校長室
ハードコアアンダーグラウンド
リアクション公開中!
ゴングが鳴り響き、試合が開始された。 お互い出方を探っている様子が見て取れる立ち上がりこそ静かな物であったが、アクセルが加速するように段々と激しくなっていった。 「そぉら!」 アキュートが青白磁の後頭部を掴み、そのまま前方に叩きつける。 「ぬぅ!?」 その先にあるのはリング、ではなくパイプ椅子。顔面から突っ込み、青白磁が痛みで顔を押さえた。 「てぇい!」 その直後を狙い、美羽がアキュートにエルボーを放つ。三度、肘を叩きこむとコーナーにスルー。 「ぐっ!」 背中からコーナーにぶつかったアキュートに、美羽が走るとその場で側転。そして飛び掛かりながらエルボーを放った。 「いくよー!」 そしてふらつくアキュートの後頭部を掴み、そのままフェイスクラッシャーで叩きつけた。 「いぇー!」 歓声を浴びる美羽を、九条が捕らえるとコーナーに叩きつける。そして膝を払い、尻餅を着かせる。 「そのキレイな顔を洗ってあげるよ! まじかる☆顔面ウォッシュ!」 ブーツの底をこすり付ける様に九条が何度も美羽の顔面を蹴る。 「さーて、とどめ、いっくよー!」 観客にアピールし、九条がロープへと走る。 「いただきぃ!」 突如、セシルが九条を捕らえるとパワースラムでリングに叩きつける。 「はいはい、ファッキン野郎共は黙りなさいな」 観客席からのブーイングを涼しい顔で受け流すセシル。 「黙るのはそっちかもね!」 九十九がセシルにローリングソバットを放つ。蹲るセシルをそのままロープへと押し込み、スルー。 「てぇッ!」 戻ってきたところを狙い、九十九は身体全体を旋回させながらハイキックを放った。 「あうッ!?」 セシルがダウンし、九十九に歓声が浴びせられる。 「ふはははは! 中々華麗な動きですね!」 「うぇッ!?」 背後からルイが、九十九の腕をクラッチする。 「こいつを受けて立っていられますかね!?」 大技、タイガースープレックスで九十九を投げる。 「うわっと!?」 だが、九十九は空中で回転し、着地した。が、急な事で対応しきれずそのままよろけてロープへともたれかかった。 「ぬ!?」 手ごたえの無さに、ルイの動きが一瞬止まった。 「隙ありですね!」 横からクラウディアが起き上がろうとしていたルイの腕を取ると、ラ・マヒストラルを仕掛ける。 本来ならばフォールに固める技であるが、その途中でクラウディアは技を崩し、腕十字固めへと移行しようとする。 「ふはははは! 中々テクニシャンですが、この筋肉に敵いますかね!?」 技が極まる前にルイが起き上がり、そのまま持ち上げてリングに叩きつけようとする。 「せぇッ!」 だがクラウディアはその勢いを利用し、自身でも勢いをつけフランケンシュタイナーのようにルイを投げる。 「ぬぉッ!?」 たまらず転がされ、そのままルイは場外へと転がっていった。 『リング上は一気にヒートアップ! それぞれ選手がギアをトップに入れた――おっと、吹雪選手が翼選手に近づいたわね?』 『何かの作戦であろうか? 要注意であろうな』 吹雪が、笑みを浮かべながら翼に近づく。 その外見からは戦意は見られず、ゆっくりと歩み寄った。 そして、握手をするかのように手を差し出すと、 「うぁっ!?」 翼の顔面に、口に含んだ液体を吹きかけた。透明な液体であったが、刺激が強いそれが翼の目を襲った。 (これ……この臭い、玉ねぎ!?) 「開始から口に含んでいるのは苦労しましたよ」 吹雪はそう言うと、愉しそうな笑みを浮かべ、リング上に置かれていたパイプ椅子を手に取ると二度、勢いよく翼の背に叩きつける。 呻き声を漏らし、前屈みになる翼を、吹雪がダブルアームスープレックスの体勢に捕らえる。 「てぇっ!」 その吹雪の背中に、奈津のドロップキックが放たれた。 「ちぃッ! 邪魔をしないでくださいよ!」 技を解き、吹雪が拾ったパイプ椅子を振り下ろす。それを奈津は受け止めると、鳩尾辺りを爪先で蹴りあげ、踞る吹雪を場外へと投げ落とす。 そして、手に持ったパイプ椅子を足元に捨てた。 『折角手にした凶器を奈津選手は捨てたわね。師匠として、あれをどう見る?』 『あれは凶器を使わない、というアピールだろう。クリーンファイトに徹する、という意思表示だろうが、この試合でそれが通じるかな』 バロンの言葉通り、奈津はクリーンファイトで翼に挑んでいた。得意のルチャの技でまだ奇襲のダメージが残る翼を攻める。 そして翼をコーナーに叩きつけると、頭を脇に捕らえて奈津がコーナーに上り腰かける。大技、スイングDDTの体勢だ。 「行くぞぉーッ!」 腕を回し観客にアピールすると、奈津はコーナーを蹴り勢いをつけ、大きく身体を振り回す。 「せぇいッ!」 が、そこを狙い翼が奈津を押し飛ばした。頭を捕らえていた腕からすっぽ抜け、奈津の身体だけが空中に残る。 「うぉっと!?」 何とか体勢を立て直し、着地した奈津に今度は翼が飛び付いた。今度は翼がスイングDDTで奈津を振り回し、勢いをつけて頭を叩きつける。 「――!?」 頭が割れるような衝撃に奈津の意識が一瞬飛びかけた。過去にも受けた経験があるが、ここまでの衝撃であったことは無い。 驚く奈津の視界には、先程自分が捨てたパイプ椅子があった。 『椅子の上へDDT! これは効いたわね!』 『ただ殴る以外にもこういう使い方もあるのだよ。奈津はそういう所を気を付けねばならないな』 「うあっ!」 起き上がった翼の背中に衝撃が走る。 「ふはははは! さあ皆さんかかってきなさい!」 ルイがリング中央で場外から持ってきた梯子を振り回していた。自身を軸として回転し、他の選手を凪ぎ払う。 「美羽!」 場外のコハクが美羽にパイプ椅子を投げ渡す。 「おや凶器ですか?いいですとも!この筋肉で受け止めて差し上げましょう!」 「それじゃ遠慮なくまじかる☆スレッジハンマー!」 横からいつの間にかスレッジハンマーを手にした九条が柄でルイの腹に突いた。 「おうっ!?」 突然の攻撃に、ルイの動きが止まった。 「合わせるよ!」 「了解!」 九十九が合図と同時にジャンピングスピンキック。そして九条のドロップキックがルイを襲う。九条は反動を利用し、弧を描いて着地する。 「ぬぅ……まだまだぁッ!」 よろめきつつも、ルイが梯子を持ったまま九条、九十九にぶち当たる。そのままダウンする九条と九十九。 「もらったぁーッ!」 その直後、美羽がパイプ椅子を踏み台にし、飛び上がるとルイの顔面に膝を叩きつけた。 『ステップ式シャイニングウィザード! たまらずルイ選手ダウン!』 『おっと、美羽選手梯子を組み立てているぞ? まだ早すぎるような気がするが……』 梯子を立て終え、美羽が手をかけた直後だった。 「まぁだ早いわ!」 青白磁のチェーンが美羽の足に巻きついた。 「ふん!」 「うわっ!?」 チェーンを引かれ、美羽が梯子から落とされる。 「さっきのお返しじゃい!」 そして高いアングルのボディスラムでリングに叩きつけた。たまらずエスケープする美羽。 「む!?」 直後、青白磁の身体にチェーンが巻きつかれる。 「やーっと楽しくなってきそうであるな」 今まで試合に絡んでこなかった『レメゲトン』が青白磁に巻きついたチェーンを引くと、凶器の本で殴りだした。 「……あぁ、だから正統な試合をしろとあれほど言ったのに……」 場外、その光景を見ていたいるみんが頭を抱えるが、『レメゲトン』にその思いは届かない。 「そぉれ!」 楽しそうに青白磁の鼻に指を突っ込む。 「ふがっ!?」 「良い声で鳴くではないか」 そのまま、引き摺る様にリングを歩くと、 「恨みがあるわけではないが、貴公は我と被るのだよ。チェーンを使う所とかな!」 指を抜き、チェーンを引っ張った。青白磁は体勢を崩し、場外へと転がっていく。 「くっ……」 立ち上がり、体勢を整えようとした青白磁。 「逃がさぬわ!」 そこへ己の本体である魔導書×5を抱えた『レメゲトン』が、ロープの間を縫って頭からぶつかってくる。トペ・スイシーダと呼ばれる技だ。 「ぐぉえッ!?」 通常よりも魔導書の重さを加えた『レメゲトン』のスイシーダに、青白磁が吹き飛ばされる。 「あぐぁッ!」 そして、場外の鉄柵に腰を打ち付ける。たまらず、苦痛の叫びが青白磁の口から漏れる。 「ハァーッハッハッハ!」 両手を広げ喝采を浴び、高らかに笑う『レメゲトン』。 「楽しそうな事してるじゃねぇか! 俺も混ぜろ!」 そんな彼女を見て、アキュートが走る。勢いをつけ、トップロープを飛び越え回転しつつ『レメゲトン』に背中からぶつかっていく。トペ・コンヒーロと言う技である。 「それじゃ次はボクだね!」 続いて九十九が走る。駆けあがる様にトップロープに上ると、勢いそのままに両手を広げ、プランチャをアキュートに浴びせる。これにアキュートが耐え切れずダウンする。 「いよっしゃー!」 九十九が片手を天に挙げる。直後、彼女が見たのはリングから走ってくる翼であった。ノータッチでトップロープを飛び越え、空中で体を捻るブエロ・デ・アギラで九十九に降りかかる。 「私を忘れてもらっては困ります!」 空中戦はまだ終わらない。立ち上がる翼に今度は彼女を付け狙う吹雪がセカンド、サードロープの間を縫って、ドロップキックを放ってきた。たまらず吹き飛ばされ、場外柵に翼の身体が叩きつけられる。 そのまま追い打ちをかけようとする吹雪に、 「あたしを忘れてもらっちゃ困るぜ!」 エプロンに立った奈津がソバットを放つ。よろける吹雪の姿を確認すると、奈津はトップロープを掴んだままセカンドロープに飛び乗ると、ラ・ケプラータを浴びせていく。 場外で倒れている選手の中、ただ一人立っている奈津に歓声が浴びせられた、直後、 「私を忘れないでくださいよ!」 奈津にクラウディアが持ち込んだラダーの頂上からダイブで襲い掛かった。 『空中戦! ドラゴ選手のラダー上ダイブで締めたぁッ!』 『どの選手もダメージは軽くない! 起き上がるのは誰か!?』 ――場外、飛び技を食らった選手で最初に立ち上がったのは青白磁であった。鉄柵に打ち付けた腰の痛みを堪えつつ、場外に置いてあるテーブルを組み立てる。 そして、まだ起き上がれない『レメゲトン』を無理矢理立ち上がらせる。 「さっきの技の礼じゃけんのぉ!」 青白磁が『レメゲトン』の額を殴る。ただ殴るだけではない。拳にはチェーンを巻きつけており、ダメージを上げている。 「あぐッ!?」 たまらず膝を着く『レメゲトン』だが、青白磁の手は休まらない。そのまま無理矢理立ち上がらせ、組み立ててあるテーブルに上らせる。 「極道ボム! 受けてみぃ!」 そう叫ぶと、パワーボムの体勢に入る。しかし『レメゲトン』も腰を落として耐える。 「……ちぃッ!」 舌打ちすると、青白磁は『レメゲトン』の背を殴る。先程のトペスイシーダで腰を痛め、力が入らず持ち上がらない苛立ちもあった。 「お? どうしたよ? まさか持ち上がらないのか?」 「やかましいわ!」 青白磁はそのまま『レメゲトン』をテーブルから落とす。そして、 「ならこいつじゃ!」 そう叫ぶと、青白磁は飛んだ。そして背中から落ちるダイビングセントーンで、『レメゲトン』に降りかかった。 「がぁッ!?」 青白磁の全体重を体幹で受け止め、『レメゲトン』から苦痛が漏れた。 「ぐぅッ……!」 だが、青白磁にもダメージがあった。落ちた衝撃が、痛めた個所を貫き顔を歪ませる。 「これで終わらせんわぁ!」 痛みを堪え、青白磁は起き上がると『レメゲトン』を立たせにチェーンを巻きつける。 「おらぁッ!」 そしてチェーンを引っ張り、引き寄せてヤクザキックが顔面を貫いた。 たまらず『レメゲトン』がダウンするが、そこで終わらせない。再度、青白磁はパワーボムで持ち上げ、場外に叩きつける。 「がはッ!」 緩衝剤の無い場外、『レメゲトン』の身体に衝撃がダイレクトに伝わり、大の字になった。 その直後、根性で痛みに耐えていた青白磁も仰向けになり倒れ込んだ。 『場外では『レメゲトン』選手が深手を負ったようだな。だが極道選手も傷は浅くない。この後戦線に戻れるだろうかな』 『おっと、一方でコーナーでは奈津選手がムーンサルトを狙ってるわよ!』 リングに横たわる翼を確認し、トップロープを上る奈津。だが、翼は即座に立ち上がり奈津の背中をジャンピングハイキックで蹴った。 背中を蹴られた奈津は動きを止める。すると翼はすぐさまコーナーに上がり場外を背に立ち、奈津を同じようにコーナーに立たせる。 「飛びますよ」 そう言うと、翼が飛び上がり奈津の頭を足に挟む。身体を捻りながら、場外へと上体を反らし勢いをつけて奈津を振り回した。 (雪崩式フランケンで場外に投げるのかよ!?) バランスの悪いコーナー上で、奈津は堪えられず場外へと投げ出される。 (高い……! 受け身、取れるか!?) 一瞬でタイミングを計る。場外の床は固い。受け身を取らねばダメージは大きい。 だが、奈津は気づいていなかった。自分の着地点には、青白磁と『レメゲトン』が用意したテーブルがある事に。 薄いテーブルは奈津の衝撃に耐え切れず、二つに折れる。タイミングがずれ、受け身を取る事も出来ず地面に叩きつけられた奈津は、蠢きながらも立ち上がることはできなかった。 『翼選手、奈津選手をテーブル葬! これは痛い! 痛すぎる!』 『あの位置にテーブルがある事を計算しての事だろう。流石試合に慣れているだけある』 翼は投げた勢いをそのまま殺さず回転し、場外に着地する。 「はぁッ!」 そこを狙って、吹雪がテーブルを背中に叩きつけた。のけ反る翼に、更に追い打ちをかけようと吹雪が構える。 だが、翼は飛びあがりドロップキックを放った。吹雪ではなく、テーブルに。 「あうッ!?」 衝撃で顔面にテーブルを叩きつけられ、吹雪が倒れる。翼はそのテーブルを奪い、組み立てると吹雪を引き起こしテーブル上に寝かせた。 「貴女とも、そろそろ終わりにしますよ」 そう言うと一発吹雪に鉄槌を落とし、翼は場外からコーナーへと駆け上る。 そして、両手を大きく広げアピールをすると、飛んだ。 空中で前方へ一回転し、着地点はテーブル。背中から吹雪を押し潰す様に降りかかる。 衝撃に耐え切れず砕けたテーブルに埋もれ、吹雪が大の字で天を仰いだ。その上で、翼が仰向けで同じように天を仰ぐ。 『テーブル葬二連続! 翼選手が得意のスワントーンボムで吹雪選手も葬ったぁッ!』 『これは吹雪選手は暫く立ち上がれないだろう。奈津共々、戦線復帰は無理だろうな』 『場外戦も盛り上がってるけど、リング上はどう!?』 リングでは、場外から戻ってきた美羽とクラウディアが交戦していた。 「てぇい!」 美羽がエルボーを当て、ロープへ走り助走をつける。 「ふッ!」 その勢いを利用し、クラウディアが美羽の身体を回転させ膝に腰を叩きつけるケブラドーラ・コン・ヒーロを仕掛ける。 「あぁッ!」 美羽が悲鳴を上げるが、クラウディアの手は止まらない。ロメロ・スペシャルの体勢に入り、美羽の身体を起き上がらせる。 だが、完全に起き上がる前に足の形はそのままでクラウディアの手が美羽の首にドラゴンスリーパーの様に絡みついた。ドラゴンカベルナリアで美羽の身体を締め上げる。 「てぇっ!」 その背後から、セシルがクラウディアを蹴り飛ばす。解放された美羽はうつ伏せに倒れる。 極まっていた技を邪魔したことに、セシルに観客からブーイングが巻き起こるが彼女は笑顔で中指を突き立てる。 「いきますわよ!」 クラウディアをロープに振る。戻ってきたところを待ち受けているセシルに、クラウディアは飛びつきウラカンラナを仕掛ける。 だが、セシルはそのままクラウディアを抱えて方向を変える。その先にあったのはテーブル。セシルが組み立てておいたものだ。 「そぉれッ!」 セシルがテーブルにクラウディアを叩きつける。テーブルは豪快な音を立てて、真っ二つに折れた。 『リング上でもテーブル破壊! いいわよいいわよ! 派手な展開になってきたわ! どんどんぶっ壊せぇッ!』 一方、場外では飛び技に参加しなかった九条が九十九に近寄ると引き起こす。 「大丈夫?」 「う、うん……なんとか」 少しよろけつつも、九十九が立ち上がる。 「さーって、次はどうしよっかなぁー?」 九条が笑みを浮かべつつ、アキュートを引き起こした。 『おっと、ろざりぃぬ選手がアキュート選手を起こしたわよ? 九十九選手とは結託しているようだけど、学人はこれをどう見る?』 『ろざりぃぬは笑っているよ。これで何事も起こらないわけがないさ』 九条は半分よろけているアキュートを実況席前まで引き連れる。 「あ、そうか、あれやるんだね!」 九十九の頭に、ある事がよぎる。 試合前、九条に『どうすれば試合が盛り上がるか?』という話を聞いていた。それに関して九条の答えは『実況席ぶっ壊せば盛り上がるよ☆』という物であった。 九条が実況席の学人に指示し、機材をできるだけ退けさせる。その光景を見て、九十九の考えは確信へと変わった。 九条が笑みを浮かべて九十九に頷く。 「さて、やろうか!」 そう言って、九条がバックドロップの要領で体を持ち上げた。 「――え?」 アキュートではなく、九十九の身体を。 「さぁてやろうか!」 先程までふらついていたアキュートが、足から九十九を抱えて、 「おぉりゃぁッ!」 「ひきゃああああああ!?」 実況席にパワーボムで叩きつける。真っ二つに実況席は砕け、九十九が目を回して大の字になって倒れていた。 「実況席は!」 「破壊する物!」 九条とアキュートがハイタッチを交わし、其々観客席へと走り歓声を煽った。 「うんうん、特にスペイン語実況席は壊す為に存在するよね」 残った残骸を見て満足そうに学人が頷く。直後、 「最初っからそうする気だったのかぁッ!」 学人をクラッチし、祥子がジャーマンで放り投げた。 「がふぁッ!」 場外の固い床に後頭部を叩きつけられ、学人が呻く。 「ったく……油断も隙もありゃしない」 「壊せと煽ったのはそっちだと思うんだがな……どうやら機材自体は大丈夫なようだ。実況は問題なさそうだな」 「こっちにまでやれって言ってないっての、全く……」 バロンが冷静に機材を集め、祥子はぶつぶつと文句を言いながら新たなテーブルを組み立て設置していた。 学人は投げっぱなしジャーマンに沈んでいたが、恐らくすぐ復活すると思われる。次ページ辺りで。 「……アキュートよ、あの行為は一体なんなのだ?」 ただ漂うだけのウーマがアキュートに近寄り、問いかける。 「いいかウーマ……テーブル――実況席ってのはな、こういう試合ではなんというか、破壊しなきゃならないんだよ。過激で激しくてド派手で……」 「よく解らんのだが……」 「考えるな、感じろ……そうだ、お前に頼みたい事がある」 そう言うと、アキュートはウーマにある事を話し、「じゃあ頼んだぞ」とリングへと戻っていく。 「……何をするというのだ?」 言われた事に、ウーマが一人首を傾げる様に体を傾げた。