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リアクション
☆
「――ちっ! こんな邪魔が入るなんて計算外よ……!!」
刹姫・ナイトリバーは愚痴をこぼした。
百々との戦いの最中、突然入った横槍に戦いを中断された。横槍を入れたのは月谷 要(つきたに・かなめ)。
「カカカカカ!! 人形どもの邪魔をするなヨ! せっかく面白いことになってるんだからナ!!」
だが、どこか様子がおかしい。そもそも『ナラカの仮面』を着けた要、その正体は親しい者でなければ分からないだろう。
しかし今の彼は人格からすでに違っていた――奈落人の栗科 松(くりしな・まつ)が取り憑いているのだ。
とにかく自分が楽しくあればそれで良いという特有の考え方をする松、人間から生み出された人形が人間を殺しにかかっている今の状況が面白くて仕方ないらしい。
「邪魔するんじゃないわよ!」
かと言って刹姫も負けてばかりはいられない。奈落の鉄鎖にどうにか松の動きを鈍らせて、アシッドミストやサンダーストームで少しずつ体力を奪っていく。
「なかなかやるじゃねーカ!! じゃ、こっちもちょっとだけ本気だすとするカ!! お姫さんも来たようだしナ!!」
「え!?」
見ると、松の後方から乱世と皆無の相手を終えた百々がやって来ている。
それに松の今の肉体は要のもので、取り憑いたばかりで上手に扱えないとはいえ、その実力は相当なもの。
百々まで加わってしまうと、刹姫一人でどうにかなる相手ではないのは明らかだ。
「ふん、ならばこちらも――!!」
刹姫はパートナーである黒井 暦(くろい・こよみ)を振り返った。
今まで事態を静観していた暦。刹姫が百々、松と対戦している間に魔力を温存していたのである。
暦は高らかに宣言した。
「やっと出番か!! せっかくのチャンスじゃ、全員儂の炎で地獄に堕ちるが良いわ!!!」
頼もしいパートナーの出現に、刹姫も気勢を上げる。
「よし、頼むわよ暦!! ……って今全員って言った?」
その疑問を確認している暇はない。ただでさえスピードを上げて迫る松。その後ろからは今にも襲いかからんとする百々。
ルーンの剣で応戦する刹姫とのタイミングを測り、暦は必殺のタイミングで全力のファイアストームを放つ!!
「おおっトォッ!?」
「ぬぅっ!!」
「ってやっぱ私もーっ!?」
百々と松は当然として、味方である筈の刹姫ごと炎に包まれていく。
「ふ、この際じゃから刹姫ごと始末させて貰うとするかの」
と、暦はほくそ笑んだ。だが。
「――残念であったな」
炎の中から、鋭い爪の一突き。
「――しまった!!」
気付いた時にはもう遅い、反応が遅れた暦の腹部に爪が突き刺さった。
激痛と共に意識が朦朧とする。致命傷ではないが、動けない。
「ふふふ……味方ごと敵を葬り去ろうとする姿勢はあっぱれじゃ。その根性に免じて命までは取らぬ。そこで苦しんでいるが良い……」
言い残した百々は、また別な敵を求めて走り去っていく。
その後を、ファイアストームで少々のダメージを負ったものの、まだまだ元気な松が追った。
「これは面白くなりそうダ……やつらの行く先を見届けさせてもらおうじゃないカ」
「……刹姫……」
苦しげに呻く暦。視線の先には、自らの炎で黒コゲになった刹姫がいる。
「……不覚……」
そのまま、暦は気を失った。
深く、深く。深淵なる闇の底へ。
☆
乱世や刹姫の戦いも無駄であるとはいえない。敵を仕留めることができなかったとはいえ、一般市民が避難する時間を稼ぐという側面では重要な意味を持っていた。
仮に彼女らがいなかったなら、今まさに三人官女たちに襲われている市民を護るために尽力している閃崎 静麻(せんざき・しずま)とそのパートナー、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)とクリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)たちはかなりの苦戦を強いられていただろう。
「はいよ、慌てず騒がずに。大丈夫、仮に襲ってきても必ず撃退できるからな」
静麻はこの状況であるにも関わらず、さも平然と市民の誘導に務める。
誘導する側が慌てていては一般市民に伝染し、必ずパニックが起こる。それを避けるためにあえて緊迫した態度を取らす、静麻は誘導に専念していた。
「はいはい、じきに騒ぎは収まる――心配しなくてもいいぞ」
頼りになる奴らがいるからな、と静麻は微笑んだ。
「――ここは通しませんよ」
クリュティは手にしたカイトシールドで突進してきた官女の爪を受け止め、そのまま弾いた。護国の聖域で遠距離からの魔法は防げるものの、やはり接近戦では自ら対処しなければならない。
「私の役目は一般市民の皆さんに指一本触れされない事ですから」
冷静なクリュティは余計な手出しをせずに、防御に専念していく。自分を狙ってくれるなら市民に攻撃が飛ぶ心配はない。
ひたすら攻撃に耐えている間に、攻撃に適した者が人形を撃退してくれるだろう。
「――ハッ!!」
気合一閃、飛び掛ったレイナは両手に持ったレプリカ・デュエ・スパデで素早い攻撃を繰り広げる。
致命傷を与える必要はない。目的は敵を下がらせること。
クリュティを攻撃していた官女を大きく弾き飛ばし、三人の官女人形を取り囲むような鋭い動きで翻弄していく。
もともとヴァルキリーである彼女、生来の飛行能力を活かしつつ、四方八方からの漸撃を加えていった。
そこに、アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)が遠距離から優しの弓で援護攻撃を加える。
雛祭りイベントだから可愛い女の子がたくさん見られるかと思って来場していたアルメリア、とにかく眼福を楽しんでいたのだが、まさかこんな騒ぎになるとは思っていなかった。
「とはいえ戦うのは苦手だし…ワタシはみんなの避難と護衛をするから、こっちは任せて!!」
苦手とはいうものの、アルメリアとてそれなりの実力者だ、前に出て戦うこともできるが、その隙に他の人形が襲って来ないとも限らない。
「ま、あくまで時間稼ぎということで」
今のところはレイナとクリュティが三人官女の相手をしてくれている。
アルメリアはディテクトエビルや第六感である女王の加護を働かせ、周囲の警戒にあたった。
「よし、今だ。二人とも――離れろ!! 」
静麻の合図でレイナとクリュティが三人官女から離れる。
「――ッギャギギガァーーッ!?」
地面に仕掛けられた対電フィールドが作動した。
フィールドの発生に巻き込まれた三人官女は大きなショックを受け、大きく後退させられる。
「――あれは!?」
通常よりも大きな効果を発揮しているフィールドに、アルメリアは驚いた。
「ああ……春の精霊とかいうのからもらったのを使ったんだ」
と、静麻は冷静に答えた。
たまたま雛祭り会場に遊びに来ていた冬の精霊、ウィンター・ウィンターと春の精霊。その春の精霊が幾人かのコントラクターにばら撒いた『破邪の花びら』を静麻は使用したのである。
通常であれば電気に対する耐性のあるフィールドを展開するだけの発生器に花びらを仕込み、本来ならば攻撃能力を持たないフィールドを神聖の属性を持つ強力な防御フィールドに変化させることができたのである。
光輝、神聖の力は刹苦人形たちの最も苦手とするところだ。三人官女たちは一目散に退散して行った。
「便利なものねぇ」
と、アルメリアは感心した。静麻はぽりぽりと頬を掻く。
「ま、使わないのも勿体ないしな。よし、引き続き誘導を続けよう。しっかり頼むぜ」
普段はぐうたらのんびりの静麻だが、こういう時にはビシっと決める。
戻ってきたレイナとクリュティと共に、誘導と護衛を続行する静麻。
それを見たアルメリアもまた、満足そうに頷いた。
「よし、ワタシもがんばろう!!」
と。
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