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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-1/3

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【十二の星の華】空賊よ、星と踊れ-ヨサークサイド-1/3

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chapter.5 4日目・ロスヴァイセ家襲撃計画 


 朝日が酒場の窓から差し込む。蜜楽酒家は眠ることなく、書き入れ時ほどではないにしろその店内のあちらこちらに人を散りばめていた。その合間を、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が通り抜けていく。彼は抜けていった団員を探すためいち早く行動を起こしていたが、探すのに手間取り今日まで見つけられずにいた。しかしそれはもっともな話で、これまで元団員を探していた他の生徒たちと違い、彼は全くと言って良いほど団員たちと面識がなかったのだ。頼りは他の生徒や客から得た情報のみである。そんな彼を助け、共に団員を探していたのは佐伯 梓(さえき・あずさ)だった。
「悪いな、助かった」
「やー、俺ひとりで団員さんたち探すの大変だし、俺の方こそ人手増えて良かったよー」
 昼間や夜ほど人でごみごみしていないこともプラスに働いたのか、彼らはここでようやく元団員を発見するに至った。カウンターに瓶を並べて突っ伏していたのはレッタスという、ネギーとふたりで舵取りを担当していた男だった。
「……これじゃ聞きたいことも聞けないな」
 静麻がぽつりと呟くと、彼や梓と共に捜索を手伝っていた静麻のパートナー、神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)がすっと前に出て、水の入ったコップを差し出す。
「あらあら、随分酔っちゃって。これをお飲みになって」
「ん、んん……」
 目を擦りながらコップを受け取り、一気に水を飲んだレッタスはぼんやりした目で生徒たちを見る。
「君たちは……誰だい? ん? そっちの坊やは見たことあるな……」
 梓の方を見たレッタスが記憶を辿るように言うと、梓が少し顔を綻ばせて返事をした。
「雑用してた俺のこと憶えててくれたんだー、嬉しいな。あ、でも今はそんなことよりさ、聞きたいことがあるんだー」
「俺も聞きたいことがある。済まない、先に聞いても良いか?」
 静麻は「この後行くところがあるんでな」と簡単に理由を述べると、梓も特に不満を抱かず素直に出番を譲った。
「なあ、どうして空賊団を離れたんだ?」
 それはおそらく、梓も聞きたかったであろう質問。しかしレッタスは、少し黙った後歯切れの悪い口調で「どうして、って……」と言葉を濁す。
「もう一杯お水、いる?」
 プルガトーリオが促すと、レッタスは軽く首を横に振りその口を開く。
「最初は、ちょっとした家出感覚だったんだよ。女の人と仲良くしてたからちょっと拗ねてただけだったんだ。けどいつの間にか、ここまでねじれちゃって……」
「……そうか。少し話題を変えるか。酒場で噂になってる例の襲撃事件だが、日時などはもう決まっているのか?」
「襲撃……? ああ、アレは本当なのかい。俺は空賊団入ってないし、参加しないつもりだったからそのへんは知らないよ……」
「ということは、仮に襲撃が本当にあるなら、少なくとも襲撃はいくつかの団体が行おうとしているってことか。矢継ぎ早な感じに悪いが、次の質問をさせてもらう。あのザクロという芸者については、何か知らないか?」
「ああ、あの芸者さんね……一度話しかけられたことがあったけど、確かに綺麗な人だった。でも、別にじっくり話したってわけじゃないから特にあの人について知ってることはないよ」
「ヨサークとは何度も話しているのに、その船の団員には一度しか話しかけなかったのか……まあ、そこに深い意味はないのかもな」
 静麻は自分に言い聞かせるように言葉をしまうと、不躾に質問をぶつけたことを詫び、最後に「そうだ」と思い出したようにレッタスに尋ねた。
「もしまたヨサークに会って、それがあんたたちのよく知ってるヨサークだったら……もう一度、彼の元で働きたいと思うか?」
「まあ……たぶん、そう思うかもしれないね」
 その答えを聞くと静麻は小さく笑って「そうか」と呟くと、念のため周囲を見張らせていたもうひとりのパートナー、服部 保長(はっとり・やすなが)を呼び寄せた。
「話し合いが終わったのでござるな。警戒は常にしていたものの、異変はなかったでござるよ」
「そう簡単に尻尾は出さないか。まあいいさ。一通り聞きたいことは聞けた。あとはフリューネのところに向かう……と、その前に、ふたりには頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「この酒場に、ちょっとした噂を流して欲しい」
 そして静麻はふたりのパートナーに詳細を説明すると、フリューネのところへとひとり向かっていった。後に残された保長とプルガトーリオは、指示通りに動き始めた。残された梓は、レッタスの説得を懸命に続けるのだった。



 昼を過ぎ、喧騒に包まれている蜜楽酒家。
「もう3日後には、ロスヴァイセ家をしゅうげ……んっ!?」
 思わず大声を出しそうになった久世 沙幸(くぜ・さゆき)の口を、藍玉 美海(あいだま・みうみ)が慌てて塞ぐ。
「沙幸さん、その言葉は大きな声で出さない方が良いですわよ?」
「あ、そっか……ありがと、美海ねーさま」
 数日前からここに来ていたこのふたりは、酒場に入った時からその異様な空気を感じていた。聞けば、ロスヴァイセ家を襲撃するという噂があちこちで流れている。その真偽を確かめるため、この数日間ふたりは聞き込みを行っていたのだ。そして、沙幸はそれが事実であることを耳に入れる。同時に、その詳細も。先ほど彼女が言いかけたのはおそらく、そのことに対しての驚きの言葉だったのだろう。
「それにしても、ユーフォリアさんが療養中って聞いてたからお見舞いの食べ物でも持っていこうと思ってただけなのに、こんなことになってるなんて……」
「フリューネさんの好みは知れましたけれど、知りたくないことまで知ってしまいましたわね」
 元々沙幸は、ユーフォリアに何かお見舞い品を持っていくだけの予定だったらしい。が、彼女の好みを知らない沙幸は、同じ血筋であるフリューネの好物を持っていけば、ユーフォリアも気に入ってくれるかもしれないと予想した。しかし沙幸は、フリューネの好物も知らない。そこで、美海と共にこの蜜楽酒家に来たのだった。フリューネの好物はマダムからすぐに聞くことが出来たが、良からぬ噂話を聞いてしまったせいですぐにフリューネのところへ行くわけにもいかなくなってしまっていた。
「美海ねーさまが集めてくれた情報、もう1回聞いても良いかな?」
 噂話を聞いてから集めた情報を、ふたりは整理し始めた。
「そうですわね。まず日取りは、先ほど沙幸さんが言いかけた通り、今日から3日後、と言ってましたわね」
「もう、そんなに時間がないんだね……もっと早く日取りを知れたら、すぐにフリューネさんのところに駆けつけたのに」
「次に、襲撃に向かう主な空賊団ですけれど、わたくしたちが聞いただけでも結構な数がいましたわね」
「確か、4つくらいの空賊団が一斉にカシウナに向かうって話だったよね」
 沙幸は確認するために、聞き込みを行いながら美海が取っていたメモを見た。そこには、この蜜楽酒家――いや、タシガン空峡でもそこそこ名の通っている空賊たちの名前がずらりと並んでいた。沙幸はそこに書いてある名前を読み上げる。
「ええっと……この名前の前についてるのが異名かな? なんか、強そうな人がいっぱいだね……『伏撃』のソルト『横綱』のモンド『黒猫』のミッシェル、そして『歯肉炎』のデンタルかぁ……」
「……何だか、あまり強くなさそうな方も混じっていますわね」
「でも美海ねーさま、名前だけじゃ分かんないよ! もしかしたらとってもつよーいヤツなのかも!」
「まぁ、いずれにしてもこの方たちが一斉にロスヴァイセ家を襲撃したら、まずいことになりますわね」
 沙幸と美海は目を合わせ同時に頷くと、蜜楽酒家の出入り口へと向かった。
「そう言えば沙幸さん。ロスヴァイセさん方へのお見舞いの品はもう準備していますの?」
「……あっ、まだ買ってなかったよ! どうせここからなら半日あれば着くみたいだし、途中でどこかに寄っていって買ってってもいいかなぁ?」
「そうですわね、せっかく沙幸さんがお聞きになった大切な情報ですもの」
「けど、うーん。このあたりで餃子の美味しい場所ってあったかなぁ……?」
 フリューネは餃子が好物。それが、沙幸が得た情報だった。ふたりはタシガン観光マップを広げて、美味しい餃子のお店を探し始めるのだった。

 沙幸と美海以外にも、襲撃情報を集めている者はいた。
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)もまた、沙幸たち同様数日前からここで不穏な空気を察し、情報収集に徹していたのだった。万が一を考えブラックコートで気配を周囲に馴染ませながら超感覚で酒場内の会話を拾っていたリュースは、数日かけて沙幸たちが聞き漏らした襲撃者のリストを作成することに成功していた。
「どうにも、野蛮な名前が並んでいますね……」
 小さな声で呟く。そこに書かれていた名前は、先ほどの美海のメモに匹敵するくらい名の通った空賊たちのものであった。
『血まみれ』のスピネッロ『火踊り』のププペ『青龍刀』のチーホウ、そして『食いしん坊』のシューゾですか」
 一部に疑問は残るが、そのほとんどが屈強そうな異名の持ち主である。疑問、といえば。リュースはふと思い返す。ヨサーク空賊団が解散したことを。彼は酒場の雰囲気だけではなくそこにも違和感を覚えたが、あえてそこに深く触れることはしなかった。
「おそらく、そっちの方はオレ以外の色々な人たちが調べていることでしょう。オレが今すべきは、この情報を持ってロスヴァイセ家に赴くこと……」
 そう、彼もまた、沙幸たち同様ここで得た情報のメッセンジャーになろうとしていた。と、その時リュースは、酒場に見知った顔を見つけた。否、見知った顔どころではない。
「あれは……陣くん」
 その視線の先にいたのは、彼の親友である七枷 陣(ななかせ・じん)だった。陣はパートナーの仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)と何やら揉めているようだった。
「だーかーら、何回言えば分かるんよ? 夜に甘いもん食ったら、虫歯になるに決まってるやろ」
「小僧、お前と一緒にするな。私はこまめに歯を磨いているのだからセーフだろう」
 なぜかふたりは、歯のケアについて言い争っていた。そのままふたりはマダムのところに向かい、それぞれコーラとコーヒーを注文する。
「小僧、コーラなんぞ飲んで良いのか? 歯が溶けても知らんぞ」
「そんなもん都市伝説やって。磁楠こそ、そんなんばっか飲んで歯が変色しても知らんからな」
 彼らも、沙幸やリュース同様少し前からここにいたのだが、ずっとこの調子で痴話喧嘩を繰り返していた。もちろんそれだけではなく、方々から噂を聞いてはそれをボイスレコーダーに録音し、襲撃情報の信憑性を高めていた。そうしてレコーダーに音声データを入れた陣たちは、次にザクロへとその足を向けた。人気者ならば様々な情報を持っているだろうというのがひとつ、なんかエロいというのがもうひとつの理由だった。
「舞子さんみたいな衣装やね。あんた日本人? つか、地球人?」
 早速コーラを片手にフランクな感じで陣が話しかける。ザクロは突然の質問にも、笑って答えた。
「日本人……って言いたいところだけど、期待にそえなくて悪いねえ」
 和服の裾をくい、と軽く引いてみせながら言うザクロの色気ある仕草に、一瞬陣は視線を泳がせたがすぐに戻し、再度問う。
「てことは、パラミタの住人か? 種族は?」
「ふふ、がっつく男は女に嫌われちまうよ。あたしがゆる族って言ったら、信じるのかい?」
「あのなあ、オレは真面目に……」
 真っ直ぐにその瞳を向けてくる陣に、ザクロはあくまで軽い調子で返答する。
「冗談が通じない男も好かれないかもねえ。あたしは剣の花嫁だけど、坊やのその調子じゃ信じてくれそうにないねえ」
 剣の花嫁。その単語を聞いただけで、陣は充分だった。もちろん目の前の女性が嘘をついている可能性もある。が、どちらにせよそれは警戒に足るものだった。
「あのツンデレの……仲間か?」
 用意していた質問ではあったものの、陣の口は自然にその言葉を出していた。ザクロは軽く首を傾け、「誰だい?」と尋ね返す。
「金髪で、ツインテールで、つり目で……胸がちょっと残念な女だ」
 そこまで聞くとザクロは、「あぁ……」と小さく首を上下させると、着物の袖を口元に近づけて口を開いた。
「十二星華のことだね? 坊やが言っているのは」
「あんたも、そうなのか?」
「ふふ、事情は知らないけど、坊やの様子を見る限り、その金髪の十二星華は大分嫌われてるみたいだねえ。その仲間に見られるのはあまり良い気分じゃないけれど、坊やがそう思ったならそう見ても構いやしないよ」
 掴み所がない。陣は思う。十二星華という言葉自体は、色々な情報が入ってくる立場なら知っていても何もおかしくはない。しかし問題は、そのひとりと疑われた時、否定もせずはっきり肯定もしない点だ。なぜ、そこを濁す?
「小僧」
 ザクロに聞こえぬよう、磁楠が小声で囁く。
「もう襲撃に関する情報は充分集まってるはずだ。そうだろう?」
 磁楠のそれは、ここから早く去るぞ、と言っているようにも聞こえる。陣はそれを察し、早々にザクロに別れを告げると酒場の外へ出た。
「磁楠、もう少し話せばもっと何か分かったかもしれんのに」
「あそこまで掴み所のない者相手にあれ以上は、のれんに腕押しだ。それに、警戒はするに越したことはないであろう」
 磁楠はザクロの微笑みを、額面通りには受け取っていなかった。
「あれは、十二星華と自称したようなものだ。十二星華なのだとしたら、何かしらの力に特化した存在の可能性が高い。たとえば……情報を集める力であったり、誰かを操作する力であったりな」
 もちろんそれは推論に過ぎない。が、あながち有り得ないことではないな、と陣も思う。もっとも、それら全てが憶測である以上、今確実に分かることはザクロのことではなく、ロスヴァイセ家襲撃のことだった。
「陣くんも、襲撃の情報を得たんですね」
 ふたりが外で話していると、酒場から出てきたリュースも会話に加わった。襲撃者のリストと、襲撃を裏付けるボイスレコーダー。これで、このふたつのアイテムが揃った。彼らはフリューネにこの危機を伝えるべく、これらを携えてカシウナへと向かった。
「……ところで、カシウナの場所俺ちゃんと分からんけど」
「オレも、大まかな位置しか……」
 向かったは良いものの、彼らが到着するまでには少し時間がかかりそうである。

 その一方で、逆にカシウナから蜜楽酒家へと来た者もいる。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、フリューネに女王器に関することを尋ねた後、この酒場を訪れていた。店内に足を踏み入れた真人が最初に気付いたのは、空賊たちの殺気だった。真人は慌ててマダムのところへと駆け寄り話を聞く。どうやら3日後に、ロスヴァイセ家襲撃という計画が立てられているらしいとのことだった。
「止めたいのは山々だけど、この店をたたんじまうわけにもいかないのが辛いとこだよ」
 そうぼやくマダムに真人は、先日自分が出てきた時のロスヴァイセ家の様子を思い起こす。
「ま、今あそこには腕の立つ猛者が多くいるでしょうから、油断さえしなければ倒されることはないと思いますよ」
 が、その直後真人は襲撃者の規模を知り、一抹の不安を覚えた。同時に、自分がその地を離れこちらに来てしまったことに少しの後悔も。
「しかし、なぜそんな行動に……」
 真人はいまひとつ解せなかった。この空峡のようにある程度無法が通る地ならともかく、カシウナはツァンダ沿岸部の都市だ。そこで事件を起こせば大問題に発展するし、女王器が絡んでくるならクイーンヴァンガードだって黙ってはいないだろう。そうまでして襲撃をするメリットは?
「もしや、誰かがこうなるよう仕向けたということは……いや、難しく考えすぎですかね。とりあえずもう少し話を聞いてみないことには、何とも言えませんね」
 そして真人は、酒場の客に聞き込みを始めた。



 夜を迎え、ますます人口密度の増える酒場。
 団員を探そうとその人ごみの中をうろつくヨサークに、声がかかる。
「よお、おまえがヨサークか? 聞いたとこによると、なかなかでかい空賊団持ってたらしいな。ま、今は違うみたいだけどよ」
 目つきの悪そうなその男は、アルゴ・ランペイジ(あるご・らんぺいじ)。彼はある目的のため、ヨサークに声をかけた。
「いきなりで悪いんだけどよ、この写真の男知らないか?」
 アルゴはヨサークに一枚の写真を見せた。そこには鬼面の男が写っている。
「……誰だ? これ」
「そうか、それなりの規模の空賊だったら色んな情報に聡いと思ったが……残念だ」
 アルゴ曰く、この写真に写っているのは追いかけ続けている「仇」なのだそうだ。空賊など、真っ当とは言えない職に就いている者なら裏情報を得られないかと思ったアルゴだったが、ヨサークはその写真に見覚えがなかった。が、アルゴの「仇」に対する執念は凄まじく、二段構えでの体勢だった。
「今アレだろ?空賊団入るヤツ探してんだろ? よし、俺も入るぞ。その代わり、仇探しに協力してくんねぇか。あぁ、もちろん協力っつっても、この写真の男を見かけたら俺に教えてくれるだけで良い」
 アルゴの二段構えとは、知っていれば良し、知らなくても恩を売れれば良しというものだった。ヨサークにとって仇を探す協力など余計な手間以外の何物でもなかったが、今は非常事態である。手間などと言ってはいられない。何より、男であるなら拒む理由はどこにもないのだ。
「おう、分かった。出荷アンド入荷ってヤツだな」
 きっとギブアンドテイク的なことを言いたかったのだろう。ヨサークは協力する代わりに、新たな団員を得た。と、もうひとり、入団希望者が彼の元へと現れる。ヨサークと酒を飲み交わしたこともある、椿 薫(つばき・かおる)だった。
「待つでござる! 拙者も入隊するでござるよ!」
 息を切らしながらやってきた薫。彼もまた、人手が足りないという話を聞き駆けつけたひとりだった。
「おめえはあの、のぞきなんたらとかいうメール送ってきたヤツだな!」
 そして、自分の部活動の勧誘もちゃっかりしていたひとりだった。ヨサークに覚えられていたことを少し喜びつつ、薫は言う。
「旅は道連れ、世は情けでござる。人が増えて、みんなといれば楽しくなれるでござるよ」
 それは、彼なりに空賊団が解散して気持ちが沈んでいるであろうヨサークへの励ましのメッセージだったのかもしれない。ともかく、既にヨサークと顔見知りである彼の入団を、ヨサークが拒むはずもなかった。唯一気になるのは、入団し船に乗り込んだ薫の手に、数多の入浴剤が握られていたことである。現時点でそれが何に使われるかは、本人以外誰も知らない。

 ロスヴァイセ家襲撃まであと3日。
 新生ヨサーク空賊団、現在7人。