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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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「御無沙汰しております。季節厳しき折、お体の方はいかがでしょうか。こちらは毎日ベアにいじめられて……」
「のおぉぉぉぉぉぉ!!」
 図書室中に響き渡る悲鳴を轟かせて、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)から便箋をひったくってびりびりに破り捨てた。
「これ、図書室で騒ぐと、司書殿に抹殺されてしまうぞ」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、持っていた本の角で、コツンと雪国ベアの頭を叩いた。
「いってえ……。そんなこと言ってもだなあ、俺様の命がかかってんだぞ」
 頭をかかえながら、必死に雪国ベアが言った。
「もうベアったら。ちょっとこの本の山を返してきてください」
「そんなこと言って、その間にないことないことないこと書くつもりだろうが、御主人」
「あることあることしか書きません」
 きっぱりとソア・ウェンボリスが雪国ベアに言った。それはそれで、雪国ベアにとって非常にまずい気もする。
「いいですよ。行かないなら手紙に書きますから。お父様へ、ベアは本を散らかしたまま、全部私のせいにします。そのため、司書の人にひどく怒られ……」
「分かった、すぐに片づけるから。親父さんに報告するのだけはやめてくれえぇぇぇい」
 そう言うと、雪国ベアはその場に『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が集めてきていた本を無造作にかき集めて、書架に戻しにすっ飛んでいった。
「やれやれ、そんなにソアのお父上というのは、怖いお人なのかな」
 理解しがたいなと、雪国ベアの背中を見送った悠久ノカナタがソア・ウェンボリスに訊ねた。
「そんなことはないですよ。ちょっと厳格なところはありますが、優しいお父さんです」
 ニッコリと、ソア・ウェンボリスが答える。
 雪国ベアが席を外したので、これでやっと落ち着いて手紙が書けると、ソア・ウェンボリスはあらためて筆を執って便箋にむかった。
 パラミタにあがってきてから一年余り、特にここ最近の動きは激動に近かった。その中でも、ゴチメイたちとの関わりについて、今回の手紙の中で触れていく。単なる生け簀警備のバイトで一緒になっただけだと思っていたのが、世界樹で迷子になったのを捜しに行ったり、タシガンの古城に捕まったりしたのを助けに行ったりしている間に、ついには十二星華のアルディミアク・ミトゥナを巡って、海賊たちと全面対決することにまで発展してしまった。もし、あの戦いがなかったら、マ・メール・ロアでの戦いはどう変化していたのだろうかと考える。三つどもえになって、さらに混乱を増していたのだろうか、それともツァンダが攻撃されて今の東西シャンバラに別れた状況も大きく変化していたのだろうか。もしという言葉は今にとって無意味な言葉だけれど、そのただ中に自分もいたのだなあとちょっとしみじみする。
 そういえば、世界樹で大ババ様を手伝うはめになって作った飴が、後であんな騒ぎになるとは思いもしなかった。とりあえず、自分たちは無実だと思う。そうでなければ、小ババ様の生みの親?
 サプリメントを飲んだ雪国ベアは、しばらく自分の体型を楽しんでいたようだが、翌日元に戻っていたのには心底安心した。
「そうそう、天沼矛という物ができたそうです。今より簡単に地球と行き来ができるなら、一度帰ってみたいなあと思います。もうしばらく顔を合わせていないはずですから。少しはりっぱな魔法使いに近づけたでしょうか。P.S.ところでお父さんは、4月1日にパラミタに来たりはしてなかったですよね?」(V)
 ソア・ウェンボリスは、そう手紙を締めくくった。
 そのころ、『空中庭園』ソラは、書架の前に人の迷惑顧みずに鳥類図鑑を広げてうんうん唸っていた。
「よいしょっと。あ、歩きにくいですねえ」
 丸メガネの学生が、苦労して『空中庭園』ソラが散らかした本を避けながら歩いてきた。なんとも危なっかしい足取りで本を避けていたのだが、ついに足がもつれてつんのめるようにして転んでしまう。運の悪いことに、その倒れる先に、『空中庭園』ソラがいた。
「いったあーい。何をするのよお。早くどいてどいて」
 下敷きになった『空中庭園』ソラが、じたばたと暴れながら叫んだ。
「ああ、すいません、すいません」
 あわてて起きあがると、その学生は丸メガネを直してから何度も何度も謝った。
「もう、本があ……」
「少し片づけましょうよ」
 二人して、散乱してしまった図鑑を集めていく。もともと、こんなに広げていた『空中庭園』ソラが悪いのであるが、このままではまた誰かが転びそうだ。
「おやっ?」
 本を書架に戻していた学生が、床に落ちていた極彩色の長い羽根を拾いあげて小首をかしげた。
「それ私の」
 『空中庭園』ソラは、そのエメラルドグリーンに輝く羽根を取り返すと、自分の明るい秘色の髪に挿した。
「ケツアールの羽根ですね」
「えっ、これがなんの鳥だか分かるの?」
 学生の言葉に、『空中庭園』ソラは目を輝かせた。ずっと調べていたけど分からなかったのに。
「地球の南米に棲むケツアールという名前の鳥ですよ。金剛鸚哥とも呼ばれていますね。ケツアルコアトルを象徴する物でもあります。名前の由来は、そこからですから。それにしても、どこでそれを手に入れたんですか?」
 すらすらとデータを口にしてから、学生が『空中庭園』ソラに訊ねた。
「へえ、そうなんだ。これはね、ヒラニプラの闇市でもらったのよ」
「そうですか……」
 ちょっと何かを思うように瞬間虚空を見つめてから、学生が言った。
「では、いずれまた」
 そう告げると、学生は『空中庭園』ソラと別れた。
 閲覧用の大テーブルに行くと、そこにちょっとした人垣ができていた。
「じゃあ、ここにもお姉ちゃんはいないんですね。まったく、どこに行ったのかしら」
 小ババ様をテーブルの上に下ろして、アルディミアク・ミトゥナが図書室をキョロキョロと見回した。
「確か、カフェテラスの方に行くのを見かけた気もしますが、ちょっと自信がないですね。ああ、小ババ様はこちらでお預かりしましょう」
 アルディミアク・ミトゥナに答えていた大神 御嶽(おおがみ・うたき)が、小ババ様に手をさしのべた。
「こばー」
 とりあえず、小ババ様はそれでいいようだ。
「では、失礼いたします」
 一礼すると、アルディミアク・ミトゥナはゴチメイたちを捜しに図書室を出ていった。
「おや、かわいいですねえ」
 小ババ様に興味を持ったのか、丸メガネの学生が近づいてきた。
「ちょっといいですか?」
 ポケットから素早くメジャーを取り出した学生が、小ババ様の身長などを測っていく。
「こば?」
「いや、ありがとうございました。かわいいなあ、かわいいなあ」
 しっかりデータを取り終えると、学生はニコニコしながら図書室から出ていった。
「変わった人ですねえ。うちの学生でしょうか」
 最近は他校生の出入りも多いので、今ひとつ確定できないなと大神御嶽が学生が出ていった先に目をやった。入れ替わるようにして、フィリッパ・アヴェーヌがやってくる。
「あら、小ババ様、こんな所にいたのですね。校長室にアイスをお届けしておきました。後でめしあがってくださいね」
「こばー♪ じゅる……」
 フィリッパ・アヴェーヌの言葉を聞いて、喜んだ小ババ様があふれ出るよだれをちっちゃな手で拭った。だが、これがぬか喜びとなることを、そのときの小ババ様はまだ知らなかった。
「お帰りなさいですぅ」
 大神御嶽と一緒のテーブルにいたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、フィリッパ・アヴェーヌを迎える。
「それで、七不思議の話はどうなったんだもん」
 急かすように、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が大神御嶽に督促した。
「今、キネコに資料を取りに行ってもらっていますから、もう少し待っていてくださいね。あのー、くれぐれもぶたないでくださいね」
 大神御嶽は、テーブルの横に立てかけてある野球のバットを見て、ちょっとひきつりながら言った。