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リアクション
★3章
――東西シャンバラ・谷間――
双子山の間はロープで仕切られ、その間が観戦ブースやメディアブース、コミッショナールームなど、運営や選手の治療などの様々施設の集合体となっている。
実況もここで行っており、そんな特設の席へ、何故か拉致られた者達がいる――。
*
「今日のろくりんクッキング〜! 今日の先生をご紹介しましょう。リカインさ〜ん」
なぜかナフキン、フォーク、ナイフを用意した泪が、リカインを呼んだ。
*
「はい、こちらリカインです。本日料理をお願いするのは、このお二方です」
レポーターのリカインにマイクとカメラを向けられ、
「あぁ……あ、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)っす、しゃっす……」
「りゅ、りゅーき、き、きき、緊張して何だか言葉遣いがおかしく、あ、わわ、私はマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)ですっ! しゅ、趣味は、掃除、洗濯、裁縫です」
「はい、可愛らしい趣味ですね。このお二方に、東西の契約者達が狩りの合間に美味しく頂いている料理を作って頂きたいと思います。さて、今日は何のお肉を焼くのでしょうか?」
「え……あー……肉焼きセットについてきた生肉と……あーっとは……さっきマティエが狩ってくれた猪と小龍の肉……かなぁ?」
「あ、き、キノコとか、さ、山菜もとってみますた」
「素敵ですねー。三種の焼肉とキノコ、山菜添えが、本日のろくりんクッキングのメニューになりまーす」
何だかハードルが上がる名前だったが、アシスタントディレクターのような不精な男がカンペに『それではご自由に始めてください』と出してきたのを見た2人は一旦見合い、ぎこちない動きのままぐるぐる肉焼きセットを設置し、調理を開始した。
「なんでこんなことになったんだろぉなぁ……まあ……こうしてると、キャンプとか連想できて和むよなぁ」
「私は緊張で倒れそうです……それと、和むのはいいですけど、肉焦がさないでくださいよ」
「にくにくきのこー、にくきのこー…今回焼くのはお肉とキノコだけーぇ」
*
「それでは、いただきまーす」
肉料理が完成し泪の前に運ばれると、なぜか上品にナイフとフォークで食べ始めた。
「んんっ……これは……野生の味ですね! でもとってもデリシャスで肉汁が滴りますよ!」
「んぐ……っ、そりゃどうもぉ……うん、じゃりじゃり炭の味……」
「むぐむぐ……変な歌を歌って焼きすぎるからですよー」
泪に出した完璧な焼き色の肉以外の黒焦げを2人はこっそり食べていた。
「それでは、美味しかったので10点差し上げまーす。私の勝手なポイントでーす」
曖浜 瑠樹、泪に美味しい肉料理を提供――泪ポイント10点。
*
「ミーはもっと濃い味つけが好きネ!」
谷間で未だに睨み合いを続けている2組がいた。
と言っても、友と書いて敵と読む――そういった類であるのは間違いなかった。
「練ちゃんには負けないんだから!」
「ふふーん、葛があたしに勝てるわけないもんねー!」
南天 葛(なんてん・かずら)と木賊 練(とくさ・ねり)がバチバチと火花を散らしていた。
「ボク達、東シャンバラが勝たせてもらうからね。相手が練ちゃんだって、今回は手加減しないから!」
「いいわよー! 今日は敵だから、こっちも手加減なしね!」
しかしながらその熱は、互いのパートナーには飛び火していなかった。
「随分と狩場は激しさを増しているようで……。西の方が優勢でしょうか」
「私は……侍です。刀を振るう戦いは好みますが、それ以外の戦いは中々好めない……。爆弾等で自然災害など引き起こさねばいいのだが……」
ダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)と彩里 秘色(あやさと・ひそく)は、ゆったりとした空気の中雑談を交わしていた。
「私達よりも熟練者が多いのです、大丈夫でしょう。それより彩里様、ヴァルを見かけませんでしたでしょうか? いつの間にか姿を消しており……」
「ヴァルベリト殿か……? ふむ、姿を見てはおりません。もし単独行動をしているのならば、危険ではないでしょうか……?」
秘色は虫除け線香の煙を追いながら、天を仰いだ。
*
「へっへっへ……儲け儲け〜」
ヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)は仲間達に内緒でこっそりと別行動をしていた。
「オレはポイントも知ったこっちゃねえし、売れそうなモノをちゃっちゃと掻き集めてドロンッ! 金を稼がせてもらうぜ」
ヴァルベリトはもはやどちらの所属というわけでもなく、東西シャンバラのステージを勝手に行き来し、野草やキノコをたんまりと風呂敷の中に放り込み、零れんばかりのそれを背負っていた。
「こりゃ……店を持つ日もそう遠くは……」
ピトッ――。
背中に何かが入った。
キノコか、野草か――。
否、それは、
「……虫ッ!?」
うにょうにょと動く虫が、ヴァルベリトの背中を這いずり回った。
*
ううううううううううううううああああああああああああああ――っ!
間の抜けた悲鳴が、谷間の上方から滑ってくる。
「あれ? 葛んとこの……」
「あ、本当だ」
ヴァルベリトが涙を横に流しながら、逃げていた。
最初は虫に怯えておたおたしていたはずが、いつの間にか猪の群れに追いかけられる羽目になり、この状況に至った。
まるで雪崩の如く猪に追われながら、仲間達の元へ南下する。
「あの阿呆は何を……。しかしこのままでは……」
「ダイア殿、これは私達の出番であろう……」
「お願いできますか、彩里様」
秘色が頷き――うわああああああああ、とヴァルベリトが猪の群れに吹き飛ばされたのを合図に、2人が駆けた。
*
ダイアの素早い動きでの錯乱に秘色が一太刀で仕留めるという戦法は、突撃猪相手に見事にハマっていた。
しかしそれでも、数が多い――。
3匹の猪が葛と練の元へ抜けた。
「猪くらい余裕だよ! ボクがスパパパパッてやっちゃうから見ててよね!」
槍を構えた葛が真っ先に向かってくる猪に向かって、間合いを計りながら薙いだ――。
が、急ブレーキで止まった猪を見て、咄嗟に振るいかけた手を止めると、止まった猪の背を踏み台にして直線的にダイブしてきた猪を突いた。
しかし、その猪の背に3匹目が隠れており、突きで身体が伸びきった葛には――、
「危ない、葛ぁッ!」
危うく猪の直撃を受けそうになったが、練が横から突き飛ばしてくれたおかげで事なきを得た。
「こういうのはね、一気にやっちゃうんだよ!」
練は懐から改造した機晶爆弾を取り出し、飛びかかってくる2匹を丁度巻き込める地点に設置しようとした時だ――。
天からの贈り物――ヴァルベリト――が練の目の前の雪に突き刺さると、手にしていた爆弾がその手から零れ、練の真上で飛び込んでくる猪と一緒に爆発した。
巻き込まれた――!
恐怖から目をつぶった練の身体は突き飛ばされた感覚を覚えたが、ゆっくりと目を開けると、自分を抱きしめる様に庇った葛がいた。
「えへへ……ちょっとだけ背中が痛いけど、ちゃんとお返ししたよ」
「葛……もう……可愛いんだから……」
その後、ヴァルベリトから没収したキノコと野草、猪をつかった鍋を、全員で仲良く食べるのであった。
南天 葛、木賊 練、友情ポイント――20点。
ピッ――!
カウントが10:00から09:59へとダウンを開始し、残り10分の終盤戦へと差し掛かろうとしていた。
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