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リアクション
「これ、甘いお菓子です。食べてください」
人が集まる大通り。ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、パラミタから持って来たお菓子を配り、その代わりに、
「『大いなるもの』という存在が、どこに封印されているのか知りませんか? かつて、猛々しき賢者という方が封印したと聞いたのですけど……」
と、聞いて回っているのだ。しかし、やはり手当たり次第では、なかなか必要なことを聞き出すことは難しい。
「はあ。やっぱり、この世界では大いなるものの手がかりを知ってる人は居ないんでしょうか……」
思わず、ため息が出る。
「何言ってるんですか。まだまだ、いろんな人に話を聞かなきゃ分かりませんよ」
ぽん、とその背中を叩くものがあった。ロザリンドが振り向くと、霧島 春美(きりしま・はるみ)が天眼鏡ごしにじーっと彼女を見つめていた。
「で、でも、とにかく手当たり次第に話を聞くしか……」
「そうでもないですよ。こういうものは、聞くべき相手というのが居るんです」
「むむ。こっちの方がそれっぽいですね……」
と、春美がウサギの耳を生やして向かっていくのは、ダウンタウンの方向だ。
「なんだか、どんどん怪しいところに入り込んでる気がするよ」
と、これは彼女の護衛についている超 娘子(うるとら・にゃんこ)。
「た、確かに。こっちの方は、無法者さんたちのナワバリなんじゃあ」
ロザリンドも不安げに呟く。それでも、春美の足は止まらない。
「ニャンコの腕を信用してるのよ……あ、居た居た」
春美が天眼鏡を覗く先には、路地に腕を組んで立っている女性。派手な身なりで、おそらく客が通りがかるのを待っているのだろうと、ロザリンドにも知れた。
「ああいう女の人は、裏の事情に耳ざといものなんですよ。さあ、話を聞きましょう!」
……と、いうわけで、話しかけてみたところ。
「あんたたち、あの女の子の仲間ね?」
と、また別の一角を示された。
そこでは、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が同じようにダウンタウンの住人を相手に、ギターをかき鳴らして歌を歌っている。隣では、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も、控えめに手を叩いていた。
「な、何してるんですか?」
ロザリンドが思わず聞くと、さゆみは演奏の手を止めて手を振り替えしてくる。
「こんにちは。何って、歌ってるのよ」
「歌って……」
調査隊の本分からかなり離れた行動に、ロザリンドはなんと言っていいか分からない。
「普通なら、ジャンゴの手下たちが止めに来るんだけどね。お金を取るわけでもないし、武器を持ってるわけでもないし……連中も、どう文句をつけようかって困ってるみたいよ」
周りに集まった女性たちが、忍び笑いを漏らしている。なかなかに愉快なことがあったようだ。
「わたくしたちが、敵ではないと……信じてもらうのが、先決だと思ったので……」
「私にできるのはこれぐらいだからね。ほら、音楽は世界共通語って言うし」
アデリーヌが言い、さゆみが引き継ぐ。なんとも危うい手だが、案外に有効だったらしい。
「なーに、次に無法者が難癖つけにきても、ニャンコが追い払ってやるから!」
弾む胸を叩く娘子。
「あんた。すごいわね。これ、どうなってるの?」
「うわ、わ、やめるにゃ……」
その体つきと変わった服装が、女たちの興味を引いたらしく、べたべたと体じゅうを触られるハメに陥っている。
「それで、何が聞きたいんだっけ?」
集まっていた女たちが、異邦人たちに興味を示したようにロザリンドたちの話に耳を傾けている。
「『大いなるもの』について、知ってることがないか、聞きたいんですけど……」
春美が聞くと、女たちが、聞いたことがあるようなないような、と話を始めた。話題が世間話と客の金払いについての愚痴を通過するころ、一人の女が思い出したように手を打った。
「そういえば、そんな話、聞いたことあるわよ。いつだったか、探検家だか学者だかって人をお客に取った時に、そういうものが封印された遺跡がある、とかなんとか」
「遺跡!? それ、どこにあるんです? どんな形をしているのですか?」
いきなり目の前に転がってきた情報に、春美が目を輝かせる。
「そこまでは分かんないわよ。 あたしが聞いたのはそれだけだもの」
「そうですか……」
また調べることが増えてしまった。ロザリンドが疲労の色を感じてため息を吐いたとき、背後から底抜けな
「町並みもそっくりだと思ったら、ロザリーみたいな後ろ姿まであるじゃない。おーい……って、ロザリー本人じゃない!?」
大股に歩いてくるのは、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)。ロザリンドのパートナーである。
「テレサ!? あれ、列車に乗って別の町を観に行ったんじゃなかったんですか?」
「いくつか町を回ってきたんだけど……おかしいわね、同じ方向にずーっと乗ってたはずなんだけど」
「それって、いつの間にか線路が一周してるってことでしょうか?」
ぴきーん、と春美の脳細胞に響くものがあったらしい。
「列車に乗ってから、こっちじゃ電話が使えないのに気づいたのよ。で、行けるところまで行って帰ってこようと思って、西に行く列車にずっと乗ってきたのよ」
「ここはハイ・ブラゼルのどこかのはずなのに……マジカルホームズの直感によれば、たぶん、この場所は大きな結界の中ですね。結界の端と端は繋がっていて、ゲートを使わなければ外には出られないのかも知れません」
春美はさらに推理を口にする。路地裏の女性たちは、どうも自分たちに理解できる話ではないと感じてか、娘子を追いかけるのに熱中しはじめている。
「どれぐらい、旅をしたの?」
額の肉球を守りながら娘子が聞くと、テレサは少し考えて、
「列車がどれぐらいの速さで動いてたかははっきり分からないけど……5つくらい、町を回ったわよ。どこも、景色はこの町と似たり寄ったりね」
そう答えた。
「大いなるものが封印された遺跡……それに、この世界そのものも、何か結界のようなものに包まれてるってことですね……」
ロザリンドが呟く。まだまだ、調査すべきことは多くなりそうだ。
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