校長室
学生たちの休日4
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★ ★ ★ 「ふっふっふー♪ 出てきた、出てきた♪」 寮の自室で楽しそうに鼻歌を歌いながら、水神 樹(みなかみ・いつき)はプリントアウトにいそしんでいた。 今まで携帯で撮り溜めた写真を、こうして定期的にプリントアウトしてはちゃんとアルバムに整理しているのだ。 もちろん、パソコン上でも、電子的なアルバムを作って整理はしてあるが、やはり手で触れることのできる写真は、また別の意味を持っていると思う。 「まあ、みごとなたっゆん♪」 写真の中のパートナーの姿を見て、水神樹は思わず頬を綻ばせた。 この間のたっゆん騒動のときの写真だ。 パートナーが紙ナプキンで、たっゆん化した胸を隠そうと無駄な努力をしているところとか、普段見ることのできないパートナーの表情が、これでもかと様々なアングルで出てくる。 「うーん、どういうレイアウトで貼りつけようか、迷っちゃうわよねえ」 中には、その後の大惨事で血まみれになった写真もあるが、それはそれで御愛敬だ。 続く写真には、翌朝元に戻った胸を、確かめるようにパジャマの胸元をのぞき込んでいるというセクシーショットまでもある。 「グッジョブ、私!」 にやつく顔で、水神樹はガッツポーズをとった。 レイアウトの参考にと、少し前のページをめくってみると、様々な思い出の写真が、主にパートナーと一緒に写って現れる。 「これは、小ババ様を捕まえに行ったときで、こっちはスライムと戦ったときで、これは修学旅行か。懐かしいなあ。これは花火大会のときの。ああ、これは海の家よね。温泉に行ったこともあったなあ」 だんだんと、ページをめくる手が止まらなくなって、写真はパラミタに来た直後までさかのぼってしまった。 「これからもいろいろな写真を撮らなくっちゃね」 そう強く思うと、水神樹はあらためて真っ白なページに、なんとも言えない顔をしたたっゆんなパートナーと一緒に写っている写真を貼りつけた。 ★ ★ ★ 「うっうっ……」 世界樹の中で、狭山 珠樹(さやま・たまき)はむせび泣いていた。 「苦節一年、ついにこのときがやってきたのですわ!!」 ついにビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)の下宿を探しあてたのだ。 ツァンダ近くの森に棲んでいたころからの習慣で、部屋の扉に鍵はかかっていなかった。 「ほーんっと、無防備ですわ」 泥棒が入ったらどうするのだろうかと、狭山珠樹は腰に手をあててちょっと怒るように言った。勝手に人の部屋に上がり込んでいる者が言う台詞ではないが、実際、以前の家でもピエロの格好をしたこそ泥が忍び込んだと聞いている。そのときは、泥棒は人間花火になったと聞いているが。 「ビュリさんがいないのは残念ですけれど、必殺お掃除人の名にかけて、帰ってくるまでにこの部屋をぴっかぴっかにしてみせるのですわ。その上で、じっくりと防犯についてさしむかえで語り合うのです♪」 ちょっと何かを想像して、狭山珠樹は微かに頬を赤らめた。 「それにしても……」 見回したビュリ・ピュリティアの部屋の中は、なんともごちゃごちゃだ。細かいことを気にしないビュリ・ピュリティアらしく、いろいろな物が出しっぱなしになっている。 「本当に。泥棒が入ったらどうするつもりなのでしょう」 気合いを入れなおすと、狭山珠樹はせっせと片づけを始めた。 「まあ、かわいいカップ。こんなカップを使っているんですのね」 紅茶を飲んだままに放置されているカップを拾いあげて、狭山珠樹がぽーっとしながら言った。こういった物を綺麗にしてあげて、後でビュリ・ピュリティアがどんな風に御礼を言ってくれるのかを想像するとうきうきしてくる。 「いけない、いけない。別に我は御礼を言ってもらうために、お掃除の押しつけをしにきているのではないのですわ」 邪念を振り払うと、狭山珠樹はどんどん掃除を進めていった。 かなりの物が片づいて、やっと床の絨毯が見えてくる。 「あら、この箱はなんでしょう?」 何か不自然な形で床に埋もれていた極彩色の箱を見つけて、狭山珠樹は小首をかしげた。 もしナマモノでも入っていたら大変と、その蓋に手をかけてそっと開いてみた。 ★ ★ ★ 「うーん、倉庫が見つからないぞ。また配置が変わったか、それとも、イコンはどこかにちゃんとしまわれてしまったんだろうか」 迷ったあげくに下宿枝に入り込んでしまった高月芳樹が、困ったように月刊世界樹内部案内図をめくった。地図があっても、迷うときは迷うものである。 「さてと、どうするか。そうだ、確か、あのときはラルクが案外と詳しかったな。今は大学にいっているそうだから、さらに詳しくなってるだろ。問題はどこにいるかだが……。あいつの不幸属性なら、多分大浴場だな。アリアたちと合流するか……」 高月芳樹がそう言ったときだった。 ドーン!! 突然、爆発音が響いて、奥の方の部屋の扉が廊下へと吹っ飛んだ。 「なんだなんだ、鏖殺寺院のテロか!?」 急いで駆けつけると、狭山珠樹が目を回して倒れている。 とにかく、介抱をしていると、騒ぎを聞きつけた風紀委員たちがやってきた。 「はい、どいてどいて」 野次馬をかき分けて、天城 紗理華(あまぎ・さりか)が言った。 「アリアスは、負傷者を運んで」 「分かりました」 アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)が、狭山珠樹を運んでいく。 「まったく、あれほど泥棒よけのトラップは作るなと言っておいたのに。ビュリ・ピュリティアを捜しなさい。後でお説教部屋行きです!」 ★ ★ ★ 「いったい何の音かしら……」 カフェテラスにむかっていたアルディミアク・ミトゥナだったが、大きな音を耳にして寮や下宿枝のある分岐あたりで足を止めた。 「ああ、いいところへ。せっかくの休日を楽しんでいるところ大変申し訳ないが、ノアのピンチだ、力を貸してくれ!」 タイミングよく通りかかったレン・オズワルド(れん・おずわるど)が、パタパタと走り寄ってきて言った。 「どうかしたのですか?」 いきなり懇願されて、少し困惑気味にアルディミアク・ミトゥナは聞き返した。 「それが、ノアが風邪をひいてしまって……」 どうやら、パートナーのノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が病気で寝込んでいるらしい。状態が悪化したので、レン・オズワルドはあわてて医者を呼びに飛びだしてきたということのようだ。 「ヒールは使えないのですか?」 「本人ならリカバリまで使えるんだが、俺はしびれ粉とか毒虫の群れとか……」 「殺す気ですか。分かりました、案内してください」 とんでもないことを言うレン・オズワルドに、アルディミアク・ミトゥナは案内するように命じた。 「うーん、うーん。あれっ? アーちゃんがいる? なんで?」 寮の自室のベッドでうんうんと唸っていたノア・セイブレムは、急にふっと楽になって目を開けた。 「もう大丈夫よ」 ベッドに座ったアルディミアク・ミトゥナが、ノア・セイブレムに手を翳してナーシングを施している。 「冷たくて気持ちいい」 額にあてられたアルディミアク・ミトゥナの手に、ノア・セイブレムが嬉しそうに言った。 「じゃあ、後は、暖かくして栄養のある物を……」 そう言って立ちあがろうとするアルディミアク・ミトゥナの腕を、ノア・セイブレムがつかんだ。 「私は、お姉ちゃんの所に行かないと……」 「じゃあ、私も行く」 ちょっと困るアルディミアク・ミトゥナに、きっぱりとノア・セイブレムが言った。 どうするのかと、レン・オズワルドの方を見てみるが、彼は軽く肩をすくめるだけだ。つまり役にたたない。 「もう元気になったから」 「しかたないわね。おとなしくしないとぶり返すわよ」 そう言うと、アルディミアク・ミトゥナはノア・セイブレムの手を引いてカフェテラスへむかった。