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リアクション
「それは、理さんのことだな」
赫夜はイーオンの示唆するところを薄々勘づいているようだった。
「赫夜、状況に任せて胸の内を秘めたままにするのが日本人の美徳なのか? それは奥ゆかしいのではない、臆病で勇気のないだけだ。キミに想う人がいるのであれば、弓削や言い寄ってくる人間には早めに伝えておくべきだ。キミの好きという気持ちが、言い寄ってくる情熱に絆される程度の気持ちだというのなら別だが」
「そんなことはない!」
珍しく赫夜がきっと顔を上げて、イーオンを睨み付ける。その眼差しの強さにイーオンは確信を得て笑う。
「おちついて、赫夜。本当のところを話してみろ。早くしとかないと、“赫夜さんに相応しい者を決める決闘を”とか誰か言い出しそうじゃないか」
くすっと冗談めかしてフィーネは赫夜の肩を抱く。
「時間は無限ではない。急ぎすぎれば仕損じるが、遅きに失して取りこぼすよりはいいと思わないか?」
「フィーネの言う通りだ。そしてキミたち家族であっても、俺は友人としてどんな助力も惜しまない。できることがあれば手伝おう」
「ありがとう」
「なにしろ、赫夜や真珠は腰が重いからな」
イーオンは軽口を叩くと、赫夜は困った顔をした。
「…私も、そう思う。みんな頑固なんだ」
「ただ不器用なだけなんだろう」
と、イーオンは笑った。
甲斐 英虎(かい・ひでとら)と甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)はパーティを楽しんでいた。
「はい、ユキノ」
英虎はかいがいしく、ユキノのためにローストビーフを一口大にきってあーん、と食べさせている。
ぱくっとユキノはローストビーフを口にすると
「トラ! 美味しい!」
「良かったぁーそれにしても涼司もえらくなったよねー。いけてないメガネ、そのメガネは伊達か、と散々言われてたのに…そういえば天文部の双子がこの間『真珠をどうしたら良いんだ』って頭を抱えていたな…よし、真珠さんを探しに行ってみよう、ユキノ」
「ああ! トラ、トラ、それではこぼれてしまうのです」
皿とグラスを手に立ち上がった英虎に、ユキノはその上着の裾を軽く握ってトコトコついて回った。
「あ、真珠さんだ」
英虎は振り袖姿でにこやかに談笑している真珠を見つける。
「…至って普通の女の子に見えるけどなあ…ケテルもマルクトも心配しすぎじゃないのかな…こんにちは、真珠さん」
英虎はユキノを連れて真珠に挨拶をする。
「こんにちは。…かわいいお嬢さんですね」
「こちらはユキノ。俺の最高の妹です」
「トラったら!」
「ふふ、素敵ね」
そこにイーオンやアリアと連れだって赫夜がやってくる。
「楽しそうだな」
「ええ、姉様。…お爺さまとはご挨拶した?」
「いや、まだだ。お前は?」
「私も…」
「待たせたね、赫夜さん!」
その時だった。弓削 理が全身からバラの幻影を伴いながら、取り巻きとなった女子を引き連れて現れる。
「う…理さん…」
「やあ、真珠ちゃんも大きくなって…今やすっかり素敵なレディだ」
「こ、こんにちは、理さん」
「赫夜さん、今日はまた一段と美しい…君が地球を離れてから僕は寂しくて仕方なかったよ。それこそ胸が締め付けられる思いさ…」
「その割には元気そうだが」
「美しい僕の運命の人と会うのに、げっそりしていては男が廃るというものだよ。赫夜さんに会うために最高のコンディションで来たつもりだ。もちろん、剣のうでの方もね」
「はあ…」
「君の花嫁姿、楽しみだなあ」
「理さん、話が飛躍している。私が誰と結婚するのだ?」
「もちろん、この僕だよ」
「…」
二の句が継げなくなった赫夜は何を言っても無駄、と頭を振るが、理はおかまいなしだった。
「トラ…イケメン……ってよく分からないのです。ちょっぴり変わった雰囲気の方でございますね」
「あきらかに赫夜さんとは話が通じていないね」
英虎とユキノはぽつっと呟いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
剣戟試合の時間が近づいてきた。
レン・オズワルド(れん・おずわるど)は真言をエスコート兼、護衛として付いていた。同じく静麻、レイナも同様だ。
レンはスキル「博識」を使い、試合に挑む生徒たちのプロフィールや技名、戦闘スタイルを真言に解説してやっている。
「この赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は居合いの達人です。若いのですが既に家庭を持っていて、非常に良い夫ぶりを見せているようですよ」
「ほう…それはそれは」
真言も、レンの説明に満足しているようだった。
その一方で、羽根季保の仲間が真言を狙ってこないか、試合会場にいる生徒達をチェックする。いざとなったら、非常時には真言の身を守る為に盾となるつもりだったのだ。
(俺は仲間を信じ、藤野氏を守ることに専念しよう)
密かに決意しているレンだった。
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