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リアクション
前半戦
・空京フォーラム1
「俺は守備側のディフェンスっちゅう事で缶の近くにおる事にしとくで! ほ〜れ朔っち!武術部の特訓と思って絶対勝つんやで〜♪」
日下部 社(くさかべ・やしろ)が鬼崎 朔(きざき・さく)に向かって口を開いた。場所は空京フォーラム、二人はここの缶を守るのである。
「……無論だ。よし、自分は、外へ攻めにいく。だが、その前に……」
朔が裏口駐車場から空京フォーラムの施設を囲うようにして、鳴子を設置しに行った。彼女は一度ここへ来たことがあるため、多少は施設の事を知っている。100メートル圏外、しかし裏口へ行くためには通らなくてはならないような場所が罠の設置箇所だ。
「それからブラックコートを着用っと。少しでも気配を消して相手に存在を悟られないようにしとかんとな! ちーの分も用意しといたから着とくんやで♪」
と、彼はブラックコートをパートナーの日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)に着せてあげた。
「えへへー☆ これでちーちゃんは完璧なのだー!」
どうやら社サイズだったらしく、フィットしていない様子だ。ただ、それが彼女の姿をいい具合に覆い隠していたりする。
そのようなやり取りをしている間に、朔が戻ってきた。
「お、朔っちおかえりー」
そして社が最後の準備をする。
「あとは……ちーが沢山見つけられるように光術を頭上に放って、物陰に隠れている人がおったら影が浮かびあがるようにしてみるか♪ ちー、よぉ〜く探すんやで!」
「わかった、ちーちゃん、いーっぱい捕まえてくるねー! やー兄待っててね♪」
社が光術を放ち、裏口駐車場を照らす。ただ、光があっても100メートル圏内ならばタッチは無効である。この辺の判断は暗がりだと難しい。
「おっと缶の近くにおったら蹴りに来んわな……よし」
缶から若干離れ、殺気看破、隠れ身を併用して身を潜める。守備側が皆探しに出ていると思わせるためでもある。
次いで、朔が光術の死角となる暗がりにトラッパーを用いて罠を仕掛ける。場所によってはしびれ粉付きと、慈悲のかけらもない。そこに彼女の本気さが窺える。
「……日下部さん、スカサハ、ミカヅキ、缶の死守は頼んだ!」
エリア2に潜む攻撃陣を捕えるため、彼女は100メートル圏外へと繰り出していった。
* * *
「空京での実戦演習って珍しいよなぁって、なんとなく参加してみたんだけど……まさか缶蹴りだったなんてねぇ」
「りゅーきー……眠いー……。『実戦演習』……もとい、缶蹴りはいいんですけど……さすがに夜通しはきついですよー」
空京フォーラムに至る路地で、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とパートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)は身を潜めていた。
「すまんマティエ。本当に実戦演習だと思ってたから……でも、スキルを戦術で生かすいい機会だ」
「やるのは構わないんですけどね。昨日、手芸に夢中になって徹夜してなければー……ふあぁぁぁ……」
「マティエ、眠そうだが大丈夫かー? まぁオレも少し眠いけど……無理せず寝てもいいと思うなぁ。この辺なら見つからなそうだし」
「いえ、ここまできてただ寝るだけなんてできません! 攻撃がんばらないと……うー……」
どうやらマティエはかなり眠いらしく、目をこすっている。とはいえ、ゆる族だから着ぐるみの目なのであるが……
「ま、無理せずいこうな。まだ時間はあるんだし」
光学迷彩で身を隠しつつ、二人は空京フォーラムの施設へと少しずつ近付いていく。
「缶は裏口ですから、なんとか回り込まないといけませんね」
瑠樹、マティエの二人は一度空京フォーラムに来た事があるため、施設のおおまかな造りは把握していた。このまま道沿いに進んだところで正面入口であるため、なんとか裏口へ通じる場所に身を隠したい。
敷地面積にすればおよそ3万平方メートル、ただし建物の性質上、隠れる場所はいくらでもあった。
音を立てないように、建物の外周を辿るようにして、裏口へと向かう。
(りゅーき、誰か近くにいます)
光学迷彩で身を隠しているものの、それでも物陰に身を伏せる。現れたのは朔だ。殺気看破を持つマティエが彼女に気付いたのだ。
(まずは離れるのを待とう)
その時だった。
(ん、子守唄……眠く……いや、もう行きます!)
(お、おい、マティエ!?)
どこからともなく子守唄が聞こえてきたため、ただでさえ眠くて仕方のなかったマティエがそのまま裏口駐車場目指して駆け出したのだった。
「誰だ!?」
足音で、朔が気付く。光学迷彩で姿こそ見えないものの、近くにいる事は分かっていた。
(とにかく、他の人のためにもまずは引きつけておくか!)
瑠樹もまた、マティエに続いて走り出す。そして、
カランカラン
鳴子の音が鳴った。どうやら引っ掛かったらしい。こうなっては光学迷彩とはいえ位置は特定されてしまう。
「うわ、な、なんですか?」
びっくりして思わず光学迷彩を解いてしまうマティエ。先行した彼女が引っかかってしまったらしい。
「つーかまえた♪」
そこへ千尋がやって来る。
「マティエ・エニュール!」
ルール通り、大声でコールする。すると、携帯からアラーム音が鳴り、攻撃側のリスト上の写真の色が薄くなった。それが捕まった事の合図なのだろう。参加者は誰が捕まったのか分かるらしい。反則防止効果もあるようだ。
「も、もう起きていられない……すみません、おやすみなさ……すー……」
マティエはそのまま地べたに倒れ伏してしまった。
「あれ、寝ちゃってる……」
これには千尋も戸惑い気味だ。とりあえず捕まえたということで、すぐに駆けつけた朔とともに一度運び出した。
(すまん、マティエ。もう少し待っててくれ。それにしても、この子守唄はどこから……)
* * *
(仕掛けはちゃんと動いてるね)
子守唄の音を聞いた桐生 円(きりゅう・まどか)は確信する。昼の内から準備していたのは、スピーカーであった。建物の陰に張りつけてあるので、そう簡単には見つからなかったらしい。
(あとは、合図を待ってと……)
裏口駐車場が見える、けれども100メートル圏内にはギリギリ入らない程度のところで様子を窺う。
なお、彼女のパートナーであるオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)とミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)もそれぞれ空京フォーラムの施設周辺で身を潜めている。
屋根の上では、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が守備側の動きを観察していた。
(外周りは二人かな? 缶の方は……ここからじゃ見えないね)
彼女からはまだ缶の位置は確認出来ない。
そこへ、メールが来た。差出人はロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)である。
『状況はどうですか?』
電話では音で見つかる可能性もあるためか、文面でやり取りをする。勿論、彼女達は予め事に備えてサイレントモードにしている。共有された情報は、
・守備で外に出てるのは二人
・鳴子トラップあり
・子守唄は正常に流れている
というものであった。
彼女達はチームを組んで缶を狙っている。しかし、まだ攻め込むチャンスは見い出せないようだ。
* * *
(守備側が光術を使ってくれるとは、ありがたいですね)
裏口駐車場をスコープ越しに見つつ、支倉 遥(はせくら・はるか)はスナイパーライフルで狙撃の機会を窺っていた。
場所は空京フォーラムに隣接する建物の上だ。距離にしてみれば、缶からは500メートルくらいは離れているだろう。
そこへ、パートナーの屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)から連絡が入る。
(順調に近付いているようですね……缶の近くには「見える限り」一人ですか)
隠れ身等で姿を捉えにくい事を除けば、100メートル圏内で確認出来る守備役は、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)のみだった。
(まあ、缶の近くは少ない方がいいでしょうが、まだ分かりませんね)
その時だった。
「見つけたであります!」
かげゆは気配を消して近付いていた。だが、そこを意識し過ぎるあまり、トラップであるしびれ粉を見落としていたのだ。
しかし、フルフェイスヘルメットを被っていたために顔はまだ判明しない。とはいえ、守備側がヘルメットを脱がせようとする事自体は直接攻撃にはならないため、加速ブースターで迫るスカサハに捕まるのは時間の問題だった。問題は、それが100メートル圏内に入っていたことである。顔が見えても、缶を踏まなければ成立しないのだ。
その隙に、
ピュンッ
と遥による狙撃が行われる。しかし、装填していたゴム弾は缶に掠めることなく通り過ぎる。
「狙撃……だと?」
ちょうど圏内に一度帰還した朔がそれに気付き、すぐさま弾の軌道を辿っていく。が、これ自体も遥の作戦のうちだった。
(今のうちです)
守備側の二人を引き離している間に、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)と伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が駐車場に停車しているトラックの陰に入り、身を隠す。
缶の周囲に現在人影はない。
(殿、やるぞ!)
ベアトリクスと藤次郎正宗はそれぞれ缶を左右から挟み込む形で隠れている。タイミングを合わせ、同時に行動を起こした。
トラックの下から勢いよく飛び出していったのは、数台のミニ四駆である。
そのまま缶まで50メートルくらいまで近付いたところで、一瞬の閃光が起こった――守備側である社による雷術だ。 なお、この時守備側の一人、社がいた場所は裏ゲートの真上である。そこから様子を見つつ放ったのだ。
だが、破壊されると同時に煙幕ファンデーションが作動。缶の周囲が曇り、何も見えなくなる。
(もらった!)
煙幕に紛れて、本命であるラジコンを操作してそのまま缶を倒そうと目論む。しかし、ラジコンが缶に当たる事はなかった。
(……なぜだ?)
その理由はすぐに分かった。煙が晴れ、缶の周囲に氷の壁があるのが見て取れた。氷術である。
缶の上には一匹の猫のような姿があった。朔のパートナーの新月 ミカヅキ(しんげつ・みかづき)である。
「屋代 かげゆ!」
ミカヅキが叫ぶ。ちょうどその目線の先には、顔が露わになったかげゆの姿があった。ヘルメットを脱がせる以外では、直接攻撃とカウントされかねないために、スカサハと連携を図ったのである。
「……あの狙撃が陽導だと気付かなければ危なかった」
氷術で防いだのは朔だった。遥を追うフリをして、駐車場に戻ってきてたのである。
「ナイス、朔っち!」
そこからの行動は早かった。
朔に代わり、スカサハが氷術による壁を築き、缶の守りを固める。あとは近くにいると分かっている二人を捕えるだけだ。
彼女達が左右のトラックに迫りゆく。
(だが、顔が見えなければ……)
例え居場所がばれていても、時間は稼げる。それが攻撃側二人の考えであった。だが、時既に遅し、であった。
その身を蝕む妄執による幻覚。
ベアトリクス、藤次郎正宗ともどもそのせいで、缶も守備側の位置も見失う。そればかりか、
「ベアトリクス・シュヴァルツバルト!」
「伊達 藤次郎正宗!」
幻覚を見せられている間にヘルメットを脱がされ、顔バレしていたのである。
(まずいですね)
次なる狙撃のため、移動している遥がその光景に若干の動揺を覚える。守備側も一筋縄ではいかなそうだ。
(今度は200メートルといったところでしょうか。ここなら……)
再びライフルを構える。氷術の壁があるとはいえ、それは上空からの攻撃までは防げない。ドーム状には張られていないのだ。
再び狙撃の体勢になる。スコープを覗き、缶に照準を合わせ……
「……ん?」
その時、遥のヘルメットがすっと頭上に上がった。いや、脱がされたのである。
「みーつけた♪」
そこには笑顔の千尋の姿があった。
実は、朔が駐車場に戻るのと入れ替わりで、彼女が向かってきたのだ。ところが、駐車場の様子を見て、てっきり誰も追っては来てないのだろうと遥は思い込んでいたのである。
「しまった!」
しかも、思わず振り返ったがために顔を見られる結果となった。
「支倉 遥!」
ここで、あえなく捕まってしまう。しかし、作戦が悪かったわけではない。守備側の方が一枚上手だったのだ。それでも開始から一時間もせずに100メートル圏内の攻防に持ち込んだのは僥倖と言えるだろう。
そして、遥達の犠牲は決して無駄ではなかった。
(せめて他の攻撃陣に、と……)
こっそりと携帯電話を操作し、自分達が掴んだ情報を同エリアの人達に送りつけた。
* * *
(守備側の人数は五人、か)
参加者リストと照らし合わせて守備側の顔ぶれを確認したのは、椎名 真(しいな・まこと)だ。
(さっきの感じだと、なかなか隙を作るのは難しそうだ……)
駐車場全体を横目にしつつ、自分以外の攻撃側の人間がいないかも確かめる。彼の目から見える守備の人数は、二人だった。
現在地(缶から150メートル)を考えると、外周りが近くを通らないとも限らない。
(あれは?)
100メートル圏内、守備側の目の前を徘徊する四体のアンデッド・レイスの姿を捉える。付近にネクロマンサーがいる証拠だ。守備側が目で追っているらしい事から、攻撃側の誰かが使役しているらしい。
(そろそろ他の人も近くに来てるみたいだね。さってと……あそこの車の辺りに石をけっ飛ばして一人誘い込めれば、あとは裏口に人がいれば任せられるかな)
携帯電話を取り出し、こっそりと同エリアの人に位置情報を求める。
(うん、そろそろ頃合いかな……よし)
真は手にした小石を駐車場の至る所――特に車が停車しているところを狙って蹴り飛ばす。さらに、それは全部100メートル圏外だ。
駐車場だけあって、音はよく響く。当然、これには守備側も気付いた。
その隙に、別方向から缶への距離を詰めようとし……たところで、真は守備側のトラップに引っかかってしまう。鳴子だ。
撹乱しようと立てた音よりも、守備側はこちらの音に強く反応するだろう。一人が真に向かってくるのは、ほぼ確実だった。
(せめて時間くらいは稼げるか……?)
その場から動こうにも、付近にしびれ粉があったためか、身体があまり動かない。
しかし、この一連の行動が攻めのきっかけを生み出す事になった。
もっとも、ここから先はある意味では悪夢のような光景なのではあるが……
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