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リアクション
――西シャンバラ・雪山エリア2――
遠くの方でドラゴンの咆哮が聞こえたような気がした。
それは東シャンバラの者達か、あるいは同じ西シャンバラの者達か――。
どちらにせよ、その咆哮に反応したのは契約者であり、また雪火龍も同じだった。
「お、いたな」
葛葉 翔(くずのは・しょう)は姿を現した雪火龍を小高い雪山の向こうに見つけた。
「ふっ、こんなこともあろうかと携帯ゲームで予習は完璧じゃ!」
クタート・アクアディンゲン(くたーと・あくあでぃんげん)の言葉で受け、翔はふんふんと頷き、続きを促し、
「よし、最初の作戦じゃ。 まずは雪火龍を探す!」
盛大にずっこけた。
「もう見つけたっつーのに……」
「冗談じゃ。作戦はワシが特製機晶爆弾の設置。そして小僧は雪火龍を爆弾のある場所までおびき寄せるのじゃ。おびき寄せたらワシが爆弾に衝撃を与えて爆発させる」
「そのままドカーンで……くたばるとでも?」
「怯む程度じゃろうて。だが、怯んだ所で小僧が一撃喰らわせ!」
「それで終わるかね?」
翔は仲間に同意を求めた。
*
「まあ、お嬢ちゃんの頭じゃそれが限界だろう」
桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が毒舌を吐くと、なんじゃと――とクタートが食って掛かろうとした所を、神崎 荒神(かんざき・こうじん)が制した。
「ちょっとちょっと、喧嘩しない喧嘩しない。でもま、爆弾が一番ダメージを与えられそうかな? 随分強力みたいだし?」
「冗談だ、気を悪くしないでくれ。現実的にはそれが一番だな。俺達は第一走者だ。デカブツに傷でも負わせれば次の仲間がなんとかしてくれる」
「今更だけど俺はあっちが良かった。今頃肉をくって暖まりながら、のんびり獲物を待ってるに違いない」
「さっきご相伴に〜なんて言いながら2つも平らげたのはどこのどいつだ」
「男は皆肉が好きでしょ? あんただって美味しく頂いてたじゃない」
男はいいなとクタートは思う。
こうやって軽口を言い合って、戦いの士気を高めるのが女の自分にはうらやましくさえ思う。
となれば最初に煉が言ったのは、ワシを混ぜてくれるためかと思うと、妙に連帯意識を感じてします。
「じゃ、纏まった所で行こうか!」
翔の一言で、煉と荒神は武器を構える。
狩りの始まりだ――。
「しくじるなよ」
「そっちこそ――」
翔を先頭に3人が駆け、クタートは爆弾の設置に向かった。
*
「まずは挨拶代わりの一撃だ!」
雪火龍が近づく3人の気配に気付き振り向いた直後に、翔はその腹に迅雷斬で斬り付け、
「こっちだデカブツ」
バーストダッシュを使い、視線を引きつけた。
「そうそう、初撃を入れ、目立つ行動をとることで注意を引き付ける。定石だぜ、デカブツ」
翔とは反対側から回った煉が睡眠薬を塗った剣で龍の左脚を斬り付けた。
ドスンッ――!
大地を震わすほどの踏みつけで龍も反撃に出るが、喰らってからでは既に遅い。
「ご丁寧に狙いどころを2つもどうも。じゃ、狙いやすい所から行くか」
弓を引き絞った荒神が、まずは翔の切り傷に向けて矢を放ち、続けざまに煉が傷つけた脚を狙った。
「睡眠薬は仕込んでるんだけど、やっぱり早々寝落ちはしないって!?」
「ったりめーだ、こんな相手なんだからよ」
「まだまだぁッ!」
煉と翔がクロスするように入れ替わり、互いに再び切り刻んだ。
そして3人が、ジリジリと後退をかけ、ゆっくりと指定の位置へ向かう。
ヒュッ――!
風切り音が聞こえると、3人は一斉に龍から離れ、身体を伏せた。
ドゴオオオオオオオオッ――!
強烈な爆発が龍の脚元から起こり、それがクタートの放った弓での起爆だと理解するには、あまりに一瞬の出来事だった。
「大剣の3溜め攻撃で部位破壊いったれ! これは砥石代わりじゃ!」
遠くからクタートのパワーブレスを受け、3人は身体を起こし、晴れつつある煙の中に飛び込んでいった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バーストダッシュで背面へ回り、グレートソードを構えチャージブレイクした翔の一太刀が、龍の尻尾に振り落とされた。
が、落としきれない――。
ブンッと尻尾を振り回すほどだ。
それを避けた翔に続いて、今度は煉が背面に回り、同じく一太刀を加えた。
翔の傷跡の上から、より深く斬りこんだが、これもダメ――。
しかし、その傷の深さならば、染み込むかもしれないと、荒神が上空へ放った矢は急降下し、その傷跡に埋もれるように突き刺さった。
グオオオオオオオッ――!
痛みから火球を四方に放ち、辺り一面の雪を溶かす龍に、彼らはこれ以上の深追いはしなかった。
「よし、俺達の役目はここまでだ。 いったん退くぞ!」
「チッ、落としきれないのか……」
「十分、十分でしょッ」
雪火龍もまた、彼らを追うことはせず、別の方向へと翼を羽ばたかせ、飛んで行った。
*
低空でエリアを飛ぶ雪火龍にスノーモービルで近づく者がいた。
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)とパートナーの概念分割の欠片 フェルキアの記憶(がいねんぶんかつのかけら・ふぇるきあのきおく)と概念分割の欠片 フェルキアの力(がいねんぶんかつのかけら・ふぇるきあのちから)だ。
と言ってもフェルキアの力は魔鎧としてウィングに纏われており、フェルキアの記憶はウィングの別回路をして巡っており、実質はウィング1人ということだ。
「既に傷を負っていますね。さて……やる気のほどはいかほどに……ッ!?」
ウィングの殺気に――また『我』に集るかとうっとおしさを感じる雪火龍の火球が放たれた。
「おっと――!」
ウィングはスノーモービルを扱って火球を回避する。
「やる気は十分ですね。さて、お次はいかほどなお手前で……?」
そのウィングの挑発は――囀るな――雪火龍を怒りを煽るに十分だった。
龍はその翼を更に大きく羽ばたかせて加速し突き放すと、大きく弧を描きながらターンし、低空を滑空しながらウィングにその大きな口を開いて滑ってきた。
この攻撃をスノーモービルの上では避けきれないと判断したウィングは、自らの身体を雪の上に投げ、間一髪で龍の口の中に放り込まれずに済んだ。
攻撃が空振りに終わった龍だが、これで1つ追い払えたと上空へ高度を取ろうと身体を伸ばした時だった。
自慢の毒を帯びた尻尾に、先ほど負った痛みとは別の――引っ張られるような痛みに首を傾け見た。
奈落の鉄鎖が傷にひっかかるように絡まり、締め付け、その先端にウィングがぶら下がっていた。
ならば勝負と行こう――。
『我』の尾が千切れるのが先か、貴様が地に堕ちるのが先か――。
龍は一層高い咆哮を上げると、翼を羽ばたかせ、上下左右、人には出せぬ速度で旋回を繰り返し振い落しにかかった。
「くう……」
手首に絡ませ、掌に握る鉄鎖が食い込む痛みに耐えながら、ウィングは堪えた。
自身の身体はもはや振り回され平衡感覚を失いかけ、まるで無重力にいるようだった。
が、ここまで来て一撃も与えられないとは情けない。
ドラゴンスレイヤーを片手に、ウィングは軽身功で振り回される反動を使って龍より高く飛び上がった。
重しがとれた龍は、ウィングが落下ざまに攻撃を仕掛けてくることを読み、尾を振るった。
その一撃をウィングはドラゴンスレイヤーで防ぎ、回転しながらもう一刀を抜いた。
「斬鉄、斬鋼、斬剛、斬鱗。剛剣の極み、殲剛双肢乱ッ!」
その一撃は龍の尾を更に深く斬り付け、もはや繋がっているだけの存在となった。
「あとは……任せるか……」
重力に身を任せて落ち往くウィングは、そう呟いた。
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