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中間報告


 現在の状況を確認してみよう。

エリア1――参加者の約半数が捕縛。守備側も大打撃を被っているため、拮抗状態にある。
エリア2――お互い一歩も譲らぬ状態。一瞬の隙が守備側の命取りになる。
エリア3――大量のトラップ&完全防壁。守備側圧倒的優位。
エリア4――攻撃側の陽導作戦開始。100メートル圏内が勝負に。
エリア5――広場前での勝負にもつれ込む。

(どのエリアもなかなかいい勝負ですね)
 主審である有海は、ビジネス地区全体を見渡しながら、現状を整理していく。
(おや……エリア3に一人……まあ、いいでしょう。データを更新して、と)
 エリア毎の人数比率計算は、地球人のみで行っている。観戦という形を申し出た者以外では、上手い具合に分かれているはずだった。
 エリア1、2、5が守備2に対して攻撃8。3、4が守備3に対して攻撃12だ。
 だが、一つのエリアだけ一人多かった。そのため、即座にその者をリストに加えたのである。
(ふふ、それにこのゲームの真の狙いを知ってか知らずか、なかなか工夫してる方もいらっしゃるようで)
 ルールを確認しながら、そんな事を思う。
 一見すると分かりにくく、穴も多い。しかし、それこそがこのゲーム最大のポイントだ。
(ルールの穴をどうやってつくか、それこそが守備にとっても攻撃にとっても重要なのですよ)
 現に、それらをついた行動をしている参加者は多い。
(さて、ビジネス地区に仕込んであるマイクロカメラは役に立ちますね。まあ、ちゃんと悪用されないように終わったら撤去しますが……盗撮犯にはなりたくありませんからね)
 さすがに無許可でカメラを街中に仕掛けるのは問題がある。昼間に見つかったら、自分達は愚か大学側の世間からの評価にも関わってくる。
(さてさて、さすがに死線を潜り抜けてきた方々は違いますね。ここまで拮抗するとは正直思ってませんでしたよ)
 現時点では、攻守ともに一歩も譲らない状態だ。
(どちらが勝つか、楽しみです)
 スマートフォンを取り出し、各カメラから抽出した映像を眺め、有海は微笑した。

            * * *

 歌声が響く。
 ミンストレルがいるのなら、缶蹴り中だろうが不思議はない。子守唄も、至る所から流れているが、こちらは攻撃側の仕掛けたものだ。
 エリア3、空京中央公園の中にある記念館の屋根の上。
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が幸せの歌を歌いながら、エリアの攻防を眺めていた。
「これって休憩あるのかなー?」
 開始から二時間は経過しているだろうか。メイベルのパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が首を傾げる。
「ないみたいですねぇ〜。だけど、今いる人達の勝負が終われば一息つくと思いますよ〜」
 一息つけるのは、捕まった人と守備の人なのだが。もっとも、攻撃側が全滅しても他のエリアの決着がついたという報告がない限り、参加者の移動はない。攻撃側が一網打尽にでもなれば休みの人はそれだけ増える。
「皆さん真剣ですわね。ひしひしと伝わってきますわ」
 もう一人のパートナー、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)もまた缶蹴りの様子を見ている。その手にはビデオカメラが。
「審判の方から、審判用のカメラとリンクさせて頂きましたわ。これまでの様子は、全部納められましたわ」
 有海の用意したカメラはあくまでも審判用で、録画機能はない。対しフィリッパのビデオカメラなので、中にはデータ保存用のメモリが入っている。この時代ともなると家庭用でもテラクラスの容量なので、約五時間分の映像も残しておけるのだ。
「皆さん、頑張って下さいね〜」