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リアクション
★ ★ ★
「ああ、いたいた、おーい、菫ちゃーん、ここですよー」
フリーダムに世界樹の周りを飛び回っている茅野菫をやっと見つけて、東の展望台から志方 綾乃(しかた・あやの)が大きく手を振った。
「しまった、鍋パーティーの約束をしていたじゃん。やばっ。行くよ、パビェーダ」
本来の目的をやっとこさ思い出して、茅野菫はあわてて展望台に下りていった。
光の帯が茅野菫たちの乗った箒からスーッと展望台へとのび、志方綾乃の近くに光溜まりを作った。
「わあ、すごーい」
単純に志方綾乃が感動する。これも、茅野菫流のパーティーパフォーマンスだと勘違いしてくれたようだ。
「私が大学に行っても忘れないでいてね」
志方綾乃が、茅野菫にだきついて言った。そう、本来はクリスマスだけでなく、空京大学に進学の決まった志方綾乃のお別れパーティーもかねていたはずなのだ。
「それで、お鍋はどこ?」
志方綾乃の期待に満ちた目で見つめられ、茅野菫が焦った。やばい、魔法の飾りに没頭していて、完全に忘れていた……。
「パビェーダ……」
思わず、茅野菫がパートナーに助けを求める。
だから、調子に乗るなと言ったのにと、パビェーダ・フィヴラーリが肩をすくめる。
いつそんなことを言ったのかと、茅野菫がパビェーダ・フィヴラーリを軽く睨みつけた。
そのときだ。
「わあ、ちゃんと用意してあったんですね。ふふっ、楽しみましょ」(V)
志方綾乃が、テーブルの上に用意された鍋セットを指さして歓声をあげた。
「いったい……」
ちょっと唖然とするパビェーダ・フィヴラーリに、彼女の持ち物である小人の鞄に戻ろうとしていた小人が、軽くサムズアップしてから中へと潜り込んで姿を消した。
「わあ、いい匂い。鍋よね、鍋なんだもん」
匂いに釣られたのか、どこからともなく現れたミューセル・レニオール(みゅーせる・れにおーる)が、志方綾乃にだきついた。思いっきり、そのたっゆんな胸に顔をスリスリする。
「きゃあ!」
「こら、ミューセル、何をしている。いいかげんにせんかっ!!」
ミューセル・レニオールを追いかけてきた滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)が、すぱこーんっとパートナーの頭を張り倒して志方綾乃から引き剥がした。
「わりい、ミューが迷惑かけたな」
滝川洋介が謝るそばから、ミューセル・レニオールが今度はパビェーダ・フィヴラーリにだきつく。
「いいかげんにせんか!」
再び、滝川洋介がミューセル・レニオールを張り倒した。
「ひっどーい。これくらいのスキンシップいいわよね」
何度張り倒されても、ミューセル・レニオールは懲りてはいないようだ。
「ねえねえねえ、私たちも混ぜて混ぜて」
「まあ、パーティーは人が多い方がいいから……」
ゴチメイや校長をパーティーに誘いそこねた茅野菫が、ちょっとしかたないという感じで言った。
「それで、このお鍋。いったい、何鍋なんだもん?」
「それは、当然カレー鍋にするしかありまセーン」
ミューセル・レニオールの質問に答えたのは、カレー鍋を背負って現れたアーサー・レイスであった。
「待て、そんなことはさせないじゃん」
冗談じゃないと、茅野菫が威圧した。せっかくの鍋を台無しにされてはたまったものではない。
「何を言いマース。今やイルミンスール名物となった地祇の出汁入りカレーに勝る物などありまセーン! 寒いときはカレーデース。カレー祭なのデース」
じりじりとアーサー・レイスが近づいてくる。
「さあ、この私とカレーを受け入れるのデース」
「いやー!!」
カレー魔王と化したアーサー・レイスにいやぼんしたミューセル・レニオールが、反射的にサイコキネシスで彼を吹っ飛ばした。
「カレーが……。命をかけてカレーは守りマース!!」
寸胴をかかえたまま、アーサー・レイスは展望台から落下していった。
★ ★ ★
「ぺたぺたぺた。うん、我ながら完璧なできあがりですぅ」
なぜか世界樹の枝の上にあった雪を集めて作った雪だるまを見て、咲夜 由宇(さくや・ゆう)が満足気に言った。
「こうして、雪だるまを作っていると、日本文化に触れているっていう感じがするのだよ」
目の前にほぼ完成した二段重ねの雪だるまをしみじみと眺めて、咲夜 瑠璃(さくや・るり)が顔をほころばせた。
彼女的には、西洋的な三段重ねの雪だるまは邪道である。だいたい、頭と胴体で二つのはずであるのに、三段目はなんだと言うのであろうか。はっきり言って美しくない。やはり、日本的な二段重ねが、完璧なフォルムだと思えるのだ。
「じゃ、後は、このバケツを被せれば完成ですぅ」
咲夜由宇がバケツを雪だるまの頭に載せるのを、咲夜瑠璃はわくわくしながら見守った。
だが、そのときである。
「死んでも、このカレー鍋は、放しませんデー……うぎゃっ!!」
突然上から降ってきたアーサー・レイスが、ほとんどできあがっていた雪だるまに激突した。衝撃で、雪とカレーが周囲に激しく飛び散る。
「熱いですぅ!」
「熱いのだ!」
咲夜由宇と咲夜瑠璃が悲鳴をあげた。二人とも、カレーまみれである。
「あうぅ……。カレー臭いですぅ。瑠璃ちゃん、早くお風呂に行くですぅ」
咲夜由宇が、咲夜瑠璃の手を引いてその場から走りだした。
「雪だるま……。いつか仇はとる!」
崩れた雪に埋もれて気を失っているアーサー・レイスをキッと見つめながら、誓いをたてる咲夜瑠璃であった。
★ ★ ★
「それで、今、世界樹のどの辺を歩いているの?」
立川るるが、日堂真宵に訊ねた。
「それは重要ではないわ。重要なのは、悠久ノカナタがどこに隠れているかということよ」
日堂真宵が、なんだかよく分からない返事をする。
「迷ったんですね」
溜め息をつくように立川るるが言った。
「違うわ。迷子になったのはテスタメントよ」
そう強弁する日堂真宵であった。
「なんだか変なのが歩いているなあ」
二人とすれ違ったマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)が、ちょっと嫌な顔をする。そのまま歩いて行くと、今度は前の方からノルニル『運命の書』とビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が連れだって歩いてきた。
「うっ、うっ、迷ってなんかないんだもん」
なんだか必死に涙をこらえているようだが、ほとんどノルニル『運命の書』は半べそ状態である。
「なんだ、なんだ。迷子かい?」
マサラ・アッサムが、二人に訊ねた。
「うん、りっぱな迷子なのじゃ!」
胸を張って、ビュリ・ピュリティアが自慢した。
「安心しろ、僕も迷子だ」
負けずにマサラ・アッサムが、言い返した。
「私は迷子じゃないもん」
「はいはい、分かったから。出口探そうぜ」
二人の手を引くと、マサラ・アッサムはやれやれというふうに歩きだした。
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