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「ここから先がドラゴンの巣じゃな」

 岩の積み重なった外円部で、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の肩に止まっているアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)が厳かに言った。

「ほ、本当にドラゴンさんは居ないのでしょうか?」

 アガレスの言葉に、リースが岩陰からそーっとドラゴンの巣を覗きこむ。
 その様子を後ろから見ていたマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)が苦笑した。

「大荒野に生息するドラゴンの場合、大抵はこの時間に狩りをしてるんだろ。イルミンスールの大図書館に籠って何度も調べてたじゃねーか」
「そ、それはそうですけど……」

 リースに突っ込みを入れたナディムは頭の後ろで腕を組み、ドラゴンの巣へと踏み出した。すぐ後ろをマーガレットがリースに手招きしながら続いていく。
 その様子に覚悟を決めたリースは、口をぎゅっと引き締めながら、恐る恐ると歩き出した。
 中は荒野と違い、岩が散乱して石も多く、少し歩きにくい。
 ドラゴンの巣へと入ったマーガレットはなぜか嬉しそうにしている。

「マーガレット、なにか嬉しそうですね」
「うん、可愛いドラゴニュートがいたらペットにしたいなーなんて」

 リースの問いにマーガレットは満面の笑みを浮かべると、ナディムの方をちらりと見る。
 ナディムは後ろ向きに歩きながらマーガレットの話に付き合うことにした。

「ドラゴニュートは犬とか猫じゃないってーの。幼いのは可愛いけどすぐ大きくなるし、そうなると俺みたいになるぜ」
「可愛いですよね、小さいドラゴニュートさん」

 ナディムの言葉の一部にリースが便乗し、マーガレットが勝ち誇った笑みを浮かべた。
 そして腕につけていたフルムーンシールドを抱きしめると、うっとりとした表情をする。

「あたし達と戦う気が無い可愛いドラゴニュートがいたら、このフルムーンシールドをフリスビーみたいに投げて、自販機探しの邪魔をしないように遊んであげるの」

 マーガレットがフルムーンシールドを投げる動作をすると、それを想像したリースまでが目をキラキラと輝かせる。

「それで、ちゃんとフルムーンシールドを取ってこれたら頭を撫でてあげるんだ」
「わ、私も撫でていいですか?」
「もちろんよ」

 そんな二人のやりとりに、えーっという顔をしていたナディムが突然足を止めた。
 前を向き、声を出さずに手振りだけで隠れろと合図する。
 四人は近くの岩陰に隠れると、息を押し殺す。

「ど、ドラゴンさんが居たのでしょうか?」

 難しい顔をしたナディムに、リースが小声で問いかける。

「いや、そうじゃないんだけど、なんというか人の気配を感じたんだ。少なくともドラゴンやドラゴニュートじゃないのは確かなんだが……」

 岩陰から慎重に様子をうかがっていると、前方から誰何する声が聞こえてきた。

 ◇

 アウレウスは何者かの気配を感じ、辺りを見回した。
 敵意は無いようだが、万が一ということもある。
 左手でグラキエスとロウを背の後ろに下がらせると、槍を構えた。

「何者だ、出てこい!」

 アウレウスの問いかけに姿を現したのはリースたちだった。
 お互いに敵意が無いことを確認し、依頼について話し合う。
 技術を解析するために自動販売機を持ち帰ろうとしたが、要の部分は地中深くにありそうだということを聞いてリースがおずおずと片手を上げた。

「あ、あの……今回は諦めて、コーラだけを持ち帰った方が良いと思うんです。これだけ目立つ機械なら、ドラゴンさんにも盗られたって分かると思うし、人に奪われたのが分かれば、一番近い村が襲われるかもしれません……」

 緊張しながら話すリースに、銃型HC弐式を確認しながらロウが同意する。

「もうすぐドラゴンたちが帰ってくる時間です。古代王国の技術は気になりますが、地中深くにあるとなれば大がかりな工事が必要になるでしょう。リース君の言うように、今回は依頼のコーラを手に入れて戻った方が良いと思います。
 なによりドラゴンと戦闘になればエンドが危険にさらされますからね、それだけは避けたいです」

 六人はコーラを手に入れると、駆け足でドラゴンの巣から抜け出した。