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リアクション
7.迷いの森・救助隊A
【魔術師討伐隊】と別れた【救助隊A】の面々は、レンを先頭に森の中を急いでいた。
途中、レンは思い出したかのように携帯電話を操作する。
「ああ、おまえか。……そうか。ではまだ、蝋人形化された生徒達は見つからないのだな……引き続き頼む」
電話を切る。
液晶を素早く読んだコハクが尋ねた。
「町の人達かい?」
「ああ。森の前に怪しい車がないかどうか、捜してもらっているのさ」
疲れたように眉間をつまむ。
「生贄にされてしまう前に、発見しなければならないのだが……」
レンは「眠りの竪琴」を鳴らし、正気に返ったトレント達から【町民討伐隊】の行方を尋ねる。
「傷ついた町民ねえ……この先にいたかな?」
トレント達はしばらく考えてから、道をあける。
そうしてかなり歩いた後、ようやく目的の場所に到着した。
「何て、酷い……」
辿り着いたコハクは、あまりの惨状に絶句した。
町民達は「そのままの状態」で放置されていた。
おそらくは前回手当てされたであろう布は何者かによってはぎ取られ、血を垂れ流したまま放置されている。
「1人ずつ運ぶぞ!」
「でも、レン! どうやって?」
「前回のマッピングデータがある」
レンは「銃型HC」を掲げた。
「これと、竪琴、それにトレント達の力を借りれば。俺とおまえだけでも楽に運び出す事くらい出来るだろう」
という訳で、森の外に町民達を全員運び出す。
森の外には【リトルブレーメン町民相談役】としてのレンの呼び掛けにより、有志の町民達が主に車の捜索のために訪れていた。
レンが呼び寄せる。
と、彼らの前に使い魔や獣達が現れた。
「うん? これはアンドラスとスカサハの放った者達ではないか! なぜ邪魔をする?」
レンに問われても、彼らは主人の命に従い「森に近づく者」あらば撃退するのが役目だ。
「ニャー、ニャオニャ、ニャーゴッ!(さあ、野郎共、かかれえーっ!)」
フラウロスが雄たけびを上げたとたん、使い魔と獣共は森に近づいて来た町民達に襲い掛かった。
「やめろ! おまえ達、町の人達に何てことを!」
だがレンとコハクが止めることはなかった。
彼らが攻撃の姿勢を取る前に、長く太い枝が伸びてきて、フラウロス達を縛り上げたのだった。
レンの「眠りの竪琴」によって、今は味方になったトレント達である。
「やれ、ペルソナの忌々しい薬が、ようやく人様の役に立つことじゃて」
トレント達は小瓶の蓋を開けると、パパッとフラウロス達に振りかける。
アンドラスの悪だくみは、あっけなく完結してしまったのだった。
そして、レン達が傷ついた町民達を病院へ送り届けるために立ち去ろうとした時。
「あんた方に頼みがあるんだがなあ……」
トレント達は気まずそうに申し出た。
「『呪い』の犠牲者が出てしまったのでな。すまんが、運んでは下さらんか?」
■
その「呪い」犠牲者――永久、みつよ、グレイスはレン達からそう離れてない場所にいた。
彼女達が「呪い」にかかったのは、レン達が救助活動を行う少し前のことだ。
その時3人は、「町民の救助活動を行う!」という建前で「遭難者の金品捜し」を行っていた。
永久曰く。
「人命より今日の生活費が大事! 落し物は有効に使わなくっちゃねー、だわ!」
もっともみつよは、本気で永久の「落し物捜し」が正義につながると信じて行っているのだが。
そうした次第で、一行の中でみつよが最も張り切って活動していたのだった。
「さ、遭難者の足取りを辿って。救助して。『落し物』はしかるべき所に届けなくっちゃ! だよね?」
「う……うん、みつよ……」
「よーしがんばろう、おー!」
みつよはガッツポーズを決める。
本当のことが言えない永久は、黙ったまま森の奥に向かった。
(永久さんの頭の悪い企みなんて、上手く行く訳がないですよ〜)
2人を眺めて、はや妄想に歯止めのかからないグレイスは鼻を押さえつつ後を追う。
(迷子になって、涙目のお二人を私が優しく抱きしめて……おっと、鼻血が!)
そしてグレイスの予想通り、悪だくみはうまく行かない。
3人にとって最大の不幸は、近くに隼人がいたことだ。
森の木々に阻まれていたために隼人は知らなかったのだが、彼がアイテムを使用した時に永久達は近くに居合わせたのだった。
そうした次第で、最初の餌食にされてしまったのはみつよだった。
「大丈夫だよ! 永久。ボクが盾になるからね!」
みつよは前に出て、ハンドガンで防御する。
しかし薄情な仲間達は。
「分かったわ、ありがとう! みつよに任せる!」
タアーッと逃げて行くではないか!
「え、逃げるの!? ちょっと2人とも待ってー!?」
みつよは慌てて後を追いかけるが、トレント達の腕は速い。
あっという間に捕まり、羽交い締めにされて、泉の水を振りかけられてしまった。
大きな胸の谷間に、くっきりと形を浮かび上がらせて液体が張り付く。
「うわぁ、何これ動けない!? やだー!」
胸先から固まって行く恐怖に、みつよはわんわん泣き喚きながら身をよじる。
「やだー! 助けてよ! 永久! グレイス! 薄情者おーっ!」
けれど鬼火の舞う中、いくら叫べども仲間の姿はない。
そうして悪態をつきまくりながら、みつよの体は胸をつきだした形で硬化した。
そして残りの2人も、結局トレント達に追われる羽目になった。
「みつよさんが、ハンドガンを使ったからではないですか?」
ハアハアと荒い息を吐きながら、グレイスが説明する。
「なら、捕まるのはあなたよねー? グレイス」
「どうしてです? 永久さん」
「だって、私は地球人だものー! 関係ないじゃなーい!」
しかしトレント達の腕は速い。
おまけに果てなく伸びる。
これはどう考えても、逃げるのは不可能だ。
「という訳で、逃げられないなら、いっそ一緒に捕まりましょう」
グレイスはいきなり永久の体を抱きしめる。
「……あぁ、永久さん柔らかいです〜」」
「離してー!? ていうかこのピンチに何でそんな幸せそうなのあんた!?」
永久はもがくがグレイスは強固に放さない。
そうして2人は仲良くトレント達に捕まってしまったのだった。
永久はもう、どうでもよかった。
観念して、ひたすら痛くないように、と目を瞑る。
(あ! でも思ったより痛いとか無いのねー)
固まって行く我が身を感じつつ。
(蝋人形すれば、食費とかの面倒が無くていいかしらー)
どこまでも生活費を案じ続けるのであった。
そしてパートナーのグレイスは、永久を抱きしめたまま恍惚として固まるのであった
(あ〜れ〜……あ、でもちょっとこの感触が、少し気持ちいいかもです。永久さん、永久さん……もう固まりましたか? て、はっ、鼻血があっ!)
■
以上のことを微塵も知らない純粋なコハクは、トレント達の導きに従い、3名の蝋人形を回収したのであった。
「ごめんよ……ボク達がもう少し早く君達を見つけていたら! こんなことにはならなかったのに!」
唇を噛みしめて、涙する。
永久達がおのれの所業を深く反省したことは、言うまでもない。
ともかく3名は【救助隊A】の面々によって、町民達を病院に連れて行ったその足で、無事キャンパスへと回収されたのであった。
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