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図書館ボランティア

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図書館ボランティア

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ボランティア開始

 ボランティアの募集は多くの学生の耳目を集めた。日常、図書館に入り浸っている者もいれば、「そう言えばあったな」と全く縁のない生活をしていた学生もいる。
 蒼空学園の生徒が多かったものの、他の学校も合わせて100人近い生徒が名乗り出た。
「これなら溜まりに溜まった業務も片付きそうね」
「何人かでも継続してくれれば嬉しいんだが」
「慣れた人には、アルバイトでも頼んでみるか」
 図書館関係者の嬉しい声が続いた。
 一番希望者の多かったのが、蔵書整理の担当だ。次いでカウンター業務など、空調整備やシステム改善を申し出た生徒もいた。
「それなりに面倒なんだが、簡単に思えるのかなぁ」
「せっかく来てくれたのよ。頑張ってもらいましょうよ。あら、また希望者かしら」
 カウンター前に立っているのは漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)をまとった中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)
「あなたもボランティア希望?」
 綾瀬はゆっくり首を振った。
「ボランティアの募集など、私には関係のないことですわ。ただゴーレムのいる書庫の本は読めるのかしら?」
「ゴーレムが落ち着けばだけど、貴重な本は館内貸し出しのみですよ」
「……そう。ではとりあえず一回りさせてもらいましょうか」



 積み重なった本の山。イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)と本の選択に余念がなかった。
「セル、これはどうだ?」
 イーオンは『魔導書の歴史 入門』をセルウィーに見せる。
「よろしいかと思います」
 受け取ったセルウィーは、鞄に本をしまった。これで5冊。いずれも厚みのある本だけに、そこそこの重さとなる。しかしセルウィーにとっては、その程度の重量などものの数ではない。むしろ気がかりは本の品質だった。
「丸暗記したものを持ってても仕方あるまい。役立ててもらった方が良かろう。興味をもつ者が、魔術の門扉を叩く契機になればいいがな」
 暗記にさほど時間はかからなかったと言っても、つまりは古本だ。それを図書館は受け入れてくれるだろうか。しかしボランティア募集の張り紙を前に、イーオンの輝く瞳を見たセルウィーは、「了解しました」と表情を変えずに従っていた。



「もう! 行くの? 行かないの?」
 図書館前ではリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)と言い争いを続けている。
「ったく、わざわざ学園に呼び出すから何事かと思ったら図書館の整理かよ。だいたいがボランティアなんて柄じゃねーだろが」
 アストライトの発言がリカインにグサリと刺さる。
「……あ? あの魔道書のホームシック対策? それこそ余計なお世話だろ」
「……確かに俺様は本だ。こういう場所に永らくいたのも事実。だが! しかし!! 俺様は魔道書なのだ。もう少し言えば大人しく本を読んでいるようなのよりもっとこう……アクティブな方が好きだ。今更連れてこられてもいい迷惑以外の何物でもないわっ!!!」
 禁書写本 河馬吸虎も憤慨している。
「じゃあ、帰ろうか?」
「とはいえ、やはり本が粗末に扱われているのを無下には出来んな……。いいだろう、今日は同胞に免じて手伝ってやる。高いところ? 任せておけ、自慢の念動で片づけてやろうではないか」
 河馬吸虎が納得するとアストライトも了承する。
「……なんて言ってても始まりも終わりもしねぇな。俺の背じゃ高いところは面倒だから石本に任せるぜ。んじゃ、さっさと終わらせるか」



 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は図書館の入り口で、同じ空京大学に所属する藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)と出会った。
「変わったところで会いますね」
「おいおい、まるで俺が図書館にいちゃ駄目って聞こえるぜ」
 優梨子はクスクス笑って「ごめんなさい」と謝る。
「医師を目指してるんでしたね。医学書でも探しに来たんですの?」
「まぁな、医者になるためには、様々な知識を蓄えなきゃいけねえしな」
「私はボランティアの一環で、図書の推薦に来たんです」
「ボランティア? そんなのもあったな。しかし本の整理やカウンターでの応対くらいだろ。気が向かないな」
「ゴーレムのいる開かずの書庫については、何も聞いていないんですか?」
「なんだいそりゃあ」
 優梨子から事情を聞く。
「おー、もしかしたらその開かずの書庫には、俺がまだ読んでないような医学書があったりするんかな?」
 ラルクの片頬がニヤリと笑った。
「かもしれません。行きます?」
「おうよ」


「ボク達は科学の分野を」
 蔵書整理の担当を決めることになり、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は希望を申請した。  
 パートナーのユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)にも異論は無い。近遠が選んだ道なら、何処まででも付いて行くつもりだ。
「では、私が書架ごとに仕分けを」とアルティア。
「運ぶのは我に任せろ」とイグナ。
「それなら私が本を棚に納めますわ」とユーリカ。
 たちまち4人の担当も決められた。

「我はどこでも構わぬ」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)は堂々と受けて立った。
 趣味の釣り、将棋、自転車なども思い浮かんだが、むしろ他人が選んで残ったところを担当する方がヒーローらしいと考えた。

「私たちは『魔法』や『物語』でしょうねぇ」
 薔薇の学舎の佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)仁科 響(にしな・ひびき)は顔を見合わせてうなずきあった。
「ボクは本の推薦もしたいんですが、それは本の整理が終わってからだね」

「我らはどうする?」
「私が決めてもね。どこがいい?」
 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)は希望を出さなかった。
「無数の同族に触れられるのであれば、何処でも構わぬ。むしろ難しければ難しいほどやりがいがありそうじゃ」

 八日市 あうら(ようかいち・あうら)達も似たように考えた。
「せっかくのボランティアなんだから選り好みしちゃダメよ。なんでも引き受けないとね」
 ノートルド・ロークロク(のーとるど・ろーくろく)シギ・エデル(しぎ・えでる)は「そうだね」と納得。
 ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)だけが『オレを数に入れられてもなぁ』と思ったけれども口には出さなかった。



 司書の前にはマスクをした男子生徒を含め3人が立っていた。傍らには黒豹も。
「あなた達? 図書の回収を申し出てくれたのは」
 先頭に立っていたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は「はい」と大きくうなずいた。
「図書館業務の滞留は、そのまま本の停留、延いては知識の停滞です。館内業務が滞っているということは、返却期限が過ぎた図書に対しても、何らアプローチできていないのではないでしょうか?」
「その通りです。でも嫌な思いをするかもと思って、任せるのには抵抗があったのだけど」
「大図書館を有するイルミンスールは、云わば図書館先進校です。そのイルミンスールの御当地ヒーローたる俺が、ズバッと返却遅延者に社会のルールを叩きこんで御覧に入れましょう」
 ‘ぐっ’とポーズを決めたクロセルだったが、回収業務はともかく、‘ご当地ヒーロー’については、司書も他の3人も戸惑うだけだった。
返却遅延図書回収の大義名分の元に、悪質な返却遅延者からいかなる手段を用いても…………」
「ちょっと待って! さすがにそんなことはさせられないわ。とりあえず電話やメールで返却の催促をしてもらえるかしら。あくまでも丁寧に、ね」
 クロセル達に作業場として空き部屋と、部屋の端末から延滞者のリストを引っ張り出す方法を教えて、司書は戻っていった。
「やはり……こんなに」
 クロセルは、回収業務に賛同したリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)橘 美咲(たちばな・みさき)にリストを見せる。
「うっかり忘れたってこともありそうだね。順に電話してみようか」
 リアトリスの提案に、クロセルと美咲も作業にとりかかる。
「一ヶ月以上も返さない人もたくさんいるのね。えーっと、らぶらぶぬ……こたんは今日も……、なんて半年以上も借りっぱなしになってるわ」
 美咲はため息をつく。
 リストを分けると、3人は手分けして催促の電話をかけたり、メールを送ったりし始める。
 リアトリスのパートナーで黒豹のヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)は、『朕の出番はないのか』とばかりに、リアトリスの足元で大きなあくびをした。