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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

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少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 3/3

リアクション

ページ9

9−1

これ以上、付き合う必要もないと判断したあなたは、こっそりとその場を離れようとした。

「おいおい。こんなところでなにやってんだ、てめぇは」

声が聞こえた時には、すでにあなたは背中から斬られて、床に倒れ込んでいた。

「ったく、油断も隙もねぇ場所だなぁ、ここは。ま、問答無用で背中から斬っちまった俺の言うセリフじゃねぇがな。クックックックッ」

日本刀を手にした黒い着流しの男があなたを見下している。
大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)、か。
意識が薄れてゆく、あなたは流れてゆく血と床の冷たさを感じながら、まぶたを閉じた。

END

9−2 

ハツネと時尾のパートナー契約が成立したのを契機に、コリィベル2で人質をとっていたハツネたちのグループと、人質開放のためにここへ乗り込んできた推理研のグループの間に和解ムードが生まれた。
推理研のグループは、ハツネの手引きで軟禁されていた人質たちを無事開放し、時尾とハツネは和服を着た白髪のおかっぱ頭の少女? 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)の手引きでコリィベルから脱出しようとしているようだ。

「よくわからないが、今回の事件は山場をこえたみたいだ。
もう、おもしろいこともなさそうだし。
きたたちがここから去るなら、僕も一緒に連れていってくれないか」

あなたが頼むと、葛葉は、

「あなたが誰かは知らないけど、僕らと空飛ぶ箒シュトラウスで脱出するよりも、ここにいて爆発に巻き込まれた方が、おもしろいめに会えるかもしれないよ。
僕が仕掛けた爆弾を味わってみたらどう」

「爆弾だって。冗談はやめてくれ」

あなたは、ハツネたちに背をむけた。

「僕をバカにするんだね」

数分後、一人、通路を歩いていたあなたは、コリィベル2の爆発によって、この世界から消滅した。

END

9−3

「僕がきみたちとこうしているのは、彼にとっては不愉快みたいだ。
きっと彼は、きみらをすごく大事に思ってるんだね。
急にきて、なれなれしく話しかけた僕が悪かったよ。
御影さん。
彼に、僕からのお詫びとしてこのお菓子を渡してあげてくれないか。
きみが、ビックブラザーのお兄ちゃん、あーん、とでも言ってプレゼントすれば、彼は喜んでくれると思うんだ。
とっても、おいしいお菓子だから、彼には、ぜひ、食べてもらって欲しいな」

あなたは御影に小さな紙袋を渡した。
中には特製のクッキーが数個、入れてある。

「みかげのぶんはないのかにゃ」

「それは彼専用だ。
きみはこれをお食べ」

手の平にキャンディの包みをおいてやると、御影はにっこり笑い、

「了解したにゃ♪
ビックブラザーのお兄ちゃんにクッキーをあげてくるにゃー」

BBのところへ駆けていった。

「ずいぶん、たくさんお菓子を持っているのですね。
ところで、あなたのお名前はなんと言うのですか。
オルフェは、せっかくですから、お名前をうかがいたいのですよ」

オルフェリアには答えずにこの場を去る→8−10 

適当に話をしながら、BBがクッキーを食べるのを見届ける→7−6 

9−4

大石がレンの狙撃ポイントくる寸前にあなたは、廊下の真ん中におどりでた。

「危ない。狙撃手がいるぞ。あそこだ」

大石は一瞬だけあなたの目をやり、すぐにレンのいる通路の角に飛び込んだ。
数発の銃声と、ドサっと重いものが床に落ちた音がし、大石だけがあなたの前に戻ってきた。
返り血か、自分の血か、大石の着物は血で汚れ、手には抜き身の日本刀を持っている。

「ありがとよ。
で、てめぇはどうなりてぇんだ。
俺の命を救ってもらった礼は言うが、俺は裏切りってやつが大嫌いでな。
あいつが俺を襲うのを知ってたてめぇは、つまり、あいつの仲間なんだろ。
仲間を売るようなやつぁ、信用できねぇんだよ」

「違うよ。
僕は仲間じゃない。ただの通りすがりさ。
レンは勝手に僕が自分に味方するとカン違いしてたんだ。
僕は大石さん、あなたに味方したいんだ」

「クッ。信じられねぇな。
てめぇのツラは、どこかで見覚えがある。
まぁいいや。俺の気まぐれに感謝しな。
ここはじきに爆発する。
俺は消えるし、てめぇも好きにしろ」

大石は刀を鞘におさめ、あなたに背中をむけた。
彼についてゆくのもおもしろそうだが、あなたはまず、レンの死に顔を見にゆくことにする。
正義のために死んだレンはどんな顔をしているのだろう。
あなたは、自分の行為にみじんの後悔もしていない。

「赤いコートのデスマスク。ハハハハ」

通路にあなたの笑いが響く。

END

9−5

「俺は別行動をさせてもらうぜ。
いきたい場所があるんだ。
じゃぁな」

三船は二人から離れてどこかへ行ってしまった。
あなたと蒼也はコントロールルームを目指す。

「入所時にもらった地図に場所は書いてある。
ただ、ブロックの組みかえが行われているとなると、この地図もどこまでアテになるのかわからないな」

ここは先を急いで、あなたたちは通路を進んだ→6−1 コ

9−6

さっき☆を掲げて笑っていた少年と十歳くらいの幼い男の子が一緒にいる。

「ボクはなにをみてるんだい」

あなたは少年が一生懸命、眺めている☆を横から覗き込んだ。
子供の片手でも十分持てる程度の大きさの☆の形をしたセラミックの中心に、ガラスらしき球体が嵌め込まれている。ガラスの中には、夜空いや無数の星が輝く宇宙があった。

(よくできている。まるで、本当に玉の中に宇宙があるようだ)

星々はそれぞれ輝き、またたいている。

「おにいちゃんはだれ。
ぼくは柚木郁だよ。いくね、かみさまからちっちゃいうちゅうをもらったの」

「そうみたいだね」
あなたが頷くと、郁はうれしそうに笑った。

「かみさまがくれた郁のうちゅうはすごいんだよ」

「俺は、郁のパートナーで柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)。あなたは、コリィベルの人なのかな。
ねぇ、天ヶ原明についてなにか知らないかい。
俺は、彼を探してるんだ」

☆を掲げていた少年、貴瀬は、ミルキーゴールドの髪をした明るい感じの、物腰のやわらかい少年だった。
あなたは貴瀬が言っている意味がわからない。

「天ヶ原明は、そこに倒れている、ツナギを着た」

「ううん。冷たい言い方をすると、彼は、たぶん、俺の会いたい天ヶ原のぬけがらかな。
意識を取り戻しても、なにも知らないかもしれないし。
こんな言い方、わけがわからないよね。
ほんとに天ヶ原はヘンな、不思議なやつだったんだ。
なんのためにここにいたんだろうか。
なぜ、いなくなったのか。
気になってしかたないね」

(わかったような、わからないような、だな)

「つまり、天ヶ原明というのは、二人いるのか」

「二人。なのかな。
ひょっとしたら、もっとかもね。俺にもわからない。
全然、知らない人にこんな話をしてるなんて、やっぱり、俺は混乱してるんだね。
さっき、あいつの死体を見つけたばかりの時は、涙がでてきちゃって、けど、気分はちっとも悲しくなくて、自分でも驚いたんだ。
だから、俺は、俺が知ってる天ヶ原は死んでないから、悲しくないんだと思った」

落ち着いた口ぶりで話してはいるが、貴瀬は実際は、自分で言うように、かなり混乱しているのかもしれない。

「郁が天ヶ原からもらったあの☆のおもちゃも、絶対、普通じゃないし。
郁はあれから、声が聞こえるって。俺にはまったく聞こえないんだけどさ」

(郁に☆に宇宙をプレゼントしたかみさまが天ヶ原か)

あなたは、相変わらず郁が眺めている☆に視線を戻した。

「わかったよ。おにいちゃんにおしえてあげるね。うん。貴瀬おにいちゃんにもつたえるよ。ぼくたちまたかみさまにあえるかな」

郁が一人で☆と会話している。
あなたには、郁の声しか聞こえないが、郁には、☆の言葉が聞こえるらしい。
急に顔のむきを変え、郁があなたをみた。

「うちゅうがおしえてくれたよ。おにいちゃはここでいろんなぼうけんをするんだって。
それでね、もしまたどこかで郁たちにあいたくなったら4の5へ行ってね。
あとこりぃべるのうごかしかたがわからなくてこまったら2の2へいけばいいんだってさ。うちゅうからのめっせーじをわすれないでね。
貴瀬おにいちゃん、うちゅうがおしえてくれたんだけど、かみさまともういちどあうには郁たちはここにいちゃだめなんだって。
ねぇかみさまにあいにいこうよ。郁はかみさまがだいすきなんだ」

二人に☆からの伝言をつたえおえると、郁は貴瀬の手を握り、引っ張る。

「わかった。行くよ。
名無しさん。郁の言葉を忘れないでね。きみとはまた会う気がするな」

郁と貴瀬は行ってしまった。

(いまのは、予言のようなものだな。あのガラスの中の宇宙を創りだしたのが、貴瀬の会いたがっている天ヶ原なら、そいつにはたしかに神様の資格があるのかも。
僕のここでの未来は定められているのか)

もの思いにふけりながら、行くあてなくあなたは歩きだす。

END。

9−7

自分が場違いな気がしたあなたは、立ち去ろうとしかけたが、少年に呼び止められた。

「待ちなよ。
僕らはこれから狩りに行くところなんだ。
正当な理由に基づいた人間狩りさ。狩人は多いほうがいい。
くふふふ。
あんたも付き合いなよ」

目つきの悪い少年は、不気味な含み笑いをいつまでも止めようとしない。
彼は、イカれてるのか。マントに杖と呪術師みたいな服装をしているし、まともな者ではなさそうだ。
かかわらない方が身のためだな。
少年を無視してあなたは歩きだす。

「あれっ。
逃げるの。
この僕、少年犯罪王ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)と楽しく遊べるせっかくの機会なのに、ふいにしてしまっていいのかなぁ。
くふふふふふふ」

自称にしろ、刑務所内で少年犯罪王を名乗るとは、やはり、相手をしない方がよさそうだ。

「すいません。
お聞きしたいことがあるんです。
お時間は取らせませんから、教えてくださいませんか」

あなたを追ってこちらに駆けてきたメガネの少女は、顔は赤らんではれ、目は充血していた。
泣いていたらしい。

「あたし、古森あまねと言います。
地球からコリィベルを見学にきたんです。
そうしたら、一緒にきた親戚の男の子が、ここで」

あまねはぐすぐすと鼻を鳴らし、下をむく。
彼女の抑え気味の嗚咽を聞きながら、あなたは事情を理解できた気がした。

「親戚の子が、不幸なめにあったのかい」

あまねは頷き、顔を上げる。

「さらわれたんです。
あたしの目の前で。
あたしたち、それでくるとくんと彼をさらった」

「リチャードというニセ神父を探している。
刑務所のスタッフ側の人間として、ここでも派手に活動していたはずだ。
やつについてなにか知らないか」

話に割り込んできたのは、一癖も二癖もありそうなスキンヘッドの青年だ。

「俺はアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)
リチャードを殺すために探してる」

アキュートは、まるで、ランチを食べる店を選ぶような気軽な口調で言い、ウィンクしてみせた。
彼の青い瞳は少しも笑っていない。
あまねは別として、他の連中はどうも物騒だ。
ニコとアキュートはそれぞれ薄笑いを浮かべ、あなたを眺めている。
あまねに協力してやってもいい気はするが、さて、どうするかな。
迷っているあなたに、今度は制服姿のピンクの髪の少女が声をかけてきた。

「迷っているのなら、私たちときた方がいいですわ。
絶対です。
やっぱり人助けは大事ですものね。
私は天御柱学院の退紅 海松(あらぞめ・みる)と申しますの!」

「きみは、あまねさんのお友達かい」

「返事は、はいといいえの間ですわね。
彼女と会ったのは今日がはじめて。でも、少年愛いえ、幼い子供を愛する気持ちを持つ人とは、国籍、人種、年齢、性別をこえて私はお友達なのです」

普通の少女にみえる海松も、話してみるとどこかおかしい感じがしてくる。

「少年愛というのは、どういう意味だ」

「イヤですわぁ。
だから、私は子供が大好きな優しいお姉さんということですのよ。
少年探偵弓月くるとくんをみつけて、弱っている彼の脈をはかり、額に手をあて、口元に顔をよせて呼吸を確認し、はだけたシャツからのぞく、未成熟な上半身も、シャツのボタンを閉じる前に、一度、裸にして診察させてもらいますの。
ぺたぺたと胸も背中もお腹もさわっちゃいますわ。
不安になって泣いてるかもしれない彼をハグハグし、もし、それでも震えていたりしたら、頬っぺや唇、他のところにもチュッチュッを」

あなただけでなく、あまねや他の者にも冷ややかな視線をむけられているのに気づき、海松はようやく口を閉じた。
しかし、心の中で妄想の続きを楽しんでいるらしく、頬はゆるみ、にやけ笑いは消えていない。

「みなさん、ご心配をおかけしてすいません。
この人には僕がついていますから、くるとくんに危害は加えさせませんよ。
僕は、フェブルウス・アウグストゥス(ふぇぶるうす・あうぐすとぅす)です。
この人、退紅 海松(あらぞめ・みる)の付き添いです。
万が一、この人がなにかしでかしたら」

身長140センチ程度の小柄で、紺のキャスケットをかぶり、ツナギを着た工員風の少年、アウグストゥスは、ファイティングポーズをとるとシュッシュッと息を吐きながら、鋭いパンチを数発繰りだし、シャドウボクシングをしてみせた。
彼は大人しそうな風貌、冷静な物腰をした、名ボクサーらしい。

「人体の急所は心得ています。
大ケガはさせずにのばしてみせますので、ご安心ください」

「ま、ま、そんな危なっかしい話はおいておいて、ねぇ、みなさん、私の名前、変わってると思いませんか。
ね。変わってますよね。
姓は退紅(あらぞめ)。名は海松(みる)。
どちらも色の名前ですのよ♪
実家が染物屋を営んでいるのもありまして、その関係から色に冠した名前を実家でつけてるのが由来なんですの♪」

海松が強引に話題を変えたのだが、日本人でないあなたには、彼女の名前がどれだけ奇妙なのか、いまいちピンとこない。
それとも、名前がヘンな私が異常性欲者なのはしようがない、というExcuse(言い訳)だろうか。

「少年探偵、弓月くると。
どこかで聞いた気がする。
ここにいる人たちの力で、彼は救出できるのかな」

無意識のうちにあなたは思いを口にしてしまった。

他の人の話も聞いてみよう→3−4 

9−8

「ふーん。
あんたは、本当に怖いのは、悪魔のような超常的な存在ではなくて、普通の人間ってタイプなの?」

「まぁ、そうですね」

「なるほどねぇ」

ジョセフィンは、なにか言いかけたが、推理研の他のメンバーがあなたに声をかけてきた。

「悪魔について話はそれぐらいにして、君は俺たちの捜査に協力してくれるのか」
「あたしたち、いまからコリィベル2へ行くんです」

トレンチコートの少年と、緑の髪のポニーテールの少女。

「俺はスコットランドヤードのマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)だ。俺たちの捜査に協力してもらえるとうれしい」

「あたしは推理研のペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)。よろしくお願いします」

二人に頭をさげられたあなたは、

面倒なのでこの場をのがれる→4−6 
とりあえず付き合ってみるとするか→6−3 

9−9

支配しているのは、刃物同士がぶつかり合う音。
操る者たちの殺意が宿ったかのごとく、凄みを感じさせる音色にひかれて、あなたは、決闘の場へとやってきた。
ナイフと槍。
獲物は違うがそれぞれの達人と呼んで差し支えのない手練同士が、コリィベルの廊下を舞台に命の削り合いをしている。
ゴトン。
重い音と共に、ナイフの使い手がかぶっていた仮面、竜のような生物の頭蓋骨を模したものが、床に落ちた。
黒髪の槍使いの少年が、相手の仮面を真っ二つに割ったのである。
仮面の下からあらわれたのは、槍使いと同じくらいの年齢の金髪、緑眼の少年だった。

「やはり、縷々 晃(ルル アキラ)。あなただったのですね。遙遠は、剣山と闘うあなたのナイフをみてそうだと確信していました。いまも、この名前を名乗っていますか」

槍の少年、遙遠が戦闘中とは思えない静かな声で語りかける。
仮面を失った少年、縷々 晃は、満面に笑みを浮かべた。凶悪さを感じさせる怖い笑顔だ。

「剣山の後に、おまえとやれるなんて。今日は同窓会だよ。正直、剣山が逃げちまった時は、すげームカついたんだけどね。おまえもみてて思ったろ。オレが勝つって。緋桜遙遠(ひざくら・ようえん)。久しぶりだな。オレは、縷々 晃さ。名前も中身も変わってない。あの頃は毎日、おもしろかったよ」

「遙遠は、いまも昔も同じように毎日をすごしています。あなたも、あの頃と同じように戦いの中で日々をすごしているようですね」

遙遠は無表情だ。

「ああ。まぁな。おまえ、オレを殺しにきたのか。組織が壊滅したのは、オレら過激派がムチャをしたからだと思ってんのか。みんな、死んじまったよ。オレを、いや、オレとおまえを残してな」

「会いたいとは思いましたが、殺そうとは思っていません」

「思ったら、できるのか」

遙遠はこたえない。

「どうだ。やってみる気はあるのか」

晃は二本めのナイフを鞘から抜き、自分用にカスタマイズしたらしい刃幅の広い変形ナイフを両手に構え、遙遠を挑発する。

「あなたは、本当にバターナイフが好きなのですね。遙遠はあなたがそれでバター切っているのをみたおぼえはありませんが。
お気づきでしょうが、遙遠の背中の翼の羽は、一羽一羽がすべて、遙遠の意のままに動く刃になります」

たしかに遙遠の背中には巨大な黒翼が二つついている。

「遙遠は知らなかったのですが、あなたは、剣山さんと同じ門下の出身だったのですね。
剣山さんの後継者になるはずだったあなたは、しかし、上からのコントロールのきかない一匹狼になってしまった、と。それで、剣山さんはあなたを始末しにきたのですか」

「別に、どこに所属してようとオレがやることは同じだろ。だったら、オレには上の思惑なんて関係ねぇ。だろ」

「同意。に、しておきましょう。遙遠も、遙遠の好きにやらせていただいているだけですから」

じりじりと距離をつめてきた晃から遙遠は飛びずさった。背中の翼が大きく開き、無数の刃が晃に襲いかかる。

「しゃらくさい」

晃の姿が消え、次の瞬間、彼は遙遠の真横にあらわれた。両手のナイフで挟む格好で遙遠の胴体を狙う。
遙遠は腕につけた篭手で、ナイフの刃を払い、至近距離から晃の喉へ槍を突く。
晃は上体を後ろへそらし、槍を避けた。そのまま、後方回転する感じで足をはねあげ、ブーツの爪先で蹴りを放つ。遙遠が顔を少し動かしそれをかわすと、二人はまた距離をとって対峙した。
ほんの一、二秒の間にこれほどの攻防を演じる彼らにどんな決着が着くのか、あなたには予想がつかない。

「お兄さん、遙遠は勝つよね」

十歳くらいの少年にあなたは上着の裾を引っ張られた。
少年の右が赤、左が青のオッドアイは、あなたではなく戦闘中の遙遠にむけられている。

「きみは槍使いの人の友達かい」

「僕は緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)。遙遠のパートナーだよ。遙遠は、剣山さんがいなくなった後、あの、ナイフの人と戦いはじめたんだ」

「彼がどうなるか心配なんだね」

「うん。でも、遙遠を信じてるから。
きっと、大丈夫だって。お兄さんも遙遠を応援してよ。
遙遠はきっと、昔の友達の晃さんをここから助けだしたいんだよ。自分の気持ちを伝えるためにいまは、晃さんと戦ってるんだ」

(そんな友情物語は僕にはどうでもいいな)

あなたと霞憐が話している間にも戦いはすすみ、遙遠が放ったらしい魔法であたりが急に暗闇に包まれた。
あなたは、

壁にあいていた穴へ→10−9 

9−10

あなたは懐のナイフを握ると、トレンチコートの青年に近づく。
剣山たちとの会話に気を取られている彼は、容易にあなたの接近を許した。
横から首にナイフを突き立てる。つもり、だった。が。

「私が冗談を言ったと思ったのですか。あなたは、いつ、誰を襲ってもおかしくない人ですよね」

あなたは背中から斬りつけられ、糸の切れた操り人形のようにその場でバランスを崩して回転した。
左手に日本刀を構えたリンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が、もうお馴染みになった完璧な笑顔、金色の瞳であなたを眺めている。
最後の力を振り絞って、あなたはリンゼイにナイフを投げつけようとした。
ナイフがあなたの手を離れるその寸前に、今度は肩に凄まじい衝撃を受けて、吹き飛ばされる。

「最初にみた時から、怪しい奴だとは思ってたんだ。あたしが息の根とめてやるよ」

遅れて走ってきた少女、シャロン・クレインが両手に持ったハンドキャノン(大型拳銃)の引き金を引き、あなたはさらに腹、足、胸と全身を撃たれて、数十秒後には原形をとどめぬ肉塊と化したのだった。

END

9−11

「どうぞ」

視線の迫力に気圧されて、あなたはワインの瓶を渡した。
男はさっそく瓶の口をつけると、ラッパ飲みで、あっという間にそれを飲みほす。

「あー。うめぇな。おう。ありがとな。
俺はPMRのハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)だ。よくみてみりゃぁ、あんたとはどっかで」

「ヒゲ。話してるヒマはないだろ。行くぞ」

ワインで機嫌のよくなったらしいハーヴェインがあなたに声をかけてきたが、少年に上着の襟を引っ張られ、会場の中央へと押しだされた。と、すぐに少年だけが戻ってきて、

「PMRの比賀一(ひが・はじめ)だ。おまえ、こんなところでなにをしている」

「僕は、自分がなにものでどうしてここにいるのかが、わからないんだ。
きみが僕を知っているなら、教えて欲しい」

「な、なんだってぇ!?」

「一、てめぇこそ遊んでる場合じゃねぇぞ。急げよ。コラ」

今度はハーヴェインが駆けてきて、一の腕を引っ張っていった。

「けど、ヒゲ。あいつは」
「ああ。俺も気づいたぜ。でもな、いまは、大将をとめるのが先だろうが」

「んん。まぁ、そうだな」

(あの二人は、僕を知っているのか)

あなたは、自分の正体を知っているらしい二人の後をついていった。
二人はステージの側までいくと二手に別れ、あなたはどちらも見失ってしまう。
立ちつくす参加者たちの中で、あなたが周囲を見回すとステージ上に、一の姿が。
一は例の死んだ魚の目をした白人に話しかけている。
白人は、一の言葉を聞くうちに、だんだんと表情に生気が宿ってゆき、やがて、よどんでいた目もギラギラと輝きはじめた。

「つまり、囚人11号とは私のことで、私は大量殺人犯になるところだったんだよっ!
な、な、な、なんだってぇ!?」

「そうだ。目をさますんだ。イレブンさん」

「わかった。すまなかった。責任をとる」
イレブンは、真顔になると信じられないほど大きく口を開き、抱えていた拳大の水晶玉を飲み込もうとし、

「待てよ。そいつは、なしだぜ」

後ろから近づいたハーヴェインは、口に入る寸前に水晶玉を取り上げ、イレブンの背中を思い切り叩いた。

「おいおいおいおいイレブンさんよォ、PMRのトップともあろうお方が、こんなチンケな所でチンケなことやってんじゃねぇぞ!
お得意の超推理はどうした! 俺たちのなんだってぇ!? はどこに行った!」

ハーヴェインのタンカに場内から歓声が起こる。
多くのものがいくつかある出入り口へと殺到し、ドアを壊し、外へでてゆく。
前のめりに倒れ、床に手と膝をついたイレブンは、一とハーヴェインに挟まれたまま、ぶつぶつとつぶやきだした。
一気にがらんとした場内には、独り言にしては大きすぎるイレブンの声だけが響く。

「私は、命令に従順な十一号です。
違うッ、私は未来戦士。
人質が死んでしまっては意味がありませんのでみなさんを守るために、違うッ、人類滅亡の危機なんだよ。
大石先生の言うことを聞いて、違う、違う、忠臣蔵だったんだ!
違う、祝い家に改名するんだッ!
違う、違う、そうじゃない。私は、私は」

イレブンは自分の頭を何度も床に叩きつける。
あまりに何度も繰り返したために、脳震盪を起こしたのか、そのうち、大の字にのびてしまった。

「イレブンさんッ」

「イレブンっ」

一とハーヴェイン以外のPMRとやらのメンバーらしき少女たちが、ステージにあがり、イレブンを囲む。

「私は、私は、ひさしぶりに少年探偵に会うためにコリィベルに一足先にやってきて、天ケ原明の陰謀を暴き、ヨン・ウェンズリーの策略とアリーの悲哀、剣山梅斎の隠された使命などなど、あらゆる謎をすべて一人で解決した後、大石鍬次郎(おおいし・くわじろう)に捕まって治療を受けてしまったんだよッ」

「な、なんだってぇ!?」

うつぶせのままのイレブンの長口上に、全員が一糸乱れぬタイミングで合いの手を入れる。

(PMRとはあのイレブンを教祖に、「な、なんだってぇ!?」を連発する宗教団体かなにかなのか)

あなたはPMRの連帯感に薄気味悪さを感じ、ゆっくりと彼らから離れていった。

「すべての謎のこたえを知る私こそが、事件の一番のキーパーソンだったんだよ!」

立ち上がり、拳を握って絶叫するイレブンに、一際大きな、

「な、なんだってぇ!?」

のハーモニー。
ついに背筋に寒気をおぼえたあなたは、駆け足で大講堂をでた。

END

9−12

奇声をあげていたのは、四人の少女たちだった。また、周囲にいる人物たちも彼女らの話に耳を傾けているようだ。周囲の陰鬱な雰囲気からはあきらかに浮いている六人のうち、あなたが話しかけるのは、

落ち着いた感じの黒髪の少女→10−12 

露出度の高いビキニタイプの服を身につけた少女→5−12 

あわてているのかきょろきょろと周囲を見回し、その場で足踏みをしている少女と人形を胸に抱え、鋭い目つきであなたを眺めている幼い女の子の二人連れ→10−13 

赤紫のスーツの青年と執事服の青年の二人連れ→6−12