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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(後編)

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 13.エピローグ
 
 学生達の活躍により、事件は解決した。
 そして司達が持ちかえった「解呪薬」により、オルフェウス、ルミーナ、その他蝋人形化した人々も元の姿に戻ることが出来た。
 もちろん、分校長やシイナの体調も。
 
 ■
 
「ありがとう、ありがとう! 皆!」
 シイナはナナを抱きしめて、言葉を詰まらせた。
「ナナを、無事にナナを返してくれて! こんなに嬉しいことはない。皆のお陰だ!」
「シイナ、ナナは蝋人形から元に戻ったばかりなのよ! そんなにきつく抱きしめちゃ駄目だって!」
 パシッと、美羽がハリセンでツッコむ。
 けれどシイナはやめない。
「ありがとう、美羽、皆!」と幾度も頓珍漢な答えを繰り返す。
 
 そして一行はまず、シイナや分校長をはじめとする野原キャンパスの関係者達から、深く感謝されたのだった。
 
 ■
 
 平和が戻ったリトルブレーメンでは、ひと騒動が起きていた。
 町に町長と町長夫人を連れ戻したレンが、町民達の前でいきなり町長を殴り倒したのだ。
「分かるか?」
 レンは拳を見つめて言った。
「これは、おまえさんに裏切られた、町民達の痛みだ!」
 だから、とレンは宣言した。
「俺は町長に立候補する。そして地球人への不信と、町長という役職への不信を払拭して、町の人々を守るつもりだ」
「レンさん……」
 彼を支持する元【町民討伐隊】の面々は、ワッと歓声を上げる。
 誰もがこの交代劇を妥当だと考えた、その時。
「でも、それでいのかな?」
 スイッと2人の間に割って入った青年がいた。
「オルフェウス!」
 女性達の黄色い声が飛ぶ。
 けれど彼の次の言は、女達の甘さを帳消しにしてしまうほどの「棘」があった。
「町長だけのせいじゃない。いつか誰かが何とかしてくれる――そんな町の人々の姿勢が、この事態を招いたんじゃないのかな? だからキミという保護者が出来れば、また歴史は繰り返されて、キミが失態をすれば、またこの町の人々はすべて悪いのは『よそ者』の所為にするよ。キミは、それでいいのかい?」
「…………」
「それに『町長』のことも。彼は、曲りなりにも町の人々が選んだんだ。それがどんな人物であれ、彼が任期を終えるまでやり遂げさせる。それが町のためになり、町の人々の『けじめ』にもなるんじゃないのかな?」
「そうだな、おまえの意見は正しいのかもしれない」
 だがな、とレンは言った。
「俺はこの町が好きだ。だから何人であれ、町を害するものがいれば、いつでも俺は盾になる。それだけは、覚えておけ」

 ■
 
 町にある町長の家の前で、コハクは町長を待っていた。
 
「どうしてルミーナに『指輪』と『竪琴』を持たせて、わざわざ洋品店に置いて行ったんですか?」
「そうしなければ、彼女の安全が守れなかったのでね」
 夫人に手を引かれた町長は、疲れた顔で答えた。
「彼女をペルソナが蝋人形化したのは、蒼空学園への見せしめと、鏖殺寺院内での自身の評価を上げるためだ。パラミタ人でもある彼女は、放っておけば真っ先に生贄にされてしまう。だからわざと目立つ場所に置くことによって、『生贄』にされる危険を避けたのだ」
「あくまでも『見せしめ』としての利用価値を強調されたのですね?」
 うんと頷く。
 コハクは爽やかに笑って、言った。
「やっぱり……僕は町長は立派な方だと思います。力はなくても、心は誰よりも強い! そういう人だって」

 ■
 
「それにしても、どうして竪琴に『トレジャーセンス』が反応したのかしら?」
 本校への帰り道、月夜は刀真に疑問をぶつけていた。
「あの時は、人の命がかかったものだから、て考えたんだけど……」
「あの『竪琴』と『指輪』は宝なのですよ、月夜」
 刀真は淡々と事実を告げた。
「オルフェウスの物は金を積まれても買えない。ファンならば、のどから手が出るほどの『お宝』だそうです」
「えーっ! そういうオチ!?」
 キュッと、刀真の右腕に抱きつく。
 だが彼は何も言わなかった。
(当たり前のこと。けれど、これが出来るのはこの世でただ1人……)
 ふふっと、月夜は幸せそうに笑った。
「だからいいんだ! 環菜さんのことなんか」
「? 何か言いましたか? 月夜?」
「……え? あ、ううん。何でもないわ、刀真」
 
 ■
 
 一方。
 野原キャンパスの中でも少々変わった出来事が起きていた。
「解呪薬」で蝋人形化した学生達を元に戻した時のことだ。
「このオンナは、オレのケイヤクシャのダイジなヤツなんだ!」
 ガオはアリアの前で立ちはだかり、「解呪薬」を拒んだ。
「というワケで、レアルトモドモもらってイくぜ!」
 代わりに彼は2人分の「解呪薬」を分けてもらい、2人の蝋人形化を解く約束をしてくキャンパスを立ち去った。
「パラ実とはいえ、あいつは実によく手伝ってくれたことだし。問題ないだろう」
 というのが野原キャンパスの人々の見解だった。
 そうした次第で、ガオのレアルと組んだ悪だくみなど知る由もないのだった。
 
 その後のアリアの行方については、誰も知らない。
 
 ■
 
 別の教室では、パートナー達からの報告を聞いていたリカインが、たまたま同席していた陽太をせっついていた。
「大活躍だったんでしょう? 早く連絡しなさいよ!」
 というのが、リカインの見解。
「え? でも俺、そんなに活躍した訳じゃ……」
「何言ってんの! 人様の役に立った時には、自慢するものよ!」
 言って、陽太の携帯電話を取り上げ、蒼空学園の番号を押す。
 環菜が出た所で、リカインは陽太に携帯電話を押し付けた。
「あ、はい、会長……」
 陽太はこれ以上なく緊張して、生真面目に報告する。
「あ、はい……野原キャンパスに行って来たのですが。平和そのものの場所で……俺もエリシア達も良い休養が取れました……」
 あははは〜、と陽気に笑って。
「は? ルミーナさんの蝋人形化? それは……」
 調子に乗りかけたところで、リカインのアイアンクローが炸裂。
「まったく! これだから、カンナ様大スキーくんは!」

 そして急須の茶葉を入れ替えつつ、自分の頭も冷やすのであった。
 
 ■
 
 シャノンにより蝋人形化を解かれたマッシュは、ペルソナへの報復をするため町の「占い部屋」を訪れていた。
 
「頼むよお! ペルソナの敗走先を知りたいんだよ、ね?」
「はい、かしこまりました。マッシュ様」
 女は冷たく言って、水晶に手をかざす。
「町の近隣にある、砂漠……『迷いの森』とは反対側の方角になります。そこに、打ち捨てられた哀れな男の姿が見えます」
「ペルソナッ!」
 啓示を受けたように、マッシュは顔を上げる。
 金を置いて、部屋を飛び出した。
「ありがとう! それと、もうここにはこないからねっ!」
 だから、彼は女の次の予言を聞くことはなかった。
「ええ。そして、あなたは『惨劇の目撃者』となるでしょう」
 と。
 
 ■
 
「すっかり世話になってしまいましたわね」
 野原キャンパスの分校長室前にて。
 ルミーナは生徒達に囲まれて、分校長を訪問するために来ていた。
 既に彼女を救出するために動いた生徒達の姿はない。
 日常に戻ってしまった。
 何だか寂しいな、と思いつつ、ナナはルミーナに尋ねてみた。
「それで、どうしてルミーナさんは、あの魔術師と町でお会いになられたのですか?」
「『ドクター・ペルソナ』はわたくしの友人ですのよ」
「え?」
「とはいえ、昔の話になりますわ」

 かつてルミーナがこの地を訪れた時、「迷いの森」をそれは熱心に研究する青年がいて。
 その青年の純粋さと研究内容に興味を覚えたルミーナは、次にこの地に来た時にも立ち寄る約束をして去ったのだという。
 
「しかしまさか! 鏖殺寺院の手下になり下がっているとは思いもよらず……わたくしも油断してしまいましたわね」
 ふふっと悲しげに笑う。
「いくら知り合いでも、人は変わってしまうもの。今度は声を掛けられても、話を伺いに家までついて行くのはやめましょう」
「ルミーナさん……」
「それに、この学校のことも」
 ドアをノックする。
 キイッと軋むドアを開けて、ルミーナは分校長と対面した。
 彼女の傍らに、美貌の吟遊詩人の姿。
「オルフェウス」
「ルミーナさん、御無沙汰致しております」
 オルフェウスは恭しく会釈する。
 ルミーナはフッと口元だけで笑った。
「本日は一子さんのご機嫌伺いに参りましたの」
 けれど、とつなげる。
「その必要もなかったですわね。立派なパートナーが……分校長を支えて下さるのですから。安心ですわ」
「ルミーナさん?」
「今回の件は、総てわたくしの油断から生じたこと」
 不思議そうな顔の分校長に、ルミーナは毅然として告げる。
「それを、皆さんのお力で助けて頂いたのです。環菜さんへの報告は、『何もなかった』。それでよろしいですわね?」

 そしてルミーナは増えすぎた「養殖スッポン」の後始末まで引き受けて、野原キャンパスを去ったのだった。
「これは、『運営費』の足しにして下さいと。環菜さんから預かったものですわ」
 言って、多額の金銭をナナ達に渡し。
「あの凶暴なペット達を引き受けて、お金まで下さるなんて!」
 ナナから伝え聞いたシイナは、感激のあまり拳を震わせた。
「やはりあの理事長は大物だぞ! ドケチなんて大ウソだったんだな!」

 だがそのスッポンが「最近なぜか体調が悪かった」環菜とルミーナの口に入ることなど、彼女達は知る由もないことであった。
 「運営費」の裏に、こっそりと「スッポン受け取り代」と書かれていたことも。
 
 ■
 
 かくして町の災難は解決し、野原キャンパスの危機は去ったのであった。
 ……かに見えた。

「えーい、この役立たず!」
 町近隣の広い砂丘。
 旅のラクダでも行きかいそうな場所に、ヘトヘトになったメニエスの姿があった。
 彼女の足下に、虚ろな目のペルソナ。
「蝋人形を溶かしたくらいで、『廃人』とはねえ……」
 忌々しげに吐き捨てる。
「魔法を忘れた魔術師なんて! 飛べないカラスよりもたちが悪いわ!」
 そうして彼女はペルソナを置き去りにして、サッサと立ち去ったのだった。
 
 捨てる神あれば、拾う神あり。
 
 まさに千載一遇のチャンスを手に入れたのは、マッシュだ。
「いたいたいた! いましたね、この裏切り者が!」
 マッシュは「さざれ石の短刀」を用意する。
 シュッと。
 ダーツの如く投げてペルソナに刺し、石化した。
「あーあ、これですっきりした!」
 彼は晴れ晴れとした顔で、シャノンの下へ戻ることにした。
 その目が町の方角に注がれる。
「ん? あいつら、宿屋のボディーガードじゃないの?」 

 そして彼は予言通りに「惨劇の目撃者」となる。
 
 彼らの行く手に、女が立っていた。
 助けを求めるように、両手を挙げてボディーガードの黒服達は駆け寄る。
 そして近づいた途端、彼らは斬られた。
 水晶から発する無数の刃に刺されたのだ。
「あの女! 例の占い師……だよね?」
 見覚えのある顔に、マッシュは目を見張る。
 だが次の瞬間、占い師の姿は砂煙と共に消えた。
 マッシュが最後に耳にした声は、何者かと会話する女の声。

「ええ、使い捨ての魔術師は始末致しました。ですが、学生達の戦力を測るには、十分なサンプリングが肝要かと……」

 了

担当マスターより

▼担当マスター

大里 佳呆

▼マスターコメント

 シナリオにご参加下さり、ありがとうございました。
 またお目にかかれる日を楽しみに致しております。