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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別

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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第四篇:大岡 永谷×小暮 秀幸
 放課後の教室。大岡 永谷(おおおか・とと)小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は学園祭の企画書を練っていた。
 互いに向かい合うようにくっつけた机に乗せたA3サイズの普通紙に要点を書き出していく秀幸。思いつくことをとにかく走り書きしていこうという方法を採っているにも関わらず、今までに走り書きされた内容は、まるで頭の中で整理しながら書いたかのように理路整然としているところが、いかにも理論派の彼らしい。
「さすがだな。やっぱし、小暮さんは頭いいよ」
 走り書きされた要点を見ながら、永谷は感嘆の声を漏らす。
 抽選で当たって、準備委員になった永谷と秀幸。根が真面目な者同士、偶然決まったにしてはなかなかの好相性だ。
「そもそも情報の整理は軍人の義務だ。戦場では情報の伝達が結果を左右する。つまりは、当然のことであるということだ。別段、褒められることではない」
 秀幸の声は冷静で淡々としている。その物言い永谷はむくれた顔をする。
 先ほどからずっとこの調子なのだ。雑談を振っても、理路整然としすぎなほど理路整然とした答えを返される。度重なる正論の全ては淡々とした声音で、ともすれば冷淡とすら思える。
 しかも、その正論が間違っていないのが、なおさら永谷に反論させるのを難しくしていた。
(何もそんな言い方しなくたっていいじゃんかよ……)
 心の中だけでぼやく永谷。むくれた顔をしながらも、永谷は一つの事実に気付いていた。秀幸にこうした態度を取られると、何故か他の誰かにこうした態度を取られるよりも切ない気持ちが込み上げて来るのだ。
 そして、先ほどから何度もそうした思いをするうちに永谷は気付いた。
 ――秀幸のことが、普段から気になる存在だったのだと。
 永谷にとって任務を通じて秀幸も結構いい奴だと思っているのは本音だった。まだ明確ではないが、将来、一緒に過ごすのもありなのではないかとも思っている。
 秀幸がどう思っているかはわからないが、これが恋なのかなと思いながらも、永谷は雑念を払って真面目に企画書を作ろうとする。なにせ、永谷は秀幸との共同作業を是非成功させたいのだから。
「それでさ――」
 真面目に企画書を作ろうと、永谷が口を開きかけた時だった。
 先ほどから冷静というよりはむしろ、冷淡に近かった表情を崩さなかった秀幸がふっと微笑んだのだ。
「確かに情報の整理は軍人の義務。当然のことだ。だが――」
 そこで一旦言葉を切ると、秀幸は永谷の瞳をじっと見つめる。そして、もう一度微笑むと、静かに口を開いた。
「褒められると嬉しいものだな。ありがとう、大岡殿」
 思わず顔が紅潮するのを必死にこらえながら、永谷はごまかすように早口でまくしたてた。
「こ、この出し物さ……ま、真面目な展示物で見に来る人が多いかはわからないけど、クラスメイトに受け入れられるように努力したいぜ!」
 永谷の様子がおかしかったのか、再び秀幸はふっと微笑む。
 その微笑みを見ながら、永谷は胸中に呟いた。
(現実世界でも、側にいて歩みたいかな)
 こうして、ほんの少しずつではあるが、二人がともに歩む時間は動き出した。
 二人がともに歩む時間が、いつまでも続かんことを。