薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

冒険者の酒場クエスト

リアクション公開中!

冒険者の酒場クエスト

リアクション

 モヒカン村襲撃が始まる少し前。
 飛空巡洋戦艦グナイゼナウの艦橋では、『オペレーション・ファイアーストーム』に集まったメンバーが揃っていた。

「まずは大雑把な概要から説明したいと思います。
 今回の目的はモヒカン村を襲撃、そして種モミを回収、そして人質の救出です。
 これは、幾度となく近隣の村を襲い、悪逆非道の限りを尽くしてきたモヒカンに対する粛清の意味を兼ねているのは言うまでもありません。

 なぜモヒカンが種モミを、と思われる方もいるでしょう。
 これは依頼主とは別ルートから手に入れた情報ですが、奴ら自身が実際に農作業を行っているわけではありません。技術はモヒカン独自の物ですが、実際の労働は攫ってきた人質を使い、強制的に田畑を耕させているとのことです。

 さて、全体の流れですが、まず最初にこのグナイゼナウを旗艦とする強襲部隊がモヒカン村を空爆、強襲をかけます。
 それと同時に回収部隊が侵入し、できれば人質の解放、村の穀物倉庫から種モミを奪取してグナイゼナウの収納コンテナに積み込みます。
 最後にそれを持って帰還し、作戦は終了となります」

 大型モニターを背に、武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)が作戦の概要を説明していた。
 その横に控えたヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)がパネルを操作すると、説明内容に応じて表示される絵が切り替わっていく。視覚的にもわかりやすい進行だ。

「次に、部隊編成ですが……情報収集を主とした索敵部隊は佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)が担当します」

 画面に索敵部隊の文字と名前が表示される。

「激戦が予想される強襲部隊はリブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)レノア・レヴィスペンサー(れのあ・れう゛ぃすぺんさー)

 ヒルデガルドがパネルを操作して、次々と名前を追加していく。

「そして肝心の回収部隊はヒルデガルド・ブリュンヒルデ、蘇 妲己(そ・だっき)セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)オルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)が当たります。
 ここは迅速な遂行が必須のため、鵜飼 衛(うかい・まもる)メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)ルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が支援を行います」

 全員の名前が表示されると、幸祐はパネルの操作を終えて皆の方へ向き直った。
 そしておもむろに帽子を直し、胸に手を当てる。

「最後に、全体の統括はグナイゼナウより武崎 幸祐が執らせていただきます。何かありましたらいつでもこちらに連絡してください。……それでは準備をお願いします」

 幸祐の言葉に全員が頷くと、それぞれの持ち場へと歩き出した。

 ◇

 和輝はアニスとグレイゴーストに乗り、モヒカン村の遥か上空に待機していた。
 二人の役割はモヒカン村とその周辺の情報収集である。
 作戦が夜に行われることもあり、地形の子細なデータや戦況の動きを常に観測する必要があった。
 襲撃先のモヒカンは荒くれ揃いで好戦的であり、独自に多数のイコンを所持している。闇雲に戦っては被害が大きくなるばかりだろう。

「はい、セッティング完了っと。これである程度は戦況を把握できると思うよ〜」
「ありがとう、アニス。敵のイコンには特に注意をしておいてくれ。こっちに向かってくるようなら即離脱する」

 和輝は索敵モードのプログラムを走らせ、まずは地形を走査した。
 経過を示すプログレスバーとパーセントの表示をじっと眺める。
 走査が終わり、作成された地形データを軽く確認してからグナイゼナウに転送していく。
 このデータがあれば、ある程度は不利な部分を補えるだろう。相手は土地を熟知しているとはいえ、有るのと無いのとでは大違いなのだ。

「ねえねえ和輝、村の中を調べてみたらすっごく楽しそうだよ。お祭りでもしてるのかな〜?」

 アニスの疑問に違和感を覚えた和輝は、見ているデータを自分のモニターへ送ってもらう。
 映された映像には、村の各所で宴会を繰り広げるモヒカンたちの姿があった。
 だが、これは……。

「こちらグレイゴースト、グナイゼナウ応答願います」
「こちらグナイゼナウ、グレイゴーストどうかしましたか?」
「村の中を調べたところ、モヒカンたちの数が異常に多いことがわかりました。どうやら別のモヒカン村から集まっているようです。目測ですが、想定の3〜4倍は居ると思われます」
「了解しました。引き続き情報収集をお願いします。以上」

 予想していない事態だった。
 計画当初に想定されていたモヒカンの人数を遥かに上回っているのだ。
 さらに詳しく村の映像を調べると、村を囲う柵の内側に、ずらりと並んだ辮髪が確認された。

「あ、爆発だ」

 アニスの呟きに、和輝はモニターの表示を録画からカメラに切り替える。
 モヒカン村の二か所から、大量の黒煙が立ち上っているのが見えた。
 時計を見れば、オペレーション・ファイアーストームの開始まではまだ時間がある。
 おそらくは別に依頼を受けた者の仕業だろう。

「アニス、集めた情報は精神感応でどんどん送ってくれ。どんな些細なものでも構わない。俺はグナイゼナウに連絡する……」