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リアクション
「はぁ……結局あの後も失敗続きで、結局美味しい料理を作れませんでしたー……」
葵の元を離れた豊美ちゃんが、気落ちした様子でカフェテリアを歩いていると。
「あっ、豊美ちゃん! 今豊美ちゃんを誘おうとしてたんだ。ねえ、あたしと一緒に料理作ろっ?」
同じような呼ばれ方で、今度は朝野 未沙(あさの・みさ)が豊美ちゃんを料理に誘う。
「ありがとうですー。あ、今のうちに言っておきますけど、私お料理初心者ですよ?」
「大丈夫、家事のことならあたしに任せて! あたしが豊美ちゃんを優しくリードしてあげる♪」
「そうですかー。じゃあお願いしますですー」
この頃から既に発せられていたどこか邪な――本人は否定するかもしれないが――感情には全く気付かず、豊美ちゃんが未沙の言われるまま、自らが持ってきた食材を使った料理に着手する。
「まずはアワビの処理からね。アワビは塩をまぶしてから、擦って丹念にヨゴレやヌメリを取る。流水にさらしながら、たわしとか使うとキレイに取れるよ」
「こうですか? んしょ、んしょ……」
未沙の指示通りに、豊美ちゃんが細長いたわしを、塩を振られたアワビに出し入れして汚れを取っていく。
「できましたー。……未沙さん? どうして鼻を押さえているんですか?」
「ううん、何でもないよ。さ、次行こっか」(豊美ちゃんの下の口を擦る……汚れが取れるどころかさらにヌメリそうよね……うふふふふ)
頭の中の桃色妄想を必死に押し隠して、未沙が今度はウニを目の前に置く。
「ウニはこうやって手の上に乗せて、口の付いてない方にナイフを入れて回転させると……ほら、キレイに殻が割れた」
「わー、凄いですー」
「後はこうして殻から中身を取り出して……本当は産地の海水でゆすいであげるのが一番なんだけど、無いみたいだから海水と同じ濃度の塩水で代用だね」
「ぷにぷにしてて面白いですー」
ボウルに浮かぶウニを、指先でちょん、ちょんと豊美ちゃんが突つきながら、優しく包み込むように洗っていく。
「できましたー。……未沙さん? 顔が赤いですよ、大丈夫ですか?」
「……ううん、何でもないよ。さ、次行こっか」(豊美ちゃんの指がウニを突つく……優しく包み込む……もしかして豊美ちゃん狙ってやってる!? ううんそんなはずない、豊美ちゃんは発展途上の女の子なんだから!!)
一人で押し問答を演じながら、かろうじて平静を装って未沙が処理を終えたアワビとウニを置く。
「ゆすいでキレイになったウニを、擦ってキレイになったアワビの口に優しく塗り込むようにそっと入れるの。後は炭火で遠火にかけて炙れば完成だよ」
「いよいよですねー。じゃあ、入れちゃいますよー」
豊美ちゃんの指がウニを掴み、アワビの口に入れようとして、つるん、と滑らせてしまう。
「あれ? 入りませんねー」
二度、三度とつるん、つるんと滑らせた後、ようやくウニを入れることに成功する。
「入りましたー」
「…………豊美ちゃん、誘ってる? 誘ってるよね? でなきゃそんな――」
「はい?」
振り返った豊美ちゃんの顔に、入れ方が不十分だったのか、飛び散ったウニの欠片がぺと、と張り付く。
ぷつん。
瞬間、未沙の理性――まあ、元々細いような気はするものの――が切れる。
「今度はあたしが、
豊美ちゃんのアワビを料理してあげるー!」
欲望をむき出しにした未沙が、豊美ちゃんのスカートの中へ潜り込もうとする――。
「私は食べ物じゃありませんっ!」
アワビの代わりに『ヒノ』を携えた豊美ちゃんが、出力最小限の『陽乃光一貫』を下向きに放つ。放たれた魔力は未沙を床に叩き付け、顔を上げられないようにそのまま縫い付ける。
「豊美ちゃんのアワビ……うふふふふ……」
「油断なりませんねー。料理を教えてくれたことにはお礼を言いますけど、覗き見はいけませんよ?」
『ヒノ』を仕舞い、放り投げたアワビをキャッチして、豊美ちゃんが未沙を諌める。それでも彼女の頭の中では、豊美ちゃんとあんなことこんなこと……といった妄想が繰り広げられているのかもしれない。
「はぁ……お料理って難しいですねぇ……」
またも完成品を用意できず、豊美ちゃんが気落ちした様子でカフェテリアを歩く。
「豊美ちゃ〜ん!」
「豊美おねぇちゃ〜ん!」
自分を呼び止める声に豊美ちゃんが振り返ると、クラーク 波音(くらーく・はのん)とララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が手を振って豊美ちゃんを呼んでいた。
「豊美ちゃん、一緒に手巻き寿司作ろっ♪ 手巻き寿司なら難しくないと思うし、おしゃべりしながら楽しく作れると思うんだ!」
「もう波音ったら、巻くのは簡単ですけど下ごしらえはそれなりに大変なんですよ?」
口を尖らせるアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)も、板前の恰好でやる気十分である。
「さ、豊美ちゃん、どれがいい? 豊美ちゃんの持ってきてくれたウニとアワビもあるよ!」
「ララは厚焼き卵さんっ! ララねっ、厚焼き卵さん大好きなのぉ! 厚焼き卵さんのお寿司いーっぱい作るんだぁ!」
波音とララの楽しげな様子に、失敗を重ねて気落ちしていた豊美ちゃんも元気を取り戻す。
「……そうですねー。じゃあ、ウニとマグロ、イクラ、それに厚焼き卵で!」
「はいお待ちっ!」
口調まで板前のそれを真似つつ、アンナが料理クラブで鍛えた腕前を披露して手早く酢飯と具材、海苔を用意する。
「じゃあ一緒に、くーるくるっ♪」
「くーるくるっ♪」
「くるくるくるぅ!」
波音とララ、そして豊美ちゃんが海苔を敷き、その上に酢飯とお好みの具材を載せ、くるくる、と巻いていく。
「できましたー。本当に簡単ですー」
「だよねっ! はい豊美ちゃん、あたしが食べさせてあげる、あーんっ」
波音が自ら巻いた寿司を、豊美ちゃんに食べさせてあげる。
「あーん……もぐもぐ……ふふ、私が言った具材全部入ってますー」
「名付けて波音シェフの気まぐれ(?)豊美ちゃんのミラクル手巻き寿司! お味の方はどうかな?」
「美味しいですー。得した気分になりますー」
「ララも、ララもっ!」
今度はララが巻いた寿司を、豊美ちゃんに食べさせてあげる。
「もぐもぐ……厚焼き卵がジューシーですー。こっちも美味しいですー」
「豊美おねぇちゃん、ララにも食べさせてっ!」
ねだるように口を開けるララへ、豊美ちゃんが自ら巻いた寿司を食べさせてあげる。
「はむはむ……うーん、美味しいっ! 豊美おねぇちゃんのお寿司、美味しいよぉ!」
「ララちゃんいーなー、豊美ちゃんあたしもっ」
対抗するように口を開けた波音へ、豊美ちゃんが寿司を食べさせてあげる。
「……うん、美味しい! みんなで作ると美味しいねっ!」
「たくわんとお吸い物もありますからね」
アンナも楽しげに準備を進め、そして一行は楽しい料理の時間を過ごしたのであった。
「手巻き寿司覚えましたよー。これでバッチリ作ってあげられるですー」
自信をつけた豊美ちゃんが歩いていると、視界にミーミルと何やら話をしている宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が映る。
「あら豊美ちゃん、いいところに来たわ。実はミーミルも魔法少女だって聞いたのだけど本当かしら?」
「えっ!? あ、あれはその、エイプリルフールのことなので――」
「……私、魔法少女じゃなかったんですか?」
ミーミルがひどく気落ちした様子で、涙の滲む瞳を豊美ちゃんに向ける。
「うぐ…………わ、分かりましたー。ミーミルさんも今日から魔法少女です!」
「やった♪」
「よかったわね、ミーミル」
途端に元気になるミーミルに、豊美ちゃんは果たして言ってしまってよかったのだろうかと後悔の念を抱くのであった。
「それじゃミーミル、私が魔法少女の何たるかを教えてあげる」
「はい、よろしくお願いします、祥子さ……いえ、【魔法少女えむぴぃサッチー】さん!」
しゃんと背筋を伸ばして祥子の話に聞き入るミーミル、どうやら豊美ちゃんの後悔は時既に遅し、なのかもしれない。
「母様がごめんなさいねー。お詫びってほどでもありませんけど、料理を楽しんでいってくださいな」
「お口に合うかどうか分かりませんけど、お酒も用意していますわ」
調理場から同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が新鮮な海産物の刺身を、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が自らにとっては思い出の『黄金の蜂蜜酒』を手に現れる。
「……そうですねー。料理は仲良く楽しく、ってミリアさんも言ってましたからねー。じゃあ私も、仲良く楽しく加わらせてもらいますー」
祥子とミーミルの前に料理を置いた静香とイオテスに頷いて、豊美ちゃんも二人の会話に参加する。直ぐに、魔法少女な三人の魔法少女な会話が繰り広げられる。
「楽しくしてもらえると、作る側としても嬉しくなりますわね」
「ふふ、そうですわね。静香さん、次は何をお作りになるのかしら?」
「そうですわね、では、アーデルハイト様のキノコでダシを取って、水炊きを用意しましょう。わたくしは水炊きに入れる具材を取ってきますわ」
「ではわたくしは、アーデルハイト様とカヤノ様にキノコと新鮮な水を頂いてきましょう」
互いに確認し合って、静香とイオテスがそれぞれの目的を果たしに向かっていく。
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