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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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●第1章 花を見よう、花を食べちゃおう

 空京の一角にある公園が、遅咲きの桜を始めとした様々な花々と、集まる人々とで、賑わう――。

 空京へと買い物に来ていた羽切 緋菜(はぎり・ひな)たちは、公園の近くを通りかかると共に、花祭りのチラシを渡されていた。
「花祭りねえ……」
「花祭りですかあ、食べ物は出るのかしら〜」
 羽切 白花(はぎり・はくか)はそう言いながら、チラシを覗き込んで、食べ物の屋台があることを確認すると目を輝かせた。
「なんか面白そうですね。ねえ二人ともちょっと覗いてみませんか?」
 羽切 碧葉(はぎり・あおば)も向かいたいことを告げる。
(なんかこいつ等は乗り気ね。私は早く帰って、お茶飲んでダラダラしたいのに……)
 2人の様子に緋菜は渋った顔をする。
「少し覗くだけなら、良いじゃないですか。桜も綺麗ですし……ね?」
 それでも食い下がらない碧葉に、緋菜は首を縦に振る。
「私も、つくづく甘いわね」
 ぼやきつつ、先に公園へと入っていくパートナー2人に続いて、緋菜も歩き出した。

「あちらから良い匂いが、お菓子とかが食べられるみたいですねえ。では、早速」
 花の展示コーナーを抜け、匂いにつられて広場の方へ向かおうとする白花の手を緋菜と碧葉が取る。
「行きたい気持ちも分かるけど、駄目よ。嫌な感じがするし、食べ物なら後で買ってあげるからここは我慢なさい」
「う〜でもでも、美味しそうな匂いがして、楽しそうですよ?」
 嫌な予感がすると諭す緋菜に、賑わいも聞こえてきて楽しそうな感じを白花は伝えようとする。
「今日のところは止めておきましょう?」
「……分かりましたぁ。お2人がそういうなら、今回は諦めますわ」
 2人の真剣な顔に、肩を落としつつ、白花は下がった。
 そして、3人は作成コーナーの方へと足を向ける。



「こんにちは、美緒ちゃん。お花祭りで会うのは2度目だね!」
 展示された花の間をパートナーのラナ・リゼット(らな・りぜっと)と共に見て回る泉 美緒(いずみ・みお)へと声を掛けてきたのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だ。
「こんにちは、ノーン様」
「こんにちは。お1人ですか?」
 挨拶を返しながら訊ねてくるラナに、ノーンは「ええ」と頷く。彼女のパートナーである御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は仕事中であるため、1人で花祭り会場の散策をしていたのだ。
 ノーンがそう返答すると、美緒が折角出会えたのだから3人で見て回ろうと提案して、歩き始めた。
「このお花は何て名前なの?」
 濃い黄色い花を中心に、白い小さな花で周りを飾った可愛らしい鉢植えをノーンが指す。
「小さいのはカスミソウだと思いますわ。黄色いのは……お姉様は分かりますか?」
「私も分かりかねます。申し訳ありません……」
 メインとなっている黄色い花の名を美緒もラナも応えられず、眉を寄せる。
「わわ、2人とも落ち込まないで! それだけ、普段から見慣れないお花もあるってことだもん。名前が分からなくても、そんなお花に出会えるなんて素敵だよね」
 2人の様子にノーンが慌てて言葉を返す。
「そうですわね」
 申し訳無さそうに眉を寄せていた美緒も彼女の言葉に頷いて、3人は再び、別の鉢植えへと足を向けた。

「そろそろ一人で回るね。今日はありがとー!」
 花の展示や屋台を一通り見て回る頃には、ノーンは美緒たちと別れる。
 そして、片隅のベンチへと向かうと、徐に携帯電話を取り出して、メールを打ち始めた。
 相手はもちろん、パートナーの陽太だ。美緒たちと展示などを見て回ったことや楽しかったことを織り込んで、画像も添付したメールを送ると、程なくして返答が送られてくる。
『環菜と2人でノーンからのメールを楽しく拝見しました。綺麗な花の画像や祭りの賑やかな雰囲気と、何よりノーンが花祭りを楽しんでいる様子が伝わって来て、とても嬉しい気持ちになれました』
 仕事で訪れることの出来なかった彼にも楽しんでもらうことが出来ただろうか。
 ノーンは、携帯電話の画面に1つ微笑みかけてから、立ち上がると、また会場を歩き始めた。



 パートナーである鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)と共に、花祭りの会場を訪れた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、ふと昨年のことを思い出した。祭りの名から勘違いをして、密かに仏像を探していたのだ。
 それも良い思い出だが、今日、共に訪れた望美とは子どもの頃によく一緒に遊んだ間柄で、祭りへもよく行っていた。
「お兄ちゃんとお祭りに行くのは久しぶりね」
 望美も彼とよく祭りに行っていたことを思い出し、懐かしそうに微笑む。
「そうでありますね。今日はあなたが行きたいところ、見たいところに向かうといいであります」
「そう? それなら、まずは食べ歩くよ! 花のお菓子は全種、コンプリートするんだから!」
 剛太郎の言葉に、望美がそう告げると、早速、食べ物の屋台が並ぶ辺りへと2人は歩き出す。
 花を形をした焼き菓子や飴細工などを始め、祭りの屋台といえば何処でも取り扱っていそうなたこ焼きや唐揚げ、クレープなどを食べ歩く。
 ありきたりな商品の中にも、花の飾りが添えられていたり、具の形が花の形をしていたりした。



「どんなお菓子があるのか楽しみね!」
 菓子の研究を名目に、花祭りの会場へとやって来たのはミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)だ。
 花のモチーフの菓子があると聞いたからには、それらを見て、食べて、楽しもうと思っている。
 そんな彼女の瞳に最初に止まったのは、造花の並んだ屋台であった。
「あら? この辺りからお菓子の屋台ではないの?」
「もちろん、菓子の屋台はここから先だ。これだって、菓子だぞ?」
 首を傾げたミーナへと店主が告げ返す。
「造花と間違ってもらっちゃ困るな。まあ、見間違うほどだっていうなら嬉しい限りだが……これらは飴だ」
 告げながら、取り出した熱した飴の塊に、食紅を少量加えると一気に練り上げ、色を全体的に付けて、あっという間に一輪の花を咲かせた。
「綺麗ね。食べるのが惜しいくらいだけれど、飴というからには、もちろん、味だって楽しませてくれるわよね?」
「花の味……といいたいところだが、そこは甘い飴の味だ」
 苦笑しながら、出来上がったばかりの飴の花を店主はミーナへと渡す。それを少し舐めてみれば、確かに普通に甘い飴の味であった。
 飴細工の屋台を後にして、ミーナは歩き出す。
 花の形をしたクッキーやカップケーキなどの焼き菓子に、焼きソバに入れられたニンジンなどが花の形にくり抜かれていたりする。
 それらを見ながら、ミーナは気になった菓子を片っ端から食べていく。
「張り切り過ぎたの。暑いです」
 広場へと辿り着く頃には、食べ過ぎからから身体が熱を覚えていた。