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危険な香りを退け、汚部屋住人を救出しろ!

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危険な香りを退け、汚部屋住人を救出しろ!

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 食堂・厨房。

 食堂に入った途端、シン・クーリッジ(しん・くーりっじ)は声を上げた。
「何だ、この有様は。予想以上じゃねーか」
 脱ぎ捨てた服にデリバリーやコンビニ弁当のごみ、実験中の薬品やら膨張したごみ袋が散乱し、ごみ捨て場化とした部屋。
「……そうだね」
 シンと違って九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は控えめな反応。なぜなら勉強に夢中になると食事も整理もせずなのであまり口出しが出来ないのだ。

「ロゼ、オレには二つどうしても許せねえ事がある。それは、食べ物を粗末にする奴と部屋が汚い奴だ!」

 シンは怒りに声を震わせながら言った。

「……そうだね。シンは普通の人よりきれい好きだよね。悪魔なのに……ってこれは関係無いか」
 口出し出来ないローズは若干下手に出る。自分が勉強中の間はシンに身辺の世話をして貰っているので。
「あーもう信じらんねーなんでこんな状況で生活できるんだよ、ありえねー!」
 シンの怒りの声に賛同する者が現れた。
「……確かに。コンビニ弁当のごみがあるのはいいとして、何で脱ぎ捨てた服がここにあるのかな。ここは食堂のはずなのにねぇ」
 同じように食堂と厨房の掃除に来た北都。言いたい事がごみの山ほどある。
「……何もかもごちゃ混ぜですね」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)もため息をついた。
「……こうなりゃ」
 そう言うなりシンはどこかに電話をかけ凄腕の執事を呼び出して人数を増やした。
 それから一流奉仕人認定証(バトラー用)を掲げ、
「今から強制掃除だ! 拒否権はねぇ! 塵一つ埃一つ残すな。ここは一日の活力を得る場所だ! 最低でも一人五キロだ。死ぬ気でやるっきゃねーぞ!!」
 集まった精鋭に檄を飛ばし掃除を開始。

「ロゼは薬品を一つ残らず片付けろ!」
「任せて」
 シンは手早くローズに指示をする。
「放置されているごみを分別し、全てを一カ所にまとめろ!」
 呼び出した凄腕の執事にも指示をする。
「僕らは普通のごみを片付けて行くよ」
「……厨房にも行こうと思います」
 北都とクナイはやって来たシンに言う。
「分別も忘れずにしろ! 危険物がどこに転がっているから分からねえから気を付けろよ!」
 掃除の指示を出し終えたシンは少しの間食堂の掃除をした後、本命の厨房に移動した。シンは『使用人の統率』により現場を上手く統率し、士気も上げた。

 そんな大清掃の最中、
「我々は今危険に彩られた食堂に来ているであります! あるのは薬品、ごみ、脱ぎ捨てられた服、薬品、ごみ……凄まじい有様であります!」
 吹雪が食堂にやって来て酷い有様を解説する。
「……食事する所とは思えない」
 コルセアも変わり果てた食堂を見た感想を口にする。
 それから二人は厨房へと移動した。

 厨房。

 北都とクナイは『禁猟区』で警戒しながら中に入ってすぐにコンロに危険物を発見。

「……鍋をかけたまま席を外すなんて。あれはまずいねぇ」
「……危険ですね」
 北都とクナイはコンロにかけたままの二つの鍋を発見した。不気味な泡が湧いている。

 またまた
「次は厨房であります。爆発寸前の鍋! 我々は危険が生まれる瞬間に立っているであります! 世紀の瞬間今!!」
 吹雪が登場。ぐっと力拳を作り、解説にも力が入っている。
「……その瞬間来たらワタシ達木っ端微塵」
 コルセアは冷静にツッコミを入れながら記録した。
「そうならないようにします」
 クナイはコルセアに頷きながらブレスアイシクルで鍋ごと瞬間冷却した。
「……この妙な匂いもあの鍋からするみたいだねぇ」
 『超感覚』を使う北都は厨房に入った瞬間に察知した匂いの発生源に少し厳しい顔になった。鍋の中身の匂いのせいで少しだけ吐き気を感じる。
「……火を」
 北都は『サイコキネシス』でコンロの火を止めた。
「危機は無事脱したであります! 我々は次なる脅威に向かうであります!」
 そう言って吹雪はコルセアを連れて部屋を出て行った。

「次は窓を開けるよ」
 北都は鍋にふたをしてから換気のために窓を開けた。
「……匂いを外に追い出しますね」
 クナイは少しでも北都が楽になればと『風術』で匂いを全て外に追い出した。

「おい、大丈夫か」
 シンが現れ、二人の状況を確認。
「……火にかけすぎて危険物に変質したようだよ。爆発は無事阻止したけど、あまり匂いを吸い込むと吐き気を感じてしまうから取り扱い注意だねぇ」
 『博識』を持つ北都は鍋の中身を報告した。少し遅れたら完全に吹っ飛んでいた。

「そうか。冷蔵庫から液体が漏れてるぞ!」
 冷蔵庫から液体が漏れだしている事に気付いたシンはすぐに駆け寄り、開けた。
 中には半分液体化したゼリー状の物体が載った皿があった。
「明らかに食材ではありませんね。床を焦がしてますし」
 クナイは物体の被害と思われる床の焦げ跡を発見。
「……これは水に溶けるからすぐに流そう」
 『博識』で正体を見極めるなり北都はすぐに物体を水で流して処分した。当然、液体に触れないように手袋をはめて。

「……冷蔵庫は空っぽか。まともな食生活をしてねえな」
 シンは冷凍庫も確認し、予想通りの結果に怒りを通り越した呆れのため息。
「……確かに」
 北都もシンに頷いた。
「徹底的に消毒しねえとな。この鍋二つとも処分だ。実験に使った物を料理に使う訳にはいかねー」
 シンは二つの鍋に視線を落とした。

「分かりました」
「僕達は普通ごみの回収と分別に戻るよ」
 クナイは二つの鍋を手にして食堂へ行き、北都も掃除に戻った。
「あぁ、根こそぎ拾い尽くせ」
 二人を見送ってからシンは本格的に掃除を始めた。
 『ハウスキーパー』を持つシンの動きは迅速で塵や埃を全て消し去り、床や天井は鏡の如く輝き始め、清潔感を取り戻した。

 その間、ローズは
「……暗号みたい」
 ラベルに書かれている悪筆なオルナの文字を見て呟いた。しかし、読めなくても問題は無い。『薬学』を頼りに薬品を速やかに片付ける事が出来るからだ。

 食堂に戻った北都とクナイは目に付く普通ごみの回収をさっさと始めた。
「ごみ、ごみ、なかなか終わらないね。頑張る自分達にエールを送りたいよ」
 北都は何十個目かのごみ袋を満杯にしてから言った。かなり拾ったはずなのにまだまだ残っている。この言葉通り、北都はごみを拾う度に心の中でファイトとエールを送って頑張るも敵はなかなか手強い。
「……そうですね」
 クナイも頷いた。手袋をはめて魔法とは無関係の薬液が垂れている薬品を回収していた。
 四人の心身共にすり減るような頑張りで何とか厨房と食堂の掃除は終了した。

 掃除終了後、四人は新築同様の輝きを取り戻した食堂にいた。

「食堂と厨房の清掃は終了したよ」
 代表で北都が法正に報告。

 その間、ローズはシンをここぞとばかりに褒める。
「本当、流石はシン。塵や埃が一つも落ちてないよ。新築同然の輝き。執事の鑑ってやつかな?」
「……な、何、おべっか言ってんだ」
 シンは照れてプイと顔を背けた。
「おべっかってそんなことないよ。ハハハ」
 ローズは否定するが。やはり若干下手に出ている。

「少し浴場の人手が足りなくて困っているそうだよ」
 北都は三人に浴場の人手が足りない事を伝えた。

「浴場か。オレが行って浴槽を磨き上げてやる!」
「……流石、シン」
 シンとローズは人手の足りない浴場に向かった。向かう前にシンは連絡を入れ、オルナにまともな食事をさせるための買い出しの指示をした。

「僕は一度外に出てごみの様子を確認するよ」
「そうですね」
 北都とクナイは外に出る事にした。