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ハードコアアンダーグラウンド

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ハードコアアンダーグラウンド
ハードコアアンダーグラウンド ハードコアアンダーグラウンド

リアクション

「……とまぁ、以上が全ての映像なのですがどうでしょうか?」
 会場。六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)がモニターの映像をストップさせる。
 流れていた映像は、先程まで行われていた試合の光景。この後、放送で流す為に翼と泪に映像のチェックを頼んでいたのであった。
「はぁ……本当に色んな場面が撮られているんですねぇ……」
 感心したような、驚いたような表情で翼が呟く。
「ええ、自前のカメラ以外にも何台か借りてきて使っていますから。何せ出場選手が多いので」
 優希が苦笑する。彼女の傍らには、重そうな機材が置かれていた。
「映像の質はビデオカメラでも問題は無いと思いますが、試合に関しては翼さんに聞いた方が良さそうですね」
 泪が話を振ると、翼が少し顔を顰める。
「……優希さん、でしたよね? 試合に関して、ちょっと問題……というか、お願いみたいな物があるんですが……」
「お願い、ですか?」
「ええ……その……ラダーマッチに関しては特に何も無いんです……ですが……ランブルと金網は……その……」
 少し頬を赤らめ言葉を濁す翼を見て、ああ、と優希が頷いた。
「御心配は要りません。某選手の痴態に関してはちゃんと修正は入れておきます」
「ほんっとうにお願いしますね!? 最近色々問題にされるんですよ!? 他の団体でもついうっかり流しちゃったとか……」
「大丈夫ですよ。放送時には白い光で隠していますから」
 泪が笑いながら言うと、少し安心したように翼が溜息を吐いた。
「けど……大丈夫なんですか、翼さん?」
 少し心配したように優希が翼に言う。
「え? 何がです?」
「いえ……その……怪我なさったようなんですが……」
 優希の視線が翼の身体に巻かれた包帯に注がれる。彼女の身体には、何か所か包帯が巻かれていた。
「ああ、大したことないですよ。ちょっと肋骨とか罅とか入っちゃいましたけどねー」
「じゅ、十分大した事ありますよ!?」
 優希が驚き、声を上げる。
「うん、大した事あるね」
 呆れたように、控室に入ってきたヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が言う。
「あ、先程はどうも」
 翼がヴァイスに頭を下げた。ヴァイスは今回、救護の手伝いを担当していた。試合終了後、翼の怪我を診たのも彼だ。
「お疲れ様です。救護室はもういいんですか?」
 泪に聞かれ、ヴァイスが頷いた。
「一時は大変だったよー。何か観客が運ばれてくるし。超さんに手伝ってもらわなかったら手、回らなかったろうね」
 そう言ってヴァイスが苦笑した。超さん、というのは彼が手伝いで連れてきた【超人猿】の事だ。
「それにしても、あんな試合やった後だっていうのにみんな元気だねー。もう何か打ち上げみたいなこと話してたよ。他にもさっき試合してた魔法少女の人まで治療の手伝いしてたし。一応治療したから大丈夫だろうけど」
「そうですね。嬉々としてインタビュー引き受けていましたし」
「ああ……そうでしたね」
 優希と泪も苦笑を浮かべた。
「インタビュー、ですか?」
「ええ、試合が終わった選手に感想みたいなものを聞いていたんですよ。『またリング上がりたい』とかいう言葉もちらほらありましたよ?」
「また、があったらいけないんですけどね、うちとしては」
 つられて翼も苦笑を浮かべた。
「ああ、そうそう。あんたあんまり無茶しないで安静にしていてくれよ? 治療、不完全なんだから」
「大丈夫ですって」
 ヴァイスの言葉に、翼が笑って答える。
「あの……不完全とは?」
 その様子に、泪が首を傾げた。
「ああ、怪我人多すぎてSP切れちゃって、最低限しか【ヒール】とかこの人にかけてないんだ」
「あの力って便利ですねー。痛みとかすっかりないですよ」
 感動したように翼が言った。
「んなわけで、肋骨とかは治したけど腕の一部に入ってる罅とかそのまま。まあ、本人がいいっていうならいいんだけどね」
「……い、いいんですか?」
「ええ、罅程度怪我に入りませんから」
 そう翼が笑っていった。強がっているような様子は全くない。
「……プロなんですね」
 感心したような呆れたような顔で、優希が呟いた。
「こんにちはー!」
「どうも」
 その時、控室に布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が入ってきた。
「あ、どうもー。どうしたんですか?」
「いえ、お疲れだと思ってマッサージをしに」
「マッサージ?」
「あーそういや、救護室でやってたね、あんたら」
 思い出したかのようにヴァイスが呟く。
「へー……ちょっとやってみようかな。どうも肩がこるんですよねー」
「……ああ」
「なんか共感できそうな気がします」
 とある一点に目を注ぎ、泪と優希がしんみりと頷いた。何処を見ていたかは想像に任せる。
「なら私が上半身をやるわ」
「エレノアがそっちやるなら私が足とかやるね。さあさあ、そこに横になって」
 そう言って佳奈子が翼を長椅子に横になるように促す。
「それじゃお願いしまーす」
 翼がうつ伏せに横になった。その翼の背に佳奈子がタオルを広げると、背中から首にかけて親指で筋を押していく。
「……あ゛ー」
 唸るような低い声を翼が上げる。
「こういう肩甲骨の内側とか、押すと良いのよ」
「あ゛ーそこそこー……いいですー……」
 エレノアの指圧に、翼の顔が蕩けた様に変わっていく。
「さて、じゃ私も」
 そう言って佳奈子が、翼の足を持つ。
「……佳奈子、何するつもり?」
「え? 私もマッサージだよ。テレビで見たんだよねー、タイ式マッサージっていうの」
「いや、それタイ式マッサージと違うと思うんだけど……」
 エレノアが言うが、佳奈子は聞いちゃいない。
「んー……こうだったかなー」
 見よう見まねの上、うろ覚えのマッサージを行った結果、
「……ッ!?」
見事、翼の足首が極まっていた。蕩けた表情から一瞬にして、強張った物へと変わる。
「ちょ!? それ違うわよ!?」
「あれー? おかしいなー?」
 首を傾げながらも、極めた足首を佳奈子は離そうとしない。
 すると、翼は両腕で自分の身体を持ち上げると、くるりとその場で前転するように回る。その際足を掴み、佳奈子をうつ伏せに引き倒す。
「はれ? ……っていたたたたたたた! ギブギブギブ!」
 気づいた時には、翼が佳奈子をアンクルホールドで極めていた。
「ふははははははは!」
 それを見て何がそんなにおかしいのか、ヴァイスが指をさして笑う。
「はぁ……」
 それとは対照的に、エレノアが溜息を吐く。
「あの、止めないんですか?」
「いえ……自業自得ですし」
「み、見てないで助けてよー!」
 佳奈子の悲鳴が、空しく響いた。