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【依頼4】コーラを買ってきて


 白い雲が前から後ろへまるで走馬灯のように流れていく。
 そう、あたしたちは今、ペガサスに乗り、伝説のコーラを求めて大荒野まできているのです。

「ヘイリー、走馬灯を見たことがあるの?」
「『こーら』だっけ? それってうまいのか?」

 ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が思わず漏らした言葉に、リネン・エルフト(りねん・えるふと)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が反応した。

「あ、あれ? 声に出ちゃってた? あはは、さすがに走馬灯は見たことないかなあ。……今回取りに行くコーラは分からないけど、普通のコーラならいつでも……」
「ドラゴンの巣ってあれじゃないか?」
「……って、エロ鴉め聞いてないし」

 フェイミィが指す方向を見ると、荒野の中に禿げた高い岩山が立っていた。岩山の周りは大小の岩が広範囲に円を描く形で積み重なっている。その円の内部がドラゴンの巣なのだろう。
 岩山の平地部分には二匹のドラゴンが間を開けて座っており、地面の方には三匹のドラゴンが寝たり動いたりと気ままに活動している。

「どうするリネン、五匹ぐらい成体のドラゴンがいるけど?」
「まずは自販機を探してみましょう。外から見える位置に無かったら、ドラゴンに聞くしかないでしょうね」

 リネンたちが乗るペガサスが滑空して徐々に高度を下げていく。
 それにつれて岩山の巨大さが実感して分かるようになった。

「風下だけど、そろそろドラゴンに気付かれるぜ」

 フェイミィが注意を促す。
 ペガサスが岩山へ近づくにつれて、ドラゴンたちがゆっくりと鎌首を上げ始めた。

「ね、あれじゃないかしら? あそこのガラクタがいっぱい積まれているところ」

 リネンが指差したのは岩山の根本にある大きな亀裂だった。中にはどこからか集めたガラクタが山のように積まれている。
 その隙間から赤い自販機のようなものが一部分だけ覗かせていた。
 しかし、まだ遠すぎて空賊の目でもはっきりとは確認できない。

「交渉お願いするわ、ヘイリー。なんとか穏便にコーラを買えたらいいんだけど」
「まかせといて」

 すでにドラゴンは羽を開き、こちらへ向かっていた。
 ペガサスをそのまま地面に降りさせると、ヘイリーは皆を後ろに下がらせる。
 そして、ドラゴンが攻撃範囲内に入る直前に適者生存で出ばなをくじいた。
 あとはヘイリーの独壇場である。龍の咆哮で話をつけ、自販機のある場所までなら手を出さない約束を取り付けた。
 ドラゴンの気が変わらないうちに、と三人は急いで自販機の前まで移動する。
 周りを埋めていたガラクタをどかし、あらためて確認すると、やはりそれは現代の自販機によく似た機械だった。
 コインを入れる穴、商品を選ぶボタンなど、基本的な使い方は変わらないようだ。

「えっと、お金が……一応、古銭も持ってきたけど。試してみましょ」

 リネンが用意しておいた古銭を入れてボタンを押す。
 ガタンゴトン……ポトッ。
 取り出し口に黒い液体の入った瓶が落ちてきた。

「うわあ、今時珍しい瓶のコーラだよ。って古代のだから古いってこと!?」
「さ、さあ。それよりも、これで依頼の品を手に入れたわ。ドラゴンにお礼を言って帰りましょう」

 リネンたちはペガサスに乗り、帰路に着いた。

「な、なあ、それちょっとだけ飲んでも良いか?」
「一回開けたら炭酸が抜けちゃうからダメだって」

 ◇

 遠くの空を、人を乗せたペガサスが街の方へと向かっていく。
 小型飛空艇に乗って飛び続ける小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、すれ違ったペガサスを見えなくなるまで見送った。

「あれはリネンさんたちかな。どうやら同じ依頼を受けていたみたいだ」
「わ、私より先にコーラを手に入れたなんて!」
「まあまあ、落ち着いて」

 かわいい頬をぷくっと膨らませる美羽を、コハクがなだめる。
 コーラの取得には先を越されたが、自分たちの依頼はまだ終わっていない。

「そもそも、出遅れたのは美羽が蒼木屋でパフェを頼むから……」
「しょうがないじゃない! あそこのドジっこ店員さんのせいで、あんなことになるとは思わなかったんだもん。文句なら私の華麗な脚に言ってよね」
「僕、間違ってないよな?」

 美羽たちが蒼木屋で依頼を受けたとき、本日のお奨めメニューで特選豪華トロピカルパフェが売られていた。
 注文したパフェをわくわくしながら待っていると、運んできた店員さんが、なぜか何もない所で転んでしまったのである。
 宙を舞うトレーとパフェ。
 美羽はそれを得意の足技で華麗に受け止め、店内の喝采を得たのだった。

「そこまでは良かったんだけどね、目立てたし」

 そのあと、感銘を受けた別の客から「マスター、あちらにパフェを」といくつものパフェが送られてきたのである。
 全部食べてから出発するまで、かなりの時間を要したのだった。

「デイブさん、手に入るなら何本でもウェルカムって言ってたけど、古王国時代のコーラってまだ飲めるのかな?」
「飲んでるところを見せてもらいたいね」

 そんな話をしていると高い岩山が見えてきた。
 渡された地図の場所と一致している。あれがドラゴンの巣だろう。

「よーし、一気に行っちゃおう!」

 正面突破で岩山へ向かった二人は、ガラクタの中から綺麗に顔を出している自販機を見つけた。
 二匹のドラゴンが襲い掛かってくるが、すらりと伸びた脚から繰り出す技で、容易に近づけさせない。
 二段蹴りからの真空波コンボを鼻先へぶつけると、一定距離から近づかなくなった。

「今のうちにポチっと、さあ急いで帰りましょう」