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か・ゆ~い!

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か・ゆ~い!

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「あ……ぐっ、や、止めろっ……」
「仕方ないじゃないですか。君が何を求めているか分からないんですから。痒みを、止めたくないんですか?」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は暴れるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)を押さえつけると、首元に口を近づけた。

 エースは、クラゲに噛まれていた。
 痒がるエースの痣を見てそれが何であるのかすぐ理解したメシエだが、エースに有効な治療法をすぐに見つけることはできなかった。
「愛情を与えられれば痒みは治まるのですが…… 君、花が好きだったね。そこらの花を摘んでこようか?」
「や、止めろ。可哀想だろ。それに花は……愛を与えるものだし」
「なら女をあてがって……」
「げ、下世話な表現をするなー! 女性にこんな無様な姿を見せたくない……っ」
「全く、面倒をかける……なら、こうするしかないね」
 メシエはエースの首元に口を近づけ、血を吸おうとする。
「あ……ぐっ、や、止めろっ……」
 抵抗するエースだが、痒みのせいで力が入らない。
「こんな所で、血を、吸うな……っ」
「ちょっと幻惑して本音を聞き出すだけですよ。君の欲している愛情が分からないと、話にならないからね」
「んっ」
 エースの首筋に、牙が入る。
「……ほら、今、何をして欲しいのか言ってごらん。我慢せずに……」
 メシエの言葉が、エースの精神に染みわたる。
 エースの瞳の光が鈍くなる。
「……メシエの」
「はい」
「メシエの、契約理由が打算だって事は知ってる」
 エースの重い唇が、ゆっくり開かれる。
「けど、オレはメシエの事を信用してるし、信頼もしてる。でも」
 ああ、まずい。
 痒みと、幻惑のせいだ。
 エースは自分の理性の蓋が弱く弱くなっていることに、そしてそこから女々しい感情が流れ出ていることに気づく。
 しかし、それを止めることができない。
 流れ出す感情はそのまま言葉になる。
「でもメシエは敵に操られたり戻って来いって説得しても聞きやしないし。契約の絆なんか大して重視してなくて俺の事食べ物ぐらいにしか思ってないんだろ」
「……」
「ばか」
「……」
「ばかばかばか」
「……」
「もっと、俺の事も、重視しろ……俺を、かまえ!」
「子供か、君は」
 エースの言葉を聞き、胸を力なく叩く手を見て、メシエは呆れたように溜息をつく。
「分かったよ。今回だけは特別」
 ぎゅっと、メシエはエースを抱き締める。
「ば……んっ」
 メシエの腕の中で、エースは僅かに震え、動きを止めた。

   ※※※

「ざっくん! 見てみてヒトデ! 気持ち悪い!!」
「……気持ち悪いなら、そんなの拾わない方がいいよ」
 拾い上げたヒトデを高く高く掲げる嘉神 春(かこう・はる)を見て、神宮司 浚(じんぐうじ・ざら)が優しく忠告する。
 春は、はしゃいでいた。
 夏だし、海だし、はしゃがない方がおかしいから。
 目に入るモノ全てが楽しくて、カニだヒトデだクラゲだと、色々な物をなんでも手に取っては浚に見せに行く。
 そんな春を、浚は口では注意するもののただただ愛おしげに眺めていた。
「ほら、このクラゲ、足がハートで面白……っ!」
 クラゲを手に取った春が、一瞬顔をしかめてクラゲを取り落した。
「どうしました?」
「痛っ……いや、痒い…… なんか、刺されたみたい」
「どこですか?」
 春が刺されたという手を取ってみる浚。
「痒い、痒い、体中痒い……っ!」
 そうしている間にも、春は苦しそうにもがき始める。
「ざっくん、ざっくん、どうにかしてぇ……っ!」
「……!!」
 悶えながら涙を溜めた瞳で浚を見る。
 その様子は、浚には誘っているようにしか見えなくて……
「あっ」
 かぷり。
 春の、噛まれた指を口に入れた。
 ぬるりと、舌が患部を撫でる。
「あんっ」
 噛んだ。優しく甘く。
「ざ、ざっくん……」
 春の言葉に、浚はようやく春の指を口から解放する。
 指についた唾液が糸を引く。
「毒を、吸い出してあげるよ」
「で、でもそれ吸ってない……」
「それに、お仕置き」
「え?」
「あんなの触って、悪い子、だから」
「え、ふぁあんっ!」
 痒みで自由に動けない春を、そっと抑え込む。
 もちろん、痛くないように紳士的に。
「さあ、噛まれたのはここでしたっけ? それとも、ここ?」
「あっ、ざ、ざっくん、そこ、違う……やっ、ひゃああんっ!」
 指だけでなく、腕を、首を、足を、その他のあらゆる箇所に口付けをして、吸う。
 浚のお仕置きは、春の痒みが治まってからも延々と続いた。

   ※※※

「これが、海……」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、一人波打ち際に立っていた。
 海水浴場からは少し離れた険しい岩場。
 その為、周囲に海水浴客は誰もいない。
 海、というものを、グラキエスは見たことがあったかもしれない。
 しかし、今の彼に、それは分からない。
 記憶を失った彼にとって、今、目の前にある海こそが初めての海だった。
「はぁ……」
 力なく岩場に座り込むグラキエス。
 潮風は、思いの外に彼の体力を削っていた。
(ちょっと歩いただけで、こうだ……)
(昔の俺なら、もっと上手くできただろうに……)
 海に来ても、彼の心は晴れることがなかった。
 伝聞で知る『昔の自分』との落差に、心が沈む。
 そんな心の隙を、つかれたのだろう。
 ちくり。
「……っ!」
 手に、一瞬絡みつく何かと鈍い痛みを感じた。
 痛みはすぐに、痒みに変わっていく。
「……っ、か、痒……っ」
「エンドロア!」
 グラキエスの元に駆けつけたのは、ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)だった。
「窮屈だったのは分かっている。だが、逃げ出すとは…… と、とにかく、今助けて……」
「あぐっ、か、痒い……っ、触る、なっ!」
「エンドロア……」
 困惑しながらグラキエスの介抱をしようとするウルディカ。
 しかし、痒みに苦しむグラキエスを救う事はできない。
「……っ!!」
「ふふ……お辛そうですね、グラキエス様」
「エルデネスト……」
 微笑むエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が立っていた。
 悶え苦しむグラキエスが、無意識のうちに召喚したらしい。
「私が、私だけがあなたをお助けできます」
 余裕たっぷりに告げる。
 彼は、このクラゲの対処法を知っているから。
 グラキエスの耳元でちいさく囁く。
「……愛情。それこそが、治療法なのです」
「……っ、な、何……」
「そして、それを与えられるのは私だけなのです」
「あ、ああっ」
 グラキエスに『愛情』を与えるための“行為”を始めようとするエルデネスト。
 本来なら、その“行為”に慣れている筈のグラキエスだが、今の彼にそれはすぐには受け入れ難く、思わず抵抗する。
 エルデネストは、その手を掴む。
「いけません。これだけが、あなたを救う方法なのですから」
 強引に、押し倒す。
「私だけが、助けることができる……」
「あ、うっ」
 それ以上は言葉にならなかった。
 緩慢に、ウルディカに見せつけるようにグラキエスを愛するエルデネスト。
 次第に、いや初めから、グラキエスはエルデネストを受け入れていく。
「お、俺だって……!」
 ぐい。
 ウルディカが、エルデネストに抱えられたグラキエスに手を伸ばす。
「う、あぁっ」
「こいつだけじゃない。俺だって、エンドロアに愛情を与えることくらい……っ」
「なっ、だ、駄目だっ…… あぁあっ!」
 エルデネストと共に、グラキエスへの愛撫に加わるウルディカ。
 3人の行為が、始まった。