薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

夏合宿 どろろん

リアクション公開中!

夏合宿 どろろん

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「まいったなあ、いったいどこまで行ってしまったんだろう。変な男に連れ回されて、大変なことになっていないといいんだけれど」
 やっと海岸まで辿り着いた想詠夢悠くんが、波打ち際を急ぎながらつぶやきました。森の中でいろいろと脅かされたために、結構手間取っています。
 想詠夢悠くんも一度告白をしていますが、雅羅・サンダース三世さんの返事は芳しくはありません。それでも、話し相手としての友達としての認識はされているようです。がんば。
 結局、雅羅・サンダース三世さんとしては、やはりまだ人づきあいは躊躇している節もあります。それでも、ゴースト・ハンターとしていろいろな人と触れ合うことによって、じょじょに認識は変わってきてはいるのでしょうが。
 さて、波打ち際を急いでいると、待ち構えていたアキラ・セイルーンくんが、先ほどと同じように道を間違えさせようとしてきました。けれども、さすがに胡散臭いので想詠夢悠くんは無視しました。何よりも、先を急いだだけでもありますが……。
 やがて洞窟が見えてきたとき、砂浜に誰かが倒れているのに気づきました。
「雅羅さん!」
 倒れているのが雅羅・サンダース三世さんだと気がついて、想詠夢悠くんはあわてて駆けよりました。すぐに、ヒールとナーシングで治療します。
「うーん、やっぱり酷い目に遭った……」
 雅羅・サンダース三世さんが目を覚ましました。
「よかった、もう大丈夫だよ」
「捜しに来てくれたんだ。ありがとう。そうだ、もう一人いたんだけれど……」
 想詠夢悠くんに助け起こしてもらいながら、雅羅・サンダース三世さんが周囲を見回しました。けれども夜のことですし、近くに四谷大助くんの姿は見つかりませんでした。
「もう大丈夫だから、とりあえず、肝試しを済ませてしまいましょう」
「いったん、スタート地点に戻った方がいいんじゃ……」
 雅羅・サンダース三世さんのことを心配して、想詠夢悠くんが言いました。
「リタイヤは嫌だもの。私は、依頼は最後までやり通す主義なのよ」
 いや、肝試しは依頼ではないのですが、もう、完全にゴースト・ハンターモードが入りっぱなしです。
「じゃあ、さっさと洞窟に入ろう……あっ」
 目の前の洞窟に入ろうとした時点で、想詠夢悠くんはまずいことに気づきました。そこには、パートナーの想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)さんが満を持して待ち構えているはずなのです。事前に綿密な打ち合わせをして、配置を決めておいたのでした。ここで想詠瑠兎子さんが、心霊現象を苦手としている雅羅・サンダース三世さんを思いっきり脅かして、「きゃあ、想詠くん、こわ〜あい♪」となる作戦だったのですか……。
「ちょっと、雅羅さん、ここはオレが先に……」
 間にあいませんでした。
「雅羅ー! 目玉をくれー!」
 目玉のパッフェル人形が、洞窟の中から飛び出してきました。
「出たわね!」
 すかさず、雅羅・サンダース三世さんがそれを撃ち落とします。
「雅羅ー! 目玉をくれー!」
 今度は、予定通り、雅羅・サンダース三世さんの後ろから想詠瑠兎子さんが水ヨーヨーを投げつけてきました。
「きゃあ。おのれ、妖怪めえ、このゴースト・ハンター雅羅が退治してあげるわ」
「ちょ、ちょっと、雅羅さん。だめ……。こら、瑠兎子、オレの後ろに隠れるな……。待って、オレです、オレ! うわあ!」
 もうこうなったら止まりません。飛び交う銃弾の中を、想詠夢悠くんが想詠瑠兎子さんと共に逃げだしました。
「どうして、こうなるのよ」
「知らないよ!」
 やはり、これも雅羅・サンダース三世さんの引き寄せた不幸の一つだったのでしょうか。ここまで来ると、雅羅・サンダース三世さんの周囲そのものが怪談の舞台です。
「つんつん、つんつん。死んでるかな?」
「死ぬかあ!」
 海岸では、アキラ・セイルーンくんが、流されてきた四谷大助くんをツンツンとつついていました。仕掛けは大成功だと喜んでいたところで、四谷大助くんが息を吹き返します。
「貴様、よくも〜」
 四谷大助くんがアキラ・セイルーンくんにつかみかかろうとしたとき、もの凄い速さで水飛沫を上げながら想詠夢悠くんたちが走ってきました。その後ろからは、銃を乱射する雅羅・サンダース三世さんも走ってきます。
「よかった、雅羅、無事だったんだな……って、おい、雅羅!」
 四谷大助くんが雅羅・サンダース三世さんに声をかけましたが、気がつかずに想詠瑠兎子さんを追って走り去って行ってしまいました。変わりにその場に留まったのは、想詠夢悠くんです。
「そうか、雅羅さんを欺して連れ出したのはキミか。この人さらい」
「人聞きの悪い。ちゃんと、合意の上だ」
「嘘だ。きっと、雅羅さんを怖がらせて、惚れさせそうなどという邪なことを考えていたに違いない」
「そういうお前こそ、似たようなことを考えて失敗したんだろう」
 四谷大助くん、失言です。思わず本音が……。まあ、想詠夢悠くんも、今回はほぼ同類なわけですが。
「やっぱり、考えていたんだ」
「ええい、引っ込んでろ……」
「まあまあ、みんなで楽しく怖がろうぜ」
 見かねたアキラ・セイルーンくんが間に入ろうとしました。すばらしく典型的な三角関係の修羅場です……って、雅羅・サンダース三世さんは未だに恋人認識の人はいないようですから、まだ私のために争わないで状況にはなってはいませんが……。
「うるさい、お前は引っ込んでいろ」
 関係ないだろうと、四谷大助くんと想詠夢悠くんが、声を揃えてアキラ・セイルーンくんに言いました。
「なんだと、呪うぞ、ごらあ!」
 売り言葉に買い言葉で、女の子の姿のアキラ・セイルーンくんが凄みます。
 そのときでした、凄い勢いで想詠瑠兎子さんと雅羅・サンダース三世さんが舞い戻ってきました。ヒュンヒュンと、流れ弾も飛んできます。
「好きな子をちょっといじめてみたくなっただけなのよ〜。こら、愚弟、なんとかしなさい!」
「問答無用です。ゴーストは、全部退治するのみ!」
 さっき自分を欺したアキラ・セイルーンくんも視野に収めた雅羅・サンダース三世さんが、どこから取りだしたのか手榴弾を投げようとして……落としました。
「ちょっ!?」
 ちゅどーんっと、その場にいた全員が巻き添えを食らって吹っ飛ばされました。やはり、ここは雅羅・サンダース三世さんの不幸のフィールド内だったようです……。