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リアクション
「前髪切らない?」
「いや、これでいいだろ」
と、ヤチェルへ返す叶月。
和輝は袖にフリルの付いた緑色のシフォンワンピースを着ていた。天音の手によるナチュラルメイクで女の子らしさもアップし、足元は茶色のグラディエータ―サンダル、ショートのままの髪には青い花飾りが付けられている。
「すっごく似合ってるよ、和輝!」
「というか、こういう子いるわよね」
「とってもお似合いなのですぅ」
口々に感想を漏らすパートナーたちを見て、和輝は何とも言えない気分になる。
「ねぇねぇ、アニスはどう? 似合ってる?」
と、その場でくるくる回ってみせるアニス。襟ぐりの開いた水色のブラウスに白色のミニスカート、落ち着いた青のワンストラップシューズは厚底でいつもよりも身長が高くなっている。お団子頭がワックスで固められているから崩れないものの、その振る舞いではとうてい大人の女には見えない。
「ああ、いいんじゃないか」
和輝の返答に喜ぶアニス。
アニスとは対照的に、スノーはロリィタ風に仕立て上げられていた。淡い桃色のワンピースのスカート部分はふんわりと広がり、頭には同色のヘッドドレス、白ニーソックスに桃色のシューズと完璧だ。
素晴らしい出来の彼らにヤチェルと里也がカメラを構えると、はっと気づいて和輝が叫んだ。
「ちょ、待て! カメラを向けるな! 写真を撮るなー!!」
和輝たちの写真撮影が一段落付いた頃、アシュレイ・ビジョルド(あしゅれい・びじょるど)が同好会へとやって来た。
「あの、イメージチェンジしてみたいのですが……」
ヤチェルはにっこり笑って彼女を手招きした。
「どうぞ、こちらへ」
アシュレイがそちらへ向かい、ヤチェルに促されるまま椅子へ座る。
「どんな風にしましょうか?」
「えっと……か、可愛くなりたいですっ」
と、和輝たちを見て希望を伝える。片想いの彼のためにお洒落したいアシュレイだったが、自分一人では限界がある。第三者の手が入ることで、新しい自分を発見できるかもしれないと考えてのことだった。
「可愛く、ねぇ……」
手始めにアシュレイの黒いツインテールを解くと、ヤチェルは半ば無意識にはさみを取った。
「毛先、ちょっと痛んじゃってるみたいね。いっそのこと、ばっさり切って――」
「い、いえ、切らないでいいです!」
「あら、そう? じゃあ、痛んでる部分だけでも」
「えっ」
戸惑うアシュレイに構わず、ヤチェルは毛先をちょこちょこと切り始めた。その様子にほっとするアシュレイだが、この同好会はやはり危険な気がしてならない。
ヤチェルははさみを置くと、彼女のそばを離れた。朔やブルーズと何事か相談し、その間に翔がアシュレイへ紅茶を出す。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
と、グラスを受け取るアシュレイ。
翔はにっこり笑うと、仕事を待っている男たちの分の紅茶を作りに向かっていった。その背中を見つつ、アシュレイは喉を潤す。
それからしばらくすると、ヤチェルが戻ってきて言った。
「まずは服を着替えましょう。その後に髪型を決めるわ」
「あ、はいっ」
そしてアシュレイは更衣室へ連れて行かれる。中には様々な女性服がかけられてあり、同好会の本気を見せつけられた気がした。
中で待機していた朔に差し出された服を見て、アシュレイは少しびっくりしてしまう。
「ゴスロリと和ロリ、どっちがいい?」
「え、えっと……」
何でそんな服があるのかとか、小柄なアシュレイに合うサイズなのは何故なのかとか、いろいろ疑問はあったが、ショートカット同好会というのはそういうものなのだろう。
決められない様子のアシュレイにヤチェルがふわふわのゴシックロリィタ服を当ててみる。
「やっぱり黒髪だから、こっちの方がいいかも」
と、次に和ロリをあてがって頷いた。赤地に白や黄の花が咲き、黒レースでところどころ縁取りのされた着物風ワンピースだ。
アシュレイは少しドキドキしながら、それを実際に着た自分を想像してみる。元はといえば日本人なのだから、和服が似合ったっておかしくはない。それなら、ちょっと和から外れたテイストの服であっても……。
「では、これで……っ」
その返答をきっかけに、朔が靴や髪飾りなどの小物を探し始める。
2.三対二
川遊びを存分に楽しんだ後はバーベキューだ。
途中から合流したシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)やリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が中心になって準備を進める。
先ほど捕ったばかりの魚を数えるティセラ。セイニィが言うには、そろそろ呼び出した人たちが来るはずだった。しかし、それだけの人数分ならありそうだと思い、顔を上げる。
「かーわーいーいー!」
髪をポニーテールにしたアシュレイを様々な角度から撮っていくヤチェルと里也。
初めは戸惑って恥ずかしがっていたアシュレイだが、慣れてくるとこの姿も悪くはないと思うようになってきた。それどころか、この姿で外を歩いてみたい気もする。
「お嬢様、お外を歩く際はぜひ日傘を」
と、翔が黒のレース傘をアシュレイへ差し出す。
「ありがとうございます……でも、この格好で外に出ちゃって良いんですか?」
「大丈夫よ。夜までに返してくれれば、何したって構わないから」
ヤチェルがにっこり笑い、アシュレイは嬉しそうにはにかんだ。
「実力を知りたいって、そんなことしなくても優は十分に強いじゃない」
「そうです、わざわざ勝負を挑まずとも実力はあるんですから」
神崎零(かんざき・れい)と陰陽の書刹那(いんようのしょ・せつな)が止めようとするのにも構わず、神崎優(かんざき・ゆう)は目的を果たそうと進み続ける。
「こんな時でなければ、あの人が俺の相手をしてくれることはないだろう」
と、返す優。
「そりゃそうだろうけど、俺もその必要はないと思うな」
神代聖夜(かみしろ・せいや)までそう言いだし、優は彼らへ振り返る。
「真剣勝負とは言ったが、ただ実力を確認するだけだ。そう心配するな」
パートナーたちは互いに顔を見合わせると、仕方なく彼を信じることにした。
女の子たちの賑やかな声が聞こえてくる。その先に目的の人物を見つけた優は、何の躊躇もなく声をかけた。
「ちょっといいか? ティセラ、あなたに用事がある」
「あら、何ですの?」
と、振り返るティセラ。始めて見るその顔にやや疑問符を浮かべるも、優の次の言葉で彼女はすぐさま状況を理解することになる。
「真剣勝負をしたいんだ。俺は、俺の実力がどれほどの物か確認したい」
その場に居合わせた一同の視線が彼らに注がれる。幸いなことに、バーベキューが始まるのはもう少し後になりそうだった。
「いいんじゃねーの? 行ってこいよ、ねーさん」
と、シリウスが口を開き、セイニィも言った。
「そうね。あいつらもまだ到着しそうにないし、修行として付き合ったら?」
「そういえば、そうでしたわね。では、まずは場所を移しましょうか」
と、気分を切り替えて優を開けた場所へと連れて行く。残されたリーブラがそわそわしていることに気づき、シリウスは言う。
「お前も行ってきて良いぜ」
「え、ええ」
はっとしてから、リーブラはすぐにティセラたちを追っていった。
「俺の勝手に付き合ってもらうんだから、今度、紅茶と茶葉をご馳走しよう」
「ええ、良いでしょう。約束ですわよ?」
「ああ」
互いに適当な距離を取り、戦闘に意識を集中させる。零やリーブラの見守る中、最初に動いたのはティセラだった。
大剣型の光条兵器、星剣ビックディッパーを軽く一振り。それをすんでのところで避けた優がティセラの脇を抜けて背後へ回る。
とっさに持ち手を変えたティセラ。その動きに合わせて彼女の肩へ手をつくと、優は上方へ飛んだ。
着地点を見極めたティセラの三度目の行動も直前でかわし、優は一切攻撃行動を起こそうとしない。それどころか、ティセラがわざと見せた隙に優は寸止めをかけてきた。
「それがあなたの戦い方ですのね」
「ふん」
優は余裕を見せたが、十二星華のティセラの方が余裕たっぷりだった。
「では、本気で行かせていただきます!」
先ほどよりも素早い身のこなし。しかしそれでも優は、変わらず相手を受け流すばかりで決定的な攻撃をどちらも与えることが出来ない。
この様子で決着が付くのか、と、一同はやや不安になる。
そしてティセラは剣を構え直し、優もまた体勢を整えて相手を見つめた。
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