り合いは収束に向かい始めていた。
「やったな頭領！」
　セイニィを追い払うことに成功したヨサークに、ラルクが駆け寄って声をかける。すると、ラルクばかりでなく周りからも、ヨサークへ称賛の声が送られ始めた。
「あの空賊狩りを、倒しちまった……！」
「ヨサーク、あんた、そんなに強いヤツだったのかよ」
　その声は次第に大きくなっていった。尊敬の念か畏怖の念か、彼は瞬く間に空賊たちに祭り上げられていた。その光景をチーホウやスピネッロなどの有力空賊は快く思ってはいなかったものの、彼が空賊狩りを倒したという事実、そして周りで起こっているこの盛り上がりを前にして認めないわけにもいかなかった。

　彼らのそんな様子を見て、船からゆっくりと外へ出てきたのはザクロだった。
　追い風を背に受けた彼女は、はためく着物の袖を押さえながらヨサークのところへ向かって歩を進める。小型飛空艇から降り、自身の船の甲板に立っていたヨサークの元まで辿り着くとザクロはその隣に立った。そして、扇をゆっくりと扇ぎながら空に散らばっている空賊たちに告げた。
「あんたたちも今見てて分かっただろうけど、あたしはこのヨサークの旦那が一番空峡をまとめるのにふさわしいと思うねえ」
　そこに、異論や反論は返ってこなかった。
「どうだい、あんたたちもいっそこの旦那の空賊団に入ったら。力を合わせて大きな空賊団になっちまえば、きっとあの酒場もこの空も、もっと楽しくなる気がしないかい？」
「おめえ……」
　隣で空賊たちに呼びかけるザクロを見て、ヨサークはそれだけを呟く。
「蜜楽酒家で何人もの空賊を見てきたあたしのお墨付きだよ、さあ、どうだい？」
　ザクロが返答を促すと、空賊たちは最初こそ黙っていたものの、ひとり、またひとりとヨサーク空賊団の傘下へと下り始めた。あっという間にその規模が拡大されていくのを、ヨサークは満更でもないといった表情で眺めていた。

　そこに、遅れて駆けつけた幾つかの小型飛空艇が着陸した。元団員たちを連れてヨサークを追いかけてきた梓たちと、ヨサークに会って言葉を交わすため彼らとは別でカシウナへと飛空艇を走らせていたさけのものだった。
「え、頭領……」
「ヨサーク……さん？」
　急ぎ彼の元へ戻ってきた元団員、梓、さけたちがそこで目にしたのは、船の甲板をずらりと囲む数多の空賊たちを従えているヨサークだった。その手には、あの女王器も握られている。大空賊団へと変貌を遂げた組織、その頭としてヨサークは、強大な権力者としての風格を漂わせていた。隣ではザクロがヨサークに寄り添い、艶気のある微笑みを向けている。
　覆いかぶさった夕日は、まるで秘めごとをつくるかのようにふたりに影をまとわせた。