校長室
十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第四十七篇:長原淳二×雪住 六花 パラミタの無い世界。現代の日本。 長原淳二(ながはら・じゅんじ)は茜色に染まる住宅街を歩いていた。 いつも人通りのそれほど多くない住宅街。広い道路から一本奥に入ってしまえば、もう殆ど人通りはない。 何一つ、いつもと変わらない住宅街の風景。しかし、今日ばかりは少し違うようだ。 一本奥に入った人目に付かない路地。そこでは、数人の不良学生が清純そうな女性を取り囲んでいた。 女性はブロック塀を背後にし、それを数人の不良学生が半円を描くように囲み、退路を完全に奪うという格好だ。 まるで絵に描いたような光景を前に、淳二の身体は反射的に動いていた。 「そのくらいにしておいてはどうです? その女性、迷惑そうですよ?」 路地に入って声をかける淳二。女性は救いの手が差し伸べられたと気付き、恐怖に沈んでいた表情を明るくする。 だが、不良学生たちは揃いも揃って敵意をあらわにした。 「アァ? 正義の味方気取りか、兄チャンよぉ?」 一斉に殴りかかってくる不良学生。彼らの繰り出す拳のことごとくを受け止め、蹴りのことごとくを避けながら、淳二は的確に拳を打ち込んで不良学生たちを倒していく。 しかし、それで引き下がる不良学生たちではなかった。 「もう許さねぇ……ブッ殺したらぁ!」 全員がポケットからナイフを抜いた。 振り下ろされるナイフを淳二は必死に避ける。だが、次第に追い詰められていく淳二。 じりじりと後退を余儀なくされ、ゴミ捨て場まで追い詰められた淳二に、ナイフが突き刺される瞬間だ。 ふと目を落とすと、自分の足元に鉄パイプが捨てられているのが見える。それに気付いた淳二の行動は早かった。 爪先で鉄パイプを拾うと、それを勢い良く垂直に、手の高さまで蹴り上げ、しっかりと掴むと、今まさに自分へと突き刺されようとしているナイフを払う。 それを起点として一気に反撃に転じると、淳二はまるで剣術のように鉄パイプを操って、遂には多勢に無勢を覆し、不良学生たちを撃退したのだ。 淳二が先ほどの路地に戻ると、絡まれていた女性はまだ、同じ場所に残っていた。 「帰ったものかと思いました」 すると女性は答える。 「お礼を言いたくて……ここで待っていれば、もしかして戻ってきてくれるのかと……そう、思って――」 居住まいを正すと、女性は淳二の目をしっかりと見つめて言った。 「…私は、雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)といいます。助けてくれて、本当にありがとうございました」 すると淳二は微笑んで首を横に振る。 「いいえ」 表情を緩め、淳二は言う。 「六花……いい名前ですね。怖かったでしょう、もう大丈夫です」 六花に向けられる眼差しは優しく、次第に緊張がとけていく。 「っと、それは?」 無意識に抱えていた本に、淳二が視線を向けた。 「ああ、これは今読んでいた童話で……娘の危機を、通りすがりの剣士が救うという物語なんです」 「へえ。何だか……今のこの状況に似ていますね」 「ふふっ、そうですね」 物語になぞらえることで、私を気遣ってくれているのが伝わってくる。 「その物語は、その後どうなるんです?」 「ええと……」 その瞬間、目が合った。 「二人は、一目で恋に落ちて…」 六花は自分の顔がみるみる赤くなるのを感じる。 視線を逸らせないまま、淳二も同じくらい赤くなっていく。 その表情で、六花は自分と同じことを考えているのが分かり、嬉しいようなくすぐったいような不思議な気分になる。 (……そうね、ここは本の中) こんな物語のような出会いも、いいかもしれない。 「「あの」」 二人は、重なった声に微笑み合った。