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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「くっくっくっくっくっ……、面白い、実に面白い発想だ。ねえ、アリシア君」
「はい、ノーム様」
 ベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)に同意を求められて、アリシア・ルード(ありしあ・るーど)はこくりとうなずいた。
「人選を誤ったのでは?」
 九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )の耳許で、九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)がささやいた。今日は、九弓・フゥ・リュィソーがワンピースタイプのチュニック姿なので、彼女はマネット・エェル( ・ )と共に左右の肩にそれぞれちょこんと乗っている。
「しかたないでしょ、職員室に、なぜかこの人しかいなかったんだもん」
 これは予想外だ、絶対予想外だと、九弓・フゥ・リュィソーは九鳥・メモワールにささやき返した。
「さあ、遠慮なく説明を続けたまえ。この私が聞いてあげよう」
 ぞんざいに、ノーム教授が言った。
「ええとですね。原理は簡単です。薄い板状に加工した光条石に、世界樹の葉脈パターンを転写します。この段階で、剣の花嫁の意志によって自在に加工を……」
「くっくっくっ、考え方としては、悪くないねえ。だが、致命的な欠点が二つある」
 九弓・フゥ・リュィソーの言葉を途中で容赦なく遮ると、ノーム教授が勝手に語り始めた。
「ひとおーつ。まず、剣の花嫁に光条石を加工する力はないということだ。おや、不満そうだねえ。確かに光条兵器は、使い手によって姿を変える。なぜかぁ! 光条兵器だからだよ」
 いや、ノーム教授は何が言いたいのだと九弓・フゥ・リュィソーは彼を軽く睨みつけた。
「光条兵器は光条兵器であって、光条石ではない。もし、光条石を剣の花嫁が自由に加工できるのであれば、光条石を持ち歩けば、なんでも作れてしまうではないか。それ以前に、力の強い剣の花嫁であれば、敵の剣の花嫁の核である光条石を変形破壊して、簡単に死にいたらしめることもできることになる。もし、そんなことが可能であれば、この私が、超兵器を開発しているはずだ。そうは思わんかね、アリシア君」
「はい、その通りです、ノーム様」
 ノーム教授の一方的な演説に、アリア・セレスティがうっとりとした目で相づちを打った。
「夫婦漫才?」
 マネット・エェルが九弓・フゥ・リュィソーにささやく。
「そんなものね」
 九弓・フゥ・リュィソーが半ば諦めたように答えた。
「ふたーつ。葉脈パターンを転写すると言うが、それに何の意味があるというのかな」
「それは、世界樹の魔法パターンをデバイスに転写……」
「この世界樹に何万枚の葉が存在すると? そのどれ一つとっても、同じである保証はないのだがねえ」
 またもや、九弓・フゥ・リュィソーの言葉をぶった切って、ノーム教授が続けた。つくづく、人の話を聞いているようで聞く耳持たない人だ。
「確かに、世界樹の葉脈パターンは研究に値するねえ。実に面白い研究課題だ。今後、私の偉大なる発明発見辞典の一見出しとして追加しておこう。さて、世界樹は魔法に満ちているから、葉にも特定の魔法の力があるとするのはあながち間違いではない。だが、その葉脈パターンに意味があるという研究結果はまだでてはいない。仮に、魔法効果があるとしよう。だが、はたしてそれはデバイスの回路として機能するのだろうか。光コンピュータの回路としては、充分可能性はあるが、この場合、エネルギーの蓄積と分析を行う回路としては不完全すぎるねえ。どちらかといえば、葉脈は呪紋の集合体に近いと言えるだろう。細かいルーンがびっしりと書き込まれた魔法陣のようなものだ。その意味では、世界樹の葉は、魔法の触媒にも、またトリガーとしても機能する可能性を秘めている」
「そう。その点を利用して、光術の補助強化デバイスとして、幻術などへの応用を可能に……」
「だーが、ドルイドでもない限り、その葉脈パターンの意味を読みとれるはずがない」
 またも、九弓・フゥ・リュィソーの台詞がぶった切られる。
 ええい、人の話を少しは聞けと、九弓・フゥ・リュィソーは心の中で叫んだ。
「君は、いちいちそのパターンを確かめるのかね? それにどうやって動かす。発動のための呪文やキーワードは? あるいは、解呪のサインは? すべて分かっているのかね?」
「それは、これから研究すべき……」
「そう、その通りなのだよ。いい。実に、いい思考をしている。特別に花丸を与えよう」
 そう言うと、ノーム教授は、いきなり赤いサインペンで九弓・フゥ・リュィソーの額に赤い花丸を書いた。
「よかったね」
 ニッコリというマネット・エェルに、九弓・フゥ・リュィソーは、両手で耳を押さえるようにして二人をぎゅっと締めた。
「な、なぜ、私まで……」
 ぎゅーされて、九鳥・メモワールが非難の声をあげる。
「とにかく、これは研究課題としては面白いねえ。光条石ははっきり言ってまったくの不必要だが、世界樹の葉の触媒機能は実に興味をそそられる。アリシア君、さっさと生徒たちにはお引き取り願いなさい。私は、さっそく実験を行うのでね。さあ、しっしっ」
 いいネタをもらったとばかりに、ノーム教授はすでに彼にとっては用済みの九弓・フゥ・リュィソーたちをさっさと職員室から追い出した。
「おのれ、マッド教師め。ネタだけ奪うなんて、なんて卑怯な」
 九弓・フゥ・リュィソーは職員室前の通路で地団駄を踏んだが、ノーム教授が聞いたら、「褒め言葉と受け取っておこう」と言い返すに決まっていた。
「いずれにしても、改良の余地はいくらでもありそうですね」
「がんばろー」
 パートナーたちが、九弓・フゥ・リュィソーの左右で励ました。
「負けるものですか。さあ、研究室に籠もるわよ」
 そう答えると、九弓・フゥ・リュィソーは走りだしていった。