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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

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【冬季ろくりんピック】雪山モンスター狩り対決

リアクション

★1章



 ピッ――!
 カウントが30:00から25:59へとダウンを開始した。
「それではまず、対決開始時追いかける立場となっている東軍を中心にレポートしていきますわ」
 リカインの後ろ姿から画面からグングン地を舐めるように奥へ奥へと迫っていった。



 ――東シャンバラ・洞窟エリア1――



「採取か、面倒だな。ま、チーム貢献のためにそれなりにやるさ。鉱石は重いからパスで、俺はキノコでも拾ってくるぜ」
「狭いから、迷子にならないでねぇ」
 ある程度奥に進んで二又に分かれた所での事である。
 別々に採取しようとするソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)清泉 北都(いずみ・ほくと)は、銃型HCを駆使してマッピングをしつつ言った。
「ガキじゃあるまいし。迷子になりも、魔物にやられもしねーよ」
「それがキノコ狩りで迷子になる人の大抵のパターンだって知って……って聞いてないね」
 北都がそろそろ掘り出しますかと博識で洞窟の壁や岩を見ている間に、ソーマは背を向けながら手をひらひらと頭上の上で振りながら通路の奥へ消えていった。
「まあ……大物の気配も危ない感じもしないからいいけどねぇ」
 北都自身がそう感じているのだから、ソーマもまた、危うい感じはしないのだろう。

*

「もう、幸祐。機嫌直して頑張りましょう」
 蘇 妲己(そ・だっき)と細い指で尾が武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)の輪郭を滑るように撫でた。
「フン、俺は怒ってなどいない。ヒルデガルド、とりあえずアゾートのデータを消去だ」
「イエス、マイ、マスター。キャラクターデータ検索………………アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)をデリートしました」
「消去しちゃダメだってば」
 ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が少しばかり目を見開いて蓄積されたデータを本当に消去し始め、妲己はヒルデガルドの頭を軽く小突いた。
 後輩であるアゾートを採取の助っ人に呼ぼうとしたのだが、色よい返事が聞けずにこの場に来たのだった。
「フン。まあいいさ。洞窟に来る前に適当に掻き集めたものはこれで十分として、あとは鉱石だな。ヒルデガルド、こっちも適当に掘って集めてくれ」
「範囲を指定、ターゲットの捕捉……。これより、採取のために乱獲を開始します……!」
「もう、あれじゃあ採取なのか破壊なのかわからないわね。幸祐の不機嫌が移ったのかしら」
 再び幸祐じゃ鼻を鳴らし、腕組みしながら目を閉じ壁に寄り掛かった。
 妲己が洞窟に来る前に集めた草の匂いは、一緒にとられたコケモモの酸っぱい匂いに掻き消されていたが、それが少しばかり落ち着く――。
 フンフンと鼻息荒く鉱石の採取のために大きく岩を削り落とす音の中、仄明るい洞窟に影が射した。
 幸祐達の死角――天井を這うようにした氷小龍がその長い身体を波打たせながら牙を向けてきた。
 それでもまだ幸祐は動かない。動けないわけではない。
「無粋よ。邪魔しないで……」
 何故ならこれしきの相手に自分が手を出すまでも指揮するまでもなく、優秀なるパートナーが2人ついているからだ。
 妲己の殺気は強弱をハッキリと氷小龍に植え付け、その動きを一瞬鈍らせると、採取していたヒルデガルドがバク転を一度、二度として距離を詰め、氷小龍の大きく開いたその口にキャノンを放って頭ごと吹き飛ばした。
「ターゲットを撃破しました! 残存勢力は――」
「チッ……こっちに1匹逃がしちまうは迷子になるわ――おっ?」
 氷小龍が現れた方角から姿を現したのは、脇に大量にキノコを抱え、同じく1匹の氷小龍を引き摺るソーマだった。

*

「ソーマがお世話になったねぇ」
 案の定迷子になったソーマが幸祐達と戻ってきた時には、北都は地べたに腰を下ろして砕いた岩の中から鉱石を1つ1つ確認している時だった。
「こちらとしても助かります。1人でいちいち鑑定などしていられないですから。本当は後輩を呼んでやらせたかったのですが」
「僕らはゆっくりと地道にやる方向で一緒だし、まあのんびりやろうよ。それにしてもソーマ。ろくなキノコを狩ってこなかったねぇ」
 彩り豊か過ぎて怪しい毒キノコの数々、怪しいホウキタケ。
「いいんだよ。食えるのもあったんだから」
 そう言ってソーマが口に運んでいるのはバターで焼いたヒラタケや白雪茸などの食用キノコだった。
「ターゲットを加熱……。調理、開始します……」
「意外と上品なキノコもあるじゃない」
 鑑定できない3人組はいつの間にか、持ち寄ったぐるぐる肉焼きセットと拾ってきた火炎草を駆使して火を起こしキノコを焼いて食していた。
「これじゃあただのキャンプだねぇ。あ、僕にもキノコ頂戴。あーんッ」
「俺も小腹が空くじゃないか。あー……っ」
 ソーマと妲己によりキノコを食べさせてもらった北都と幸祐は、もくもくと鉱石を鑑定し続けた。
 結果的に希少なものは得られず、数だけは集められたその時間は、コケモモリキュールでも作れたならば、最高のキャンプであったに違いなかった。

*

「清泉 北都、武崎 幸祐組、何だかまったりアットホームな感じで過ごしていますが、採取ポイント40点、小型モンスター4点の合計44点が東シャンバラチームに加算されそうです」
「お嬢、そろそろこっちも、小腹が空いてきましたね」
「ミーにもキノコプリーズ、ネ!」
「さて、西シャンバラチームはどうなっているのでしょうか!?」
 リカインと泪が仕事よりも食に意識を向いた男を画面から弾き飛ばしながら、舞台は東から西へと移って行った。



 ――西シャンバラ・雪山エリア1――



 つんと鼻孔に纏わりつくような独特の臭い――。
「えっほ、えっほ……」
「これは……薬草だろうな。こっちは解毒草……。とりあえずこれも加点にはなるだろうからとっておくとして」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は雪を掻き分け、露出した地面から生えている薬草の類を幾らか抜くと、小気味よい掛け声をあげるパートナーであるエイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)に声をかけた。
「エイミー。少しは手伝ってくれないだろうか? なかなか希少性あるものが見つからなくてね。このままでは平凡な点数で終わってしまう」
 黙々と木々の間でスコップを振るうエイミーは、焚いている虫除け線香の煙の先にいた。
「オレとしてはボスの援護をしてるんだよ」
「穴掘りが……かい?」
「何を……ッ! 立派なトラップじゃん。これで猪あたりを一網打尽とか考えてるわけで、それは結局ボスを助けることにもなるんだよ!」
「ふむ。そういうトラップの類が時間制限のある今回役に立つかどうかは置いて、ならば設置が終わったらこちらの雪もかいでくれ」
「了解ッ!」

*

 風邪――。
 そうアリサ・ダリン(ありさ・だりん)に言われれば致し方ない。
 体調は憂慮すべきだし、何より不良でこの雪山に参加させるのは酷だと思い、笑顔で床に就かせてきた。
 それでもやはり一緒に楽しみたかったのだが、ここは気持ちを切り替えて、新たに楽しみを見出しながら狩りに馳せよう――。
「アリサちゃんはこれなかったけど、初めてのキノコ狩りを頑張るよっ!」
 桐生 理知(きりゅう・りち)がオーと手を挙げると、北月 智緒(きげつ・ちお)もまた応えて見せた。
「智緒も残念だけどっ、理知といっぱい、いぃぃっぱい、取るよっ」
 理知が、うんしょっと少し大きめな木の籠を背負うと、智緒は虫除け線香に火をつけ、その手に持った。
「智緒、キノコによっては生えてる木が違うから、木を見て知るんだよ! だからここにはいっぱいレアキノコがあるはず」
「う、うん……でも理知……?」
 智緒が仰ぎ、理知もそれに続いて仰ぎ見た。
 ここは雪山エリア1であり、狭い山というのはそもそもの面積がないか、広くとも雑木林になっており、木々の間が道のようなその狭さである。
 そしてここは後者――見上げれば木々の間から見える青空は間隔の広い模様であり、ほとんどが雪をかぶった木々なのだ。
「初めてのキノコ狩りでいきなりレアなんて、ちょっと欲張りすぎたかもね!」
 ビギナーズ・ラックという言葉もあるのだが、往々にしてそれは益を兼ねない。
「そうだねっ、いっぱい採ろうねっ」
「うん、籠いっぱいに詰めよう!」
 そうして理知らは、普通にキノコ狩りを楽しみ始めた。
 フゴッ――!
 あまりに採れるキノコの数はその音を耳に届かせなかった。

*

「ふむ、こんなものか、この辺りは……」
 希少草を中心に探したクレアは、こんもりと山積みにされた戦果を見て呟いた。
 その横ではエイミーが腰をとんとんと叩いており、落とし穴以外にもかなりクレアのために雪を掘ったのがわかる。
「どうも薬学的に使える草を探してしまっていた気もするが、ふふ、私らしいと言えばらしいのだろう」
 点数的にはいかがなものかと問われそうだが、自己採点はらしく、ご満悦なクレアは、労を労うために火炎草を1つとると、その草に火を宿し雪の上に放った。
 消えることもなく雪の上でちりちりと火の粉を散らすそれは、悴んだエイミーの手を温めるに十分で2人で暖をとっていたその時だった。
 ドゴッ――!
 屋根から大量の雪が落ちた時のような、そんな音に身構え振り返ったのだが、それはエイミーが仕掛けた落とし穴に何者かがかかった音だった。
 そしてその穴を超えるように前のめりに倒れていたのは、倒れた際に盛大にキノコを撒き散らした理知と智緒だった。
 クレアとエイミーが駆け寄り、2人を起き上がらせながら穴の底を見ると、突撃猪が2頭、目を回していた。
「ふええ……助かったぁ……」
「キノコ狩りの最中に猪に追い回されたか……こっちで擦りむいた傷に薬草でも塗ってやろう」
 そう言ってクレアが火の元まで行こうとし、途中でしてやったり顔のエイミーに「よくやった」と呟いたのだった。
 治療後、クレアがキノコの鑑定を手伝い、理知が持ち込んだぐるぐる肉焼きセットを使って、穴にはまった猪とキノコを4人でおいしく頬張るのであった――。

 桐生 理知、採取20点――。
 クレア・シュミット、採取20点、小型モンスター4点――。