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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

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ミリアのお料理教室、はじまりますわ~。

リアクション

「まさか……まさか年下のエリザベート校長より貧相など……認めません、認められません!」
「諦めるですぅ。元より私とあなたとでは格が違うですぅ」
 崩折れる赤羽 美央(あかばね・みお)の前で、ぺったんこの胸を張ってエリザベートがふんぞり返る。
「……いいえ、それも今日で最後です! この場にはまるで見たこともない食材が並んでいます。それを使えば貧相じゃなくなる料理だって作れるはずです! お二人もそう思うでしょう?」
「うーん、どうかな? あたしはちょっと、そこに並んでる皮とかキノコとか危なそうだし……」
「私も遠慮しておきます。何が出来るか知れたものではないですし」
 同意を求められたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が顔をひきつらせつつ後退り、その場に来ていたミリアのところへ合流する。
「あらあら〜、じゃあ何を作りましょうか〜」
「あたし、スイーツが作りたいです!」
「私は甘い物が苦手なので……あ、プリンは別腹ですよ、ええ」
「じゃあそれにしましょう〜。さっぱり味のヨーグルトプリンと、なめらか濃厚チーズプリンなんていかがでしょう〜」
 わいわいと盛り上がりながら、ミリアとミルディア、翡翠がそれらの準備に取り掛かる。
「……………………」
「哀れですねぇ。仕方ないから付き合ってやるですぅ。ミオ、と呼び捨てにしてやってもいいですぅ」
「……て、敵の情けは受けません! 例え一人でも完成させてみせます!」
 差し伸べられたエリザベートの手を振り払って、美央が一人料理という戦場へ向かっていく。ドラゴンの皮とキノコ、美央が持参した『スカイフィッシュの干物』を一緒に鍋で煮込む。中国では漢方薬として珍重されているらしいが、空想上の生物でなかったことがまず驚きである。
「……匂いはとても美味しそうだから余計に不気味だわ」
「……そうですね。こちらも爽やかな香りがしますけど」
 ミルディアと翡翠が苦笑する中、ヨーグルト、レモン汁、砂糖、ゼラチンを入れた容器が温められ、爽やかな香りを発する。
「さあ、お次はこれです!」
 美央が『光る種モミ』と『みかん』を取り出して鍋に放る。もちろん殻ごとそのままである。
「ほら、よく料理にみかんを入れてるって言うじゃないですか」
「……それ、みりん、の間違いじゃないですか?」
 翡翠のツッコミを意にも介さず、さらに美央が『アリスの角』を削って入れ、『自称小麦粉』を振りかけていく。『妹が出現する』という効果を迷信と言い切っていることは非常に残念だし、本当に小麦粉なのかは甚だ怪しい。
「ダマにならないように注意してくださいね〜」
「……ふぅ、結構力がいるわね」
「代わりましょうか?」
 クリーム状に混ぜたクリームチーズに卵黄、砂糖を混ぜ、温めた牛乳と生クリームを少しずつ入れながら、ダマにならないようにかき混ぜていく。美央のやっていることは無視するようにしていた。
「あ、味付けを忘れてました。醤油を入れて……はい、完成です! どうですか、一人でも立派に作り上げました!」
「すごいですぅ〜、見直したですぅ〜」
 えっへん、とぺったんこの胸を張る美央を、エリザベートがよく分かってないまま感心していた。鍋の中には、どういう経緯を経たのか謎な、形容し難い色のゼラチン状の物体が蔓延っていた。容器に詰め直すと、ミルディアたちが作製しているプリンに見えなくもない。香りも何故か甘い香りがし、ぷるぷるとした感触はプリンそのものだ。
「さらば貧相と呼ばれた日々! これでエリザベート校長には負けません! 今日から私が貧相ブービー賞です!」
「ちゃっかり私をバカにしてますねぇ? それを食べてさらに貧相になってしまうがいいですぅ」
 いざ、と意気込んで、美央がプリンもどきを口にする。10秒後、1分後……しかし何も変化は起きない。
「何も起きませんよぉ?」
「そ、そんな……私の料理は失敗だというのですか……」
 再び崩折れる美央からプリンもどきを奪って、エリザベートが口にする。しかし同様、何も変化は起きない。
「こ、こうなったら色んな人に食べさせるしかないです! というわけでどうぞ」
「ど、どうぞって言われても困るわよ。何が起きるか分からないし」
「大丈夫ですぅ。私も食べましたからぁ」
「全然大丈夫じゃないと思うんだけど……」
 抵抗を示しつつも、結局押し切られてプリンもどきをミルディアが口にする。

 ぺったん。
 
「ん?」
 謎な効果音が響き、一行が一様に首を傾げる。そして、いち早く異変に気付いたのは、口にしたミルディア当人であった。

「あ、あたしの胸が……」

 わななくミルディアの、胸のあたりにあったはずの膨らみが、今はすっかり消え去っていた。
 
 説明しよう!
 美央の作った料理はその名も『ぺったんぷりん』! プッチンとやるプリンじゃないぞ!
 これを食べると、なんと『ぺったん娘』になってしまうのだ!
 効果は個人により異なるが、だいたい1日程度だ!


「誰も得しない料理の解説するなー!!」

 何やら喜んで料理の解説をしていた男性を、ミルディアが現実へ吹っ飛ばす。こんな料理は今のところ、彼しか得しない。
「……ということは、変化がなかったということは……」
「ミオ、諦めるですぅ。現実はいつも厳しいですぅ」
 美央の肩に手を当てて、エリザベートが首を振る。その表情はしかし、笑っていた。

「うわーん!」

 目から涙を流して、美央が駆け去っていく。
「あらあら〜、後片付けもしないでダメですよ〜」
「はぁ……ま、私達でやっておきましょう。その前にプリンをもう一つ……」
 一部始終を、完成したヨーグルトプリンとチーズプリンの容器を積み上げながら、翡翠がどこか幸せそうな表情で見ていたのであった。

「うお!? 梅干しだと思ったらなんだよこれ、碁石じゃねーか! 誰だよこんなの混ぜたの!」
「こっちなんて鍋から怨念のこもってそうな石が出てきたわよ! びっくりしてクラスメートが運ばれちゃったわよ!」

 カフェテリアの一角で巻き起こっている騒動を、繭住 真由歌(まゆずみ・まゆか)が愉快そうな表情で見守っていた。
「ふふ、愉快愉快。さて、次はどうしてやろうか」
 ポケットの中で火薬を弄びながら、真由歌が次の料理――もとい、悪戯を考えていると。
「あなたですね? 他人の迷惑になるようなことをしてはいけないと思います」
 牧瀬 美空(まきせ・みそら)がやってきて、真由歌を注意する。
「何のことだい? ボクがやったっていう証拠はあるのかな?」
「みんなが真剣に料理に励んでいるのに、あなたはあっちをふらふら、こっちをふらふら、遊んでいるようにしか見えなかったからです」
 美空の言葉に、真由歌が心外とばかりに溜息をついて呟く。
「失礼だなあ。ボクはいたって真剣だよ? 何なら今ここで証明してみせようか?」
「証明って、何を……きゃっ」
 突如抱きつかれ、美空が悲鳴を上げる。身長差の関係で、真由歌の頭は美空の胸の下辺りに埋もれる形になる。
「今度使うのはこれと……キミだよ」
 ポケットから火薬の入った薬莢、ライフルで使用する細長い薬莢を掴み、美空の前にちらつかせる。
「キミの煮汁はどんな味がするのかな。キミは長い方が好みかな? それとも太い方が好みだったかな?」
「な、何を言っているんですか。離れてくださいっ」
 引き離そうとするも、しがみついた状態からでは難しい。真由歌が不敵に微笑んで、料理を開始しようとする。
「こらっ」
「いたっ」
 頭を叩かれた真由歌が振り返ると、微笑んだミリアがチョップをした手を引っ込めて、口を開く。
「真由歌さん、こちらに来て一緒にプリンを作りませんか? 作ってみたら好評だったのでみんなで作ろうってことになったんです」
 あくまで微笑んだままのミリアだが、その表情からは有無を言わさぬプレッシャーが迸っていた。その逃げ場の無いプレッシャーに、ドSで通っている真由歌も流石にたじろぐ。
「……仕方ないねえ」
 真由歌が頷く、不敵な表情のままなのはせめてもの抵抗であった。
「ごめんなさいね〜。美空さんもご一緒にどうですか〜?」
「あ、はい。何か私にお手伝い出来ることありますか?」
「そうですね〜、食いしんぼさんがいるから、ちょっと張り切って作らなくちゃかしら〜?」
 微笑んで、ミリアが真由歌と美空を連れて向かった先では。
「ああ……いくらでも食べられそうですね……」
 机の周りに小皿を山と積んだ翡翠が、超感覚で生ずる黒猫の耳をぴくぴくとさせながら、満足気な笑みを浮かべていた。
「まずはこのお皿を洗ってしまいましょう〜。真由歌さん、お願いできますか〜」
「……イヤ、って言っても無駄みたいだね。仕方ない」
「あ、じゃあ私も手伝います」
 渋々とばかりに皿を運ぶ真由歌に続いて、美空も皿を運んでいく。
 そうして三人は、翡翠がプリンを食べている横で、みんなの分のプリン作製に追われたのであった。

「皆さん、お料理は出来上がりましたか?」
 ミリアの問いに、カフェテリア中から声が挙がる。今日知り合った人も仲良し同士も、手を取り合って楽しげに微笑んでいる。やはりミリアの言うように、お料理は魔法なのだろう。これだけの人数を一度に笑顔にしてしまえるのだから。
「それでは〜、皆さんが作ったお料理を、皆さんで一緒にいただきましょう〜」
「会場はこちらです、私についてきてくださいね」
 ミリアの声で、生徒たちが料理を手に、ミーミルの先導を受けてカフェテリアを後にしていく。

「くやしいのうくやしいのう、何でみんなわしを喰らわんのじゃ。わしは思わず食べちゃいたいマスコットキャラランキングに載った事もあるんじゃ」
 誰もいなくなったカフェテリアで、土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)が皿に乗り、『皇家御用達高級古代和風サラダ』と書かれた札を提げていた。南 鮪(みなみ・まぐろ)から囮になるよう指示され、いっそ開き直って料理の一つに並んだものの、当然のように全スルーされ今に至る。
「……むなしいのう。わしも行こうかのう。豊美の手料理とやらを食して、わしに比べれば泥団子じゃあとでも言ってやるかのう」
 呟いたはにわ茸が、直後、重大なことに気がつく。

「……わし、自力で動けないんじゃ」

 ひゅう、と風が吹き込む。流石、埴輪型ゆる族である。