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リアクション
セミナーハウスにほど近い山の中、王大鋸(わん・だーじゅ)は『血煙爪』を片手に木を切っていた。
その様子を少し離れたところで見ているラピス・ラズリ(らぴす・らずり)と立川るる(たちかわ・るる)。さすが家業だけあって、大鋸の『血煙爪』さばきは素晴らしかった。
大きな幹が音を立てて倒れると、大鋸は二人の方を振り返った。
「で、何だって? 使い方を教えろっつーのか?」
「うん! 立派な血煙爪アートを作るために、王ちゃんさんには血煙爪の使い方を教えて欲しいんだ」
と、翼をぱたぱたさせながら寄ってくるラピス。
大鋸は小さな彼の持つ『血煙爪』を見て言う。
「血煙爪ってぇのはな、扱いを間違えると簡単に怪我しちまうから気をつけろ」
と、大鋸は『血煙爪』についての説明を始めた。
るるは近くに置いた荷物からラピスの『パラミタがくしゅうちょう』を見つけると、その場へしゃがみこんだ。
いくつもの力作が描かれたそれをぱらぱらとめくり、最新のものと思われる作品に出会う。上の方に「森の主」と書かれてあり、何やらさまざまな生物の組み合わさった姿をしている。
「ラピス、これを作るつもりなのかー……」
相変わらずの腕前だと思いつつ、るるは鞄から筆を取り出した。――るるが、ちょっと手を加えてあげておこう。
目線より上の物を切るのは駄目だと言われたラピスが、翼をぱたぱたさせて宙に浮いてみせる。
「大丈夫、僕は守護天使だから空を飛べるんだもん。上の方だって切ったり削ったりできるよ!」
その間にるるは、顔と思しき部分に手を加えた。
「タヌキがモデルかな、瞳に星を付け加えて……」
血煙爪アートがどれほどの難易度かは分からないが、その生物の瞳が輝く。
「これは耳? あ、きっとパラミタオオサンショウウオね!」
と、実物を思い浮かべて目の前とそれと見比べる。そしてるるは尻尾と思しき部分に手を加えた。
「これは胴、だよね? うーん……人力車にしか見えない」
さらりとひどいことを言ってから、るるはその形を滑らかな曲線へと変えていく。「森の主」というテーマは徐々に影を潜め、生物であるかどうかすら怪しかったものが、さらに怪しく変わっていく。
「うん、分かった! ありがとう、王ちゃんさん」
と、ラピスが設計図を取りに戻ってきて、るるは『パラミタがくしゅうちょう』を手渡した。
「はい、これ」
「ありがとう、るる」
何も言っていないのにそれを差し出したるるに何の疑問も持たず、ラピスは「森の主」の造形へと取りかかった。
一方、セミナーハウス内では佐野和輝(さの・かずき)が逃げていた。
「和輝さん、こっちですぅ!」
と、アニス・パラス(あにす・ぱらす)とスノー・クライム(すのー・くらいむ)に追われる彼に声をかけるルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)。
しかし、ルナのいる方向にはすでに包囲網が張られていた――。
「謀ったな! ルナ!!」
無理矢理連れてこられた和輝はむすっとしていた。
「和輝、諦めて女の子になっちゃおうよ!」
と、アニスが笑うが、そんな気にはなれない。
スノーに視線をやって助けを求める和輝だが、スノーは意地悪に言う。
「ごめんなさい、和輝。アナタの女装が似合いすぎるのが、いけないの」
「……くそっ」
どうしてこうなった。
和輝が以前女装した際の写真を見て、ヤチェルはそれを叶月へ手渡した。
「素敵なお姉様って感じ。というわけだから、よろしくね」
「は?」
あからさまに嫌そうな態度を取る叶月だが、ヤチェルはルナに呼び出されてそちらへ行ってしまう。
仕方なく椅子に座った和輝を振り返る叶月。写真と同じように女装させるのも悪くはないが、パートナーたちの様子を見ると期待に応えたくなる。
「……よし、とりあえず顔剃るか」
と、女装の完成度を高めるためにカミソリを手に取る叶月。先ほどまでの言葉や態度とは裏腹に、ずいぶんとやる気が感じられる。
別に嫌ではないけれど、そこまですることも――と、和輝が思うも時すでに遅し。前に立った叶月は真剣な目で彼を見ていた。
少しずつ変わっていく彼を見て、アニスはヤチェルの元へ来る。
「ねぇねぇ、松田お姉ちゃん。アニスもイメチェンしたい!」
「あら、やってみる? どんな風にしましょうか?」
と、にっこり笑うヤチェル。
「えっとねー……大人の女になりたい!」
ちらりとアニスを振り返ったスノーにルナは誘う。
「スノーもイメチェンするですぅ」
「え、私も? い、いいわよ」
と、ドキドキしてしまう彼女を引っ張るルナ。
「それでは、さっそく行くですよぉ!」
「きゃっ、ちょっと待ちなさいって――!」
そしてスノーまで椅子に座らされてしまう。
ヤチェルは手始めにアニスの髪を解くと、櫛で梳いた。
「スノーちゃんはそのままで十分に可愛いから、まずはアニスちゃんからね」
と、ヤチェルは言う。その横でにこにこと笑うルナは、つい先ほど会長にショートカットのスノーの写真を賄賂として差し出していた。もちろん、ショートカットのスノーをいじるのはヤチェルにとってもありがたいことなので、ルナの企みに協力しないわけがなかった。
イメージチェンジの噂を聞いた天音は、部屋を訪れるなり状況を把握した。
「へぇ、なかなか面白そうなことをやってるね」
ブルーズもまた室内を見回して、そわそわとする。
新調したばかりの『デジタル一眼POSSIBLE』を構えた尼崎里也(あまがさき・りや)の前で、カジュアルな服を着たセレンフィリティとお嬢様風ワンピースに麦わら帽のセレアナが楽しそうにポーズをとっていた。その様子にブルーズの眠れるコスプレイヤー魂がうずく。
「イメージチェンジのお客様ですか?」
と、寄ってきた翔に天音は笑った。
「いや、それよりも手伝いをしてみたいな」
「お手伝いでしたか。今は、あちらの方が女装をしていらして、奥の方では二人の女性がちょうど席に着いたばかりです」
ざっと説明をした翔に「ありがとう」と、礼を言って、天音は和輝の方へ向かう。
「手伝っても良いかい?」
と、叶月へ声をかける天音。脇に置かれたメイク道具を見ていき、和輝の顔立ちを確認する。
叶月は彼の方が自分よりメイクに慣れていそうだと思い、頷いた。
「ああ、いいぜ」
髪をアップにし、お団子型にまとめたアニスを更衣室へ案内する鬼崎朔(きざき・さく)。
ブルーズはたまらず、朔へ声をかけた。
「これからコーディネートをするのだろう? 手伝っても良いか?」
ヤチェルはスノーの相手をしていてこちらを見ていないし、同好会としても、手伝ってくれる人がいるのは喜ばしいことだった。
朔はブルーズへ頷いて見せた。
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
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