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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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第8章(4)
 
 
「は〜っはっは! 俺様の一撃を喰らえ!」
 海竜となったゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がアークライト号に体当たりをかます。単純ながらもその巨体による衝撃は大きな物だった。
「どうやらこいつを倒せばほぼ大勢は決するようだな。サクラコ、俺達で奴を仕留めるぞ」
「お任せ下さい。海竜だろうと、海蛇じゃないなら所詮は海産物。猫の敵ではありません」
 白砂 司(しらすな・つかさ)サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が並び、槍と拳を構える。更に篁 透矢がそれに続こうとした。
「俺も行こう。まずはアークライト号への攻撃を止めさせないと――ん?」
「ならその役目は俺に任せてくれ」
 透矢に代わり、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が前に出る。彼はプロミネンストリック――通称PT――と呼ばれるローラーブレード状の飛行器具を履いていた。
「貴方はこの物語を一番知っている、いわば中心人物だ。ならばこの最後の場面、アークライト号に残ってキャプテンとして振舞ってくれれば良い。戦いは……俺達が請け負おう」
「……分かった。エヴァルト、君の力を貸してくれ」
「アイアイサー!」
 エヴァルトが威勢良く答え、サクラコと共に飛び出す。残った司はゲドー海竜を引き付けるべく、大型騎狼『ポチ』に跨った。
「さぁ来い。例え竜であろうとも、この槍で貫いてみせよう」
「生意気な事言ってくれるじゃん! だったらやってみな!」
 ゲドー海竜が大きく首を振り、甲板を一薙ぎにする。司はポチの機動力でそれをかわすと、槍のリーチを活かして鼻っ面に一撃を入れて見せた。幸いゲドーは自身を痛みを知らぬ体躯としている為に、痛覚としてダメージを感じる事は無い。
「おおっ!? ほ、本当にやりやがった!」
「当然だ。さっさと打ち倒して、ハッピーエンドと行かせて貰う」
 司が引き付けた隙を狙い、ゲドー海竜にサクラコとエヴァルトが襲い掛かった。
「さぁ、このサクラコ・カーディの拳、受け切れますか!?」
「PTを使った空中戦……試させて貰おう!」
 二人のグラップラーはゲドー海竜の身体を身軽に跳び回り、次々と重い一撃を入れていく。
「うぉっ!? とっ!? お、お前ら。ちょっと本気過ぎじゃ――」
「中々倒れませんね。さすがは強大な相手です」
「しかも痛覚が鈍いようだ。となると痛みで怯えさせて退かせる事も出来んな」
「え、いやちょっと、そこの格闘家のお二人さん?」
「ならば強力な一撃で打ち倒すしか無いな。サクラコ、エヴァルト、俺の一撃の後に二人で止めを刺せ」
 司を先頭に三人が武器を構える。更にそこに場をかき乱すようにシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が荒ぶる力と怒りの歌を使い、司達の攻撃力を上げていった。
「さぁ! 高らかに歌いましょう! 私による救世の歌を!」
「何やってんの救世主サマァァァァァ!?」
 既に気分は引き絞られた弓を前にした狩りの獲物。気を逸らしたら最後、強力な一撃で食われる事は間違い無かった。
 
 ――そしてこういう時に限って気を逸らす事が起こる物である。
 
「えいっ! 皆、あゆみが助太刀するわよ! 海竜、これを受けなさいっ!」
 水中を泳いできた月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)が水中銃を発射する。水中での運用でこそ真価を発揮するこの銃は、矢のような細長い弾丸が海を駆け抜けてゲドー海竜へと突き刺さった。
「なっ、そっちからも来やが――」
「今だ! 行くぞ!」
「しまっ――」
 司がシーリングランスを放ち、ゲドー海竜の特殊能力を封じる。そしてサクラコとエヴァルトが神速と軽身功を使い、相手の身体を駆け上がって行った。
「これで決めます! タイミングを合わせましょう!」
「承知した! 俺達の一撃……受けてみろ!」
 二人揃って龍の波動を使い、相手の防御力を下げる。そして渾身の力を込めた鳳凰の拳――どこまでもスキルの一致した二人の同時攻撃がゲドー海竜の顎へとめり込み、その巨体を大きく吹き飛ばした。
 
「ほぎゃぁぁぁぁぁ!?」
 
 断末魔を上げ、海へと沈んで行くゲドー海竜。そして再び浮かび上がって来る事は無かった――
 
 
「やっぱり負けたか。ま、仕方ないな」
 戦況を見守っていた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が頭を掻く。こちらにいた者達は殆どが姿を消し、残っているのは良く分からない自称救世主くらいだ。
「お前が宝玉を持っとる奴か! 今すぐ渡して貰うで!」
 彼がいる所に七枷 陣(ななかせ・じん)リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がやって来る。これが最後の戦いだろう。
「渡してもいいんだろうけどな。とりあえず最後の番人としての役割を果たしておくとするか」
 ヒロユキが弓を構え、矢をつがえる。放った一撃は二人の間を抜けて遠くにある船の残骸へと命中し――粉々に吹き飛ばした。
「……凄いなこりゃ。なんだ、これが俗に言うラスボス補正って奴か?」
 撃った本人が一番驚く。だが、対峙する二人は関係ないとばかりに向かってきた。
「リーズ! ちゃっちゃと決めるで!」
「うん!」
 陣の拳が、リーズの剣が、ヒロユキへと襲い掛かる。対するヒロユキもそれを回避しながら矢を放つものの、二人の機敏な動きを捉える事は出来なかった。代わりに周囲の残骸が次々と吹き飛んでいく。
「行くよ! え〜い!」
 リーズが剣を突き、振り下ろし、薙ぎ払う。さながらその姿は小さな台風だ。
「おっとっと。こいつは近寄ると危険だな。それに、最後の番人としてはここで女の子を狙うってのも問題があるよな。という訳で……」
 攻撃目標を陣一人に定める。彼の動きだけに注目する事で弓の狙いをつけ易くし、攻撃の機会を伺い続けた。
「……よし、ここだ!」
 相手が止まった瞬間を狙い、矢を放つ。当たれば勝利確定の強力な一撃だった。だが――
 
「やかましいわ!!」
 
「!?」
 パンチ一発。そんな単純な動きで矢を弾き飛ばすと、陣がこちらに真っ直ぐに走ってきた。その形相はまるで鬼のようだ。
「オレは帰る! 帰って早ぅ課題を提出するんや!」
「か、課題だと……? まさか、そんな物で補正を覆したと言うのか? 戦いと課題、どっちが大事だと――」
 
「そんなもん、課題に決まっとるわボケ!!」
 
「ぐはっ!?」
 陣の蹴りが炸裂する。補正によって強力な力を得ていたはずのヒロユキは、それを全て無効化されたかのように吹き飛ばされた。なおも向かってこようとする陣に対し、降参の意志を見せる。
「わ、分かった分かった。こんだけやりゃ俺も十分だ。こいつは渡すからとっとと現実世界に戻してくれ」
「そうやって素直に渡せばいいんや。よっしゃ! リーズ、すぐにアークライト号に戻るで!」
「うん、陣くん!」
 最後の鍵、紫色の光を放つ宝玉を手に入れた陣が船へと引き返していく。ただ一人残ったヒロユキは、その場にゆっくりと横になった。
「何つーか、無茶苦茶だな……色々と」
 
 
「やっと全部の宝玉が揃ったの。これでようやく元の世界に帰れるわね」
 アークライト号の甲板に置かれた七つの宝玉を前にして雉明 ルカ(ちあき・るか)がやれやれといった顔を見せる。彼女は結局殆どの世界でただひたすら釣りを楽しんでいた。もっとも、結局釣れた魚は一匹もいなかったようだが。
「む、光が海に向かって行く。再び扉が開かれるというのか?」
 操舵を担当しているヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が操舵輪の所に戻ろうとする。だが、どうやら光は扉を開いた訳では無かったようだ。代わりに海上にスクリーンのような光の幕が現れ、そこに映像が表示される。
「あれって、最初の港? 小説の最後ってどうなるんだっけ?」
 四谷 大助(しや・だいすけ)篁 透矢に尋ねる。その間も映像は徐々に港へと近づく形で動いていた。
「最後は……長い航海を終え、ロア達が出発した港に帰ってくる所で終わるんだ。そして入港するアークライト号を――」
 その時、映像が港に立っている人物を映し出す。遠くて顔は良く見えないが、二人の男女がいる事は間違い無かった。
(あれは、まさか――)
 説明を忘れ、映像に見入る透矢。その視線は二人の男女へと注がれていた。まるでその姿を目に焼き付けるかのように。
 映像は更に港へと近づく。しかし、その結末を見届ける前に世界が光り始めた。
 それに呼応してこの場にいる者達の身体も光り始め、一人、また一人と現実世界へと還って行く。
 そして最後になった透矢もまた、光と共にこの世界を後にした。
 彼と世界の繋がりが絶たれるその寸前、映像の中の二人が笑ったような――そんな気がした。