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【依頼2】新発見ダンジョン調査


 御宮 裕樹(おみや・ゆうき)ガルフォード・マーナガルム(がるふぉーど・まーながるむ)トゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)麻奈 海月(あさな・みつき)は、ぽっかりと開いた、いかにもな雰囲気が漂うダンジョンの入り口にきていた。

「さてと、問題のダンジョンにやってきたわけだが……みんな、戦闘の準備は大丈夫か?」

 手にした銃剣銃を構えながら裕樹が問うと、ガルフォードは狼の姿になって目を光らせ、トゥマスは笑顔でカリバーンを構えた。一歩後ろに下がっていた海月は凛とした表情のまま無言で頷く。
 頼もしい仲間たちに裕樹は笑みを返し、続いて口を開いた。

「中がどうなっているかは不明だ。しかし、戦闘が起きるとしたら狭い通路の可能性が高いと睨んでいる。
 そこで隊列だが……」

 一通りの説明が終わると、裕樹は蒼木屋で渡された依頼書を取り出した。

「団子虫は虫じゃない、節足動物だよな」

 依頼を受けてからずっと気になっていたのか、書かれた内容を読み返しながらボソッと呟く。
 すると、

「それは些細な問題だぜぃ、裕樹坊」

 と、ガルフォードが呆れ、

「いや裕樹、それぶっちゃけどうでもいいから」

 と、トゥマスが突っ込む。

(兄さん、それって重要なんですか……?)

 海月は唯一口を開かなかったが精神感応で伝えてきた。
 三人からの同時総突っ込みに涙目になりながら、裕樹はダンジョンの入り口へと手を伸ばす。

「早くもチームワーク崩壊の危機に瀕しているが、挫けずに進んで行こう」

 いつものやりとりに緊張をほぐした一行は、暗く潜むダンジョンへと足を踏み入れていった。


 裕樹たちがダンジョン入り口に着いた頃。
 ダンジョンに設置されている全ての照明器具は老朽化という呪いに屈し、内部は暗闇が支配する場所となっていた。
 その中で、ほのかに灯る光が揺れ動く。
 照らし出されたのはメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)鳳 美鈴(ふぉん・めいりん)だった。
 二人も蒼木屋で依頼を受け、ダンジョンを進んでいたのである。
 そして、戦闘が行われていたのだろう。床には無数の巨大コオロギの死骸が横たわっている。
 だが奇妙なことに、それらは全て円を描くように転がっていた。
 その中心に、メンテナンスが平然とした様子で立っている。

「はあはあ……この巨大コオロギ、私には目もくれず……主だけに襲い掛かってきましたね」

 息を切らした美鈴が手にしたランタンで死骸に光をかざすと、メンテナンスは当たり前だ、と答える。

「俺が今回つけているこのマスクがなぜ青いか知っているか? そう、それは捕虫用の特別製だからなのさ!」

 メンテナンスが楽しそうに目深にかぶっていたフードを上げると、辺りを照らしていたランタンの光にうっすらと青色が混じる。
 現れたマスクの表面には、べったりと青い蛍光塗料が塗られていた。

「コンビニに設置されている殺虫機器のアレみたいなものですか。てっきり、今回の偽名が蒼木屋 太郎だったので、それにちなんで青くしてるんだと思ってました」

 美鈴が呆れた様子で感想を述べるが、メンテナンスは肩を揺らしてクククと笑うばかりである。

「使えそうな虫がいたら、捕まえて手懐けるのも悪くないと思ってな。何かの役に立つかもしれないだろう? ……おや?」

 気配を感じた二人が同時に振り向くと、離れた場所に別の光源が現れた。

「……ん、やっぱり虫じゃないよな」

 LEDのランタンを高くかざした裕樹が安堵の声を上げる。
 美鈴がメンテナンスを庇うように立ち、無表情でカタールを構えると、トゥマスが慌てて両手を振った。

「ま、待ってくれ、俺たちは敵じゃない。こんなタイミングで出会うってことは、キミたちも蒼木屋の依頼を受けてきたんだろう?」

 トゥマスの言葉に、メンテナンスは美鈴を下がらせるとフードを被り直した。

「その通りさ。俺は蒼木屋太郎、こっちが美鈴さ」
「あ、ああ、俺は御宮裕樹。そして順にガルフォード、トゥマス、海月だ」

 妙に嬉しそうな雰囲気を出しているメンテナンスに、裕樹も仲間を紹介をしていく。
 ダンジョンは広い一本の通路に大量の横道が存在しているが、そこは虫たちがハマって身動きが取れなくなるほど狭い。目的が同じであるかぎり、通る道も同じということになる。

「人数が多い方が虫の処理も楽さ」

 というメンテナンスの言葉に、六人は協力して進むことになった。

 ◇

「ほいっと一丁上がり」

 裕樹が射撃でとどめを刺すと、最後の巨大コオロギは音もなく倒れて動かなくなる。
 最深部にたどり着き、一行が目にしたのは不思議な音色を奏でる何かだった。
 そして、それに群がるのは無数の虫たちである。
 侵入者を察知するや、襲い掛かってくる無数の巨大コオロギと巨大ダンゴ虫。
 美鈴とガルフォード&トゥマスが前衛を維持し、海月と裕樹が後方から撃ち続けて、ようやく最後の一匹を処理したのだ。

「この音で虫を引き寄せていたのか。早く止めないとまた追加がやってくるぞ」

 裕樹が虫の集まっていた何かに近づき、死骸を片づけてしげしげと眺めた。
 おそらく古代の装置なのだろう。オルゴールのような箱が、網状になった虫かごの中に収納されている。
 オルゴールから流れてくるゆっくりとした音色は、虫たちが居なくなっても止まる気配を見せなかった。
 なんとか止めようと裕樹が調べていると、横合いから手が伸びてくる。そして角から伸びている突起物を下げた。
 辺りに響く音が小さくなっていき、やがて完全に沈黙する。

「どうしてこれがスイッチだってわかったんだ?」

 裕樹が振り返り、不敵に笑うメンテナンスに問いかける。
 フードの下から青白い光を放つマスクを覗かせながら、メンテナンスは答えた。

「なに、虫集めの仲間意識ってやつですさ」


 機能の停止したオルゴールを入り口で待っていた依頼主に渡し、裕樹たちはその場を後にする。
 気が付けば、一緒にいたはずのメンテナンスたちはいつの間にか姿をくらましていた。

「それにしても、大元の原因がコオロギ寄せの魔法の掛かった古代の装置とはねえ」

 オルゴールの動作を止めた後、のんびりと調査を進めていたら、それが置かれていた台座の下に隠された説明文を見つけた。
 それによると、どうやら古代の富豪が作った『コオロギを呼び込む装置』だったらしい。

「その音色を楽しむために。で、なんの効果によるものか……どうしてダンゴムシまで引き寄せちまったんだろうな。虫よせってかいてあったら裕樹坊は詐欺だとうるさかっただろうに」

 なんでわかってくれないんだ……と呟く裕樹を笑い声で囲みながら、四人は帰路につくのであった。