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コンちゃんと私

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コンちゃんと私

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 「色気より食い気」を体現する勢いで各種たこ焼きを食べまくっていたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が異変に気づいたのは、グランドコンコース付近の売店前だった。
 いつものセクシー&機能美といった出で立ちが、若干ラブリー寄りにおめかしされているのは、パートナー兼恋人であるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)とのデートだったからだ。
 セレアナもまたデートということで、いつものメタリックシルヴァーのレオタードにもジュエリーをあしらいつつ、多少はロマンティックな展開を期待してやって来たのだ。
 しかし目的地の名を聴き、現地に至ってゲート前の「た・こ・や・き」という文字の巨大な暖簾を見た瞬間、セレアナはその期待を二割ほど減らした。
 そして、ゲートをくぐった途端キラキラと輝くような笑顔で「さあ食べ尽くすわよ!」と宣言したセレンの姿に、彼女の「通常営業」を確信した。
 もちろん「通常営業」のセレンで、セレアナとしては十分満足なのだが。
 いつものことではあるが、まったく、あの体のどこにあの大量のたこ焼きは消えていくのか。
 全種類制覇しかねない勢いのセレンを見て、そんなことを考えた頃……あの騒動が起きたのだ。
「……なーに、このチャイム」
 それでもまだたこ焼きを口に運びながら、セレンが顔をしかめて周囲を見回した。
 薄暗くなった売店前では、やはり事情の掴めずにいるお客たちが戸惑ったように何か囁き合っている。
「……バケモノ……ステージに……!」
 そんな途切れ途切れの叫び声が、聞こえて来た。
 周囲にざわめきが広がり、いきなり電流が走ったかのようにその場はパニックに陥った。
「おっ、ととと」
 走り出した人に突き飛ばされてよろめいたセレンは、たこ焼きを死守しながらその流れを泳ぐように道の端に避難した。
「セレアナ、平気?」
「……2個、落とした」
 悲し気に項垂れるセレアナの肩をポンポンと叩いて、セレンは慰めた。
「あたしの一個あげるからさ、気を落とさないで」
「うん……ん?」
 セレアナの返事がすっきりしない。
「一個じゃ足りない? ……じゃ、奮発して2個!」
「そーじゃなくて!」
 セレアナが指差した先は、ステージゾーンに続くゲートだった。
 そのゲートの陰に、子供が座り込んでいるのが見えたのだ。
 ピンクのワンピースをきた女の子は、膝を抱え、震えるようにうずくまっている。二人は人の流れをかき分けて駆け寄った。
「……どうしたの、迷子?」
 女の子は顔を上げて、泣きはらした目でセレンを見た。
「……コンちゃん……いなくなっちゃった……」
「コンちゃん?」
 セレンが首を傾げる。コンちゃんといえば、このパークのマスコットだ。ぬいぐるみでも無くしたのだろうか?
「パパの、こと、探してくれるって……言ったのに……コンちゃん……ああああん……」
 また泣き出してしまった。
「ええっと……パパ、を探せばいいんだよね? それともコンちゃんを探すべき?」
「……パパ、でしょうね、常識的に考えて」
 二人は顔を見合わせて呟き合う。そのとき、ふいに人混みの中から声がした。
「モンロちゃん!」
「……あっ、コンちゃん!」
「うわ、コンちゃん! 本物!」
 そこにタコと人と邪神をミックスしてねじり鉢巻をさせたようなゆる族の姿を認め、セレンも一緒に声を上げた。
「知ってるの?」
「TACO−CHUファンならみんな知ってるわよ!」
 ……ファンなのか……。
 そんな呑気なやり取りをして顔を上げると、いつの間にかコンちゃんも女の子の姿も見あたらない。
「やば……」
「ええと、モンロちゃんって呼ばれてたわね」
「うん」
「年齢5、6歳、女の子。東洋系。名前はモンロちゃん。長い髪に、ピンクのワンピース。白いバッグ。コンちゃんのマスコット所持」
「……よく見てたわねぇ」
 思わずセレンが感心する。
「この状態で対応してもらえるかわからないけど、迷子センターに届けを出しましょ」
「了解。あとは……」
「うん、足で探す!」
 セレンが力強く微笑むのを、セレアナはちょっと眩しそうに見つめた。