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リアクション
【4・時を動かす者たち】
ここで時間はシリウスが抜け出してすぐの所まで戻る。
エスケープに気づいた皇 彼方(はなぶさ・かなた)とテティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)は、すぐさま他のクイーン・ヴァンガードのメンバーに連絡をとり、シャンバラ宮殿前広場に召集させていた。
あまり大っぴらにするのも躊躇われたが、既に鏖殺寺院が動き出している以上は一刻も早く見つけなければという思いの方が強かった。
集まった隊員は、
天城 一輝(あまぎ・いっき)、ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)
滝沢 彼方(たきざわ・かなた)、リベル・イウラタス(りべる・いうらたす)
ナナ・ノルデン(なな・のるでん)、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)
夏野 夢見(なつの・ゆめみ)、夏野 司(なつの・つかさ)
葛葉 翔(くずのは・しょう)
湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)
ほか、数名のメンバーと合わせて二十人弱はいた。
「話は以上だ、皆。出発してくれ!」
「一刻も早く、ミルザム様を見つけて捕まえないとね」
皇とテティスが締めくくると、
「俺は路地裏を中心に歩き回るけど、ふたりはどうするんだ?」
「私も同行しますわ。ひとりではなにかと心細いでしょうし」
「我は別の路地裏を回ってみるのだよ。分散した方が見つけやすいであろうからな」
一輝達、
「オレ達は一度蒼空学園に戻るよ」
「はい、了解しましたマイロード」
彼方とリベル、
「気晴らしくらいいいのではと思いますけどね……」
「まあまあ、とりあえず急ごうよ」
ナナとズィーベン、
「あたしたちは、空から捜索するわよ!」
「うん、わかった」
夢見と司、
「さて、どこから探すかな……」
翔、
「ミルザム様……僕らには一言もお話しなしか。それにしても、捕まえろ、ねぇ」
凶司、
それぞれが捜索へ向けて散っていった。
同時刻。エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、ブラックコートで気配を消しながら、ある集団の後をつけていた。
「それってばマジな話なんだっぺか?」
「ああ、間違いねぇだ。この機を逃さずあの女を殺しちまうだよ」
「ばってん、オラ達にできっかな」
「ンな弱気でどうすんだ!? 俺らが殺らねぇで誰がやるんだべ」
物騒な話をしているが、方言のせいでビミョーに緊張感が薄れていたが。
それでも放置するわけにいかないとして、エヴァルトは歩き出した連中の隙をついて、いちばん後ろのモヒカン頭の男を物陰に引きずり込んだ。
「も、もがー!?」
「悪いな。ちょっと話を聞かせてもらうぜ」
エヴァルトは、背後から男の首筋に指先が尖った改造鉄甲を押し付ける。
「随分面白い話をしてたな。一体誰を殺すつもりなのか、俺にも教えてくれよ」
「…………」
「黙られると困るんだよな。実は俺、今日は有名人に会いに空京に来ててな。会えるかどうかはわからないけど、ファンの妹分の為にも何としても会ってサイン貰いたいんだよ。つまりさ、あんまりぐずぐずしていたくないんだ。わかるだろ? わからないなら、お前の首から出血大サービスすることになるけどいいか? そうか、いいのか」
「ま、待つだよ! 話す! 全部話しゃええんじゃろうが!」
あっさり折れたモヒカンは、そのままぺらぺらと素性と目的を白状していった。
(女王候補狙いの鏖殺寺院、か……こりゃサインどころじゃないな)
聞き終えたエヴァルトは、意外にも自分の会いたい相手がそんな状況にあると知り、さすがに焦りの色を見せていた。
「も、もういいじゃろ! えぇかげんに離せや!」
「ん。ああ」
エヴァルトは言われた通り離してやった。
が、すぐさま首筋に一撃を叩き込んで気絶させておいた。
「さって、と。捜索や保護するにしても、狙われたままじゃ分が悪いし。ひとまずこいつらを排除して危険を減らしておくか」
呟き、まずはさっきの連中を始末するべく物陰から姿を現すが。
モヒカン以外の全員既にどこかへ行ってしまっていた。どうやらモヒカンはいなくなったことにも気づかれなかったらしい。不憫だ。
仕方ないので運任せで捜索するかと嘆息しかけたエヴァルトだったが、
(そーいや以前、ゴブリン連中から飴貰ったっけな。使っておこう)
運がUPするらしい赤色のキャンディを取り出し、口の中へ入れる(詳しくは別シナリオ【VSゴブリン7】を参照)。
「さて。運が上がったのかどうかはわからないが、行くとするか」
エヴァルトは口の中に広がる唐辛子の猛烈な辛味に辟易しつつ、歩き始めた。
そして彼が去ってから一時間後。
モヒカン頭は早くも目を覚ましていた。
「いっててて……くそ、あの野郎めぇ、今度会ったらだだじゃおかねぇだ。鏖殺寺院を敵に回すとどうなるか、必ず教えてやるだよ!」
大声でそんなことを怒鳴るモヒカンの元に、シリウスを捜索中の緋山 政敏(ひやま・まさとし)とカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が近づいてきた。
「ねぇキミ、ちょーっと話を聞かせてもらっていいかな?」
「ああ? なんだおめぇは」
数分後、
「踊り子衣装で褐色肌の赤毛女と、ちょっと貧乏臭い服着た緑髪ポニー女の二人組みを捕まえるか殺すかすりゃあ、幹部昇進、支部長就任だって言われただよ。おいらは寺院でもパシリばっかなんでもうなりふり構ってらんなかっただ。スンマセン」
彼は土下座しながらとても正直に、本日二度目となる事情説明をしてくれていた。どうやったのかは割愛する。
(なるほどね。……にしても『貧乏臭い服』って、あんまりだな。ホイップ本人が聞いたら泣くぜ。ま、あくまで鏖殺寺院にとって重要なのはシリウスってことなんだろうけど)
思い巡らせた後、カチェアへと、
「カチェア、パーカーを頼む。俺は先に行ってるから」
「え? あ、うん。わかったわ」
告げるや政敏は捜索に乗り出していった。
政敏の意図をなんとなく察したカチェアは、近くの洋服店へと入っていった。
残されたモヒカンはふたりが去ったのを確認するや、チッと舌打ちして立ち上がり。
「畜生、なんなんじゃ! どいつもこいつもおいらをコケにしくさって!」
悪態をつきながら、復讐へと動き出そうとした。が、
そこに鼻歌を歌いながら歩いてきた藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が通りかかった。
「あら? どうなさいましたか? なにかモメ事でしょうか」
「あぁ!? うるさいんじゃ! どっか行かんとブチ殺っぞ!」
後半もはや日本語にすらなってない暴言を吐き、優梨子を押しのけて行こうとして、
「あら、そうですか。でしたら仕方ありません」
数分後、
「……あぅ、つまり、おいらが追ってるのは、そのふたり、なん、だぁよ」
モヒカン男は、二度あることは三度あるという諺を薄れゆく意識の中で思い出していた。
吸精幻夜による尋問であらかた情報を聞き終えた優梨子は、
「……ふむ、あの方には朱雀鉞の探索でお会いしてそれっきりですねぇ。聞きたいことがありますし、良い機会ですから、探してみましょうか」
呟き、白目むいてるモヒカン男をそのまま放置して路地の奥へと消えていった。
こうして多くの人間が、それぞれ様々な思惑を持って動いていく。
「むむう……ミルザム様、来ないなぁ……」
彼女が踊る予定の酒場で呟くアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)も、そのひとりだった。
彼女は今回のお忍びを事前に聞いて知っていたゆえ、踊り子に扮して間近で護衛するつもりでいたのだが。肝心のシリウスが来ない。
(うう……ミルザム様をお守りするために結構恥ずかしい格好我慢してるのに……ぐすん)
嘆くアリアを尻目に、同じく酒場で待っていた菅野 葉月(すがの・はづき)とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)はやがて気になったのか外へ探しに出て行った。
同様に心配になったらしい神崎 優(かんざき・ゆう)も難しい顔をしながら出て行き、パートナーの水無月 零(みなずき・れい)も少し遅れて後を追った。
最後まで残っていたアリアも痺れを切らし、携帯電話を手に取る。
かける相手は同じヴァンガード隊員の皇彼方。
「もしも……わ、なに!?」
アリアはかけるや否や、相手から大声が放たれたので思わず取り落としかけた。
「連絡? あ、ごめんなさい気づかなくて。え? うん、うん……」
そうして聞かされた現状を把握後、こうしてはいられないと一も二もなくアリアは外へと飛び出していった。
そして、話は現在時刻に戻る。
アリアは彼方達がまだ探していない範囲を探索していた。
と言うより、人目を避けて路地裏を探さざるをえなかった。
(ちょっと街路を駆けるには恥ずかしい格好だしね……)
なにしろアリアは、シリウス程ではないにせよ、割と露出多めの踊り子衣装のままなのである。着替えてくればよかったと考えても後の祭りだった。
(とにかく色んな意味で急いで見つけたいけど。って言っても、そう簡単には見つからないよね)
と、やや肩を落としながら歩いていたアリアの目の前から、シリウスとホイップが走ってきた。
「簡単に見つかったーっ!」
思わず叫びつつ、そういえば以前葦原でも似たようなことがあったなぁと思い出した。
「こんなに早く次の追っ手が来るなんて……」
「もぉ! 一体全体、寺院の人って何人いるのよぉ!?」
だが喜んでばかりもいられないようだとすぐに察する。
なにせ彼女らは、カラスみたいな黒マントを着た三人の男と、真剣な鬼ごっこの真っ最中だったからだ。
ちなみに真剣な、というのは比喩でもなんでもなく。男達は本当に真剣を手にしている。
それを確認したアリアにとって余計な詮索は無用だった。
「ミルザム様には触れさせない!」
向かってきたシリウスとホイップのちょうど狭間を交差したアリアは、先頭を切っていた不埒者の顎を思いっ切り蹴り上げながら、ふたりを庇うように間に割って入った。
「逃げて! はやく!」
首だけ後ろに向けながら叫ぶアリアと、シリウスの視線が交差して。
「ミルザム様、無事に逃げ切れたら、後で一緒に踊りましょうよ」
続いて静かに告げられた二言目に、シリウスは若干驚いた後、確かにこくりと頷いて再びホイップと共に走り出した。
残されたアリアは、目の前の敵に白の剣を構えて対峙する。
対する三人の敵さんは、完全に目標をアリアへとシフトさせていた。
「かー、いってぇ。やってくれたな、踊り子の嬢ちゃんよ」
「鏖殺寺院の三羽烏と呼ばれた俺達に対してその余裕ですかー?」
「ならオシオキといこうかー。安心しろ、僕ら女にゃ興味ねぇから」
なんかカミングアウトしながら三人は一斉に襲い掛かってきた。
余裕だと言われたアリアだが、実際かなりハラハラしていた。
何度も言うが彼女は踊り子衣装のまま、つまり防具を一切身に付けていないので、
(しかも相手の武器は剣だし……。服破かれたら、一気に丸見えになっちゃうじゃない。一発でも食らったらアウトね)
女の子として非常に焦っていた。
そこで彼女は光のヴェールをなびかせながら、軽身功を使って狭い路地裏の地形を利用し、敵の横、後ろ、おまけに壁を跳躍して上を、縦横無尽に駆けていく。
三羽の烏は、闇雲に剣を振るうがちょこまかと回避するアリアにはまるで当たらない。いくら切れ味のよい剣でも当たらなければ意味は無かった。
ふいに、路地裏に太陽の光が差し込んだ。
光のヴェールと白の剣がそれに反射して輝きを周囲に振りまいていく。
戦っている状況でありながら、その中を翔ける優雅なアリアの姿は、見る者を虜にする、まさに踊り子のあるべき姿を魅せていた。
だが男色の彼らにとっては、ヒラヒラ衣装も光の反射もただイラつかせるだけだったらしく。
「ちいっ、いい加減止まらないかー!」
早くもじれたひとりが不用意に切り込んできた。
「そこぉっ!」
しかし隙だらけの攻撃を見逃さず、アリアは後の先を用いてカウンターで男の腕を刺し貫いた。
「こ、このぉ。やりやがったな!」
「僕らの突きを食らいやがれぇ!」
痛みにのたうちまわるひとりを見て、怯むかに思われた他のふたりだったが、意外にも戸惑ったのは数秒ですぐさま同時に飛び込んできた。
それでも剣は空を切る。
アリアは、まるで一枚の羽が風圧に飛ばされたかのような軽やかな動きで、くるりとふたりの背後に降り立つ。
ひとりは振り返った直後、さっき蹴られた顎をもう一度思いっ切り蹴られ。
ひとりは振り返ることもできないまま、太ももの辺りを薙ぎ払われていた。
「ふぅ、ちょっと汗かいちゃった」
アリアのこともなげな勝利宣言を薄れ行く意識の中で聞きながら、三人はやっと間違いを犯していた自分達に気づいた。
まず目的が女王候補である以上、早急にそちらを追うべきだったのだ。
誰かひとりがアリアの相手をするなり、アリアを適当にあしらってから追跡するなりすればまだなんとかなったかもしれない。
加えてアリアの力量を完全に見誤っていたことも敗因のひとつ。
しかし今更気づいても、身体はもう動かなかった。
こうして鏖殺寺院の三バカは、たったひとりのソードダンサーにあっさり敗れ去った。
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