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8.物騒な平和論者
――、一般車両1号車


 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は見ていた。静かに、そのトレインジャックの様子を。
「静かにしろ! これよりこの列車は我々【世界開放機構】が占拠する!」
 銃口を掲げ、武装兵が告げる。
 彼らが出てきたのは運転席からだ。つまり、もう運転手も手中に収めているのだろう。
「はぁああああああああああああ〜〜〜〜。せっかく列車の旅を満喫しておったのに」
 草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)は嘆いた。
 そんな彼をよそ目にホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が言う。
「風物詩だね」
 スワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)が感嘆する。
「文化的これい行事というやつか」
「いや、違うから。そーじゃないから!」
「おい、そこ! 静かにしろ!」
 武装兵の一人がにらみを聴かせる。ヘッドギアで顔は見えないが。
 だが、一人は違った。フェイスガードを外し、顔を晒す。細かいキズを何層も重ねた戦士の貌だった。
「俺はWLOを統括するルイス・サイファーだ。我は無用な争いは望まない。もとよりこれは、この列車に乗る者と平和の為である!」
 武装集団が何を言っているのかと思うが、ルイスという男の語りは至って真面目で正常だ。
 勘五郎はよく見ると、彼らが制圧的な武装をしているのに気を取られそうだが、分厚い防護服とヘルメット、強化アクリル防弾盾を揃えているとわかった。防御に重点的な装備ではないかと思う。ブルパップ式アサルトライフルと小機関銃の使用もこれに合わせての武装と判断できた。
 平和論者の狂った集団というわけでは無さそうだ。
「我らはこの列車につまれた危険物を探している。それを回収すれば皆を安全に上野へと送り届ける!」
 その危険物さえ見つかれ安全は保証されるということ。
(全く……せっかくのんびりとした雰囲気を楽しもうと思っていましたのに、トレインジャックだなんてつまらないものに遭遇してしまいました)
 嘆きの思考。だが、そこで中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は考える。
(ですが、飛行機や車等と違って列車は目的地が決まっている……それに異次元走行中では途中下車もできない)
 そう。それは何かを要求するトレインジャックとしては、決定的に破綻している事が多い。
 逃走経路。脅迫的要求。なにより異空間でのジャック行為では、人質を引換とした要求を外部にできない。異空間を抜けてからそれをするというのかだろうか?
(むしろ、異次元走行中の限られた行動時間で、危険物を手に入れようとしている? ……気になりますわね。少し遊んでみましょう)
 漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)をすらせ、綾瀬が立ち上がる。
「なんだ、お前?」
 武装兵が近づいてくる綾瀬に反応する。
「少々あなたたちにご協力しようと思いまして。あなた達の言う【キケンブツ】につきまして心当たりがありますの」
「何!?」
 微笑む綾瀬は手を伸ばし、《召喚》を行う。
 床に召喚陣が光り出し魔王ベリアルが召喚された。