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ランチは危険がいっぱい!?

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ランチは危険がいっぱい!?

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 外側から回り込むのは、御宮裕樹と、杜森柚、三月のふたり、それから騎沙良 詩穂(きさら・しほ)、それに、四谷大助の合わせて五人だ。
 そのうち、木の内部を探索する予定の大助はレッサーワイバーンに乗って古木の真上まで行くと、はらりと飛び降りる。その後から、杜森柚が空飛ぶ箒に跨がってそれに続く。さらに、パートナーの三月が彼女を追った。
 残ったのは裕樹と詩穂のふたり。裕樹は飛空艇・アルバトロスで、詩穂は八本の脚を持つ馬、スレイプニルに跨がって巨木の周囲を飛ぶ。
 枝葉が生い茂っているとはいえ、接近してよくよく見れば内部の様子も透けて見える。もしも巣が外側寄りに作られているならば、肉眼でも発見することが出来るだろう。
 しかし、あまり高速で移動してしまうと視界が遮られ、探索にならない。そのため外から探すためには自然と、飛空艇の速度を落とさざるを得ない。
 上から見ると、巨木の枝はそこいらの野球場が十個くらいはすぽんと入ってしまいそうな面積に渡って広がっている。たった二人で探索するには些か広大過ぎだ。
「こりゃ、思ったより時間が掛かるかもなぁ」
 飛空艇・アルバトロスに乗った裕樹が、枝の隙間に目を凝らしながらぼやく。
 どうやら枝の内部はちょっとした森、ともすればジャングルの様になっているようで、葉の隙間からちらほらと動物の影が見える。
 木の上を住処とする動物が全く居ない訳ではないが、ふつうは主に鳥や小動物だろう。だが、見え隠れして居る動物の中には、普通に地上で生活しているようなサイズのものも居る。彼らがおとなしければ良いのだけれど、もしも縄張りを荒らされてるとでも勘違いされてしまったら、中からの探索も難航しそうだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 内部からの探索のため、木の根元を目指す一行は、下生えをかき分けながら進んでいた。
 背の高い木や草こそないものの、膝丈程度の草は茫々としているし、中には人の背丈ほどの草木もまばらに繁っている。一々足を止める程ではないが、かといって一目散にダッシュで駆け抜けることが出来るほど平坦な道でも無い。平地であれば、契約者が全力疾走すればものの一分も掛からずたどり着ける程度の距離なのだろうが、なかなかそうは行かなかった。
 しかし早くアルセーネ達を助け出さなくては、ランチどころか日が暮れてしまう。一行は生い茂る草花を踏み分けながら先を急ぐ。
「……ん? あれは……」
 と、先頭を行くレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が何かを見つけて警告の声を上げた。
「どうしたの?」
 すぐ後ろを歩いていた雅羅も足を止める。それに倣って、一行は一度その場に足を止めた。
「何か居るよ!」
 レキは小声で、しかし鋭く叫ぶ。
 目を凝らすと、背の低い木々の向こうにずんぐりむっくりとした、白と黒のコントラスト鮮やかな影。
「ファイティングパンダ?」
 一般的にペットとして愛好されているはずの、好戦的なパンダだ。しかし、飼い主と思しき姿は辺りに見えない。
 お食事中らしく、辺りの木の枝をむしゃむしゃとやっている。エサを与えられているペットならばその辺のものを勝手に食べたりはしないだろうから、野生化しているものと考えられた。
「見つからないように、回り込んで行こうか」
「でも、時間が掛かっちゃわない?」
 一行の先頭を行くレキや白波理沙らが、どうしようかと頭を悩ませていると。
「いまです、英輝!」
 団子状になって様子を伺っていた契約者達の中から、ひときわ高い声が響いた。
 かと思ったら、げしっ、という音と共に、一人の青年がととと、とたたらを踏みながら踊り出る。
 飛び出してきた、というか、蹴り出されたのは柳川 英輝(やながわ・ひでき)だ。ちなみに、彼を蹴り出したのはパートナーのマナ・アルテラ(まな・あるてら)
「え、ちょ、マナ……?」
「私達がパンダを足止めしますから、皆さんは先を急いで下さいっ!」
 英輝が驚き、パートナーを振り仰いでいるその間に、マナはしれっとした顔で一同に宣言する。その言葉になんとかマナの行動の意図を汲み、英輝は仕方ないな……とパンダに向き直る。もしゃもしゃと木の枝を食んでいるパンダだったが、ざわつく気配を察したのか、こちらに向かって警戒のまなざしを向けているようだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
 その様子を見たレキ達は、二人に軽く手を上げて合図すると、木の根元に向かって走り出す。雅羅や他の面々もそれに続いた。
 ファイ手イングパンダの意識がそちらへ向く。が、すかさず英輝が正面に踊り出た。
「ほ、ほら、こっちだ!」
 英輝は両手を大きく上に広げ、パンダの気をこちらに引きつけようとする。ゆっくりゆっくり歩み寄って距離を詰めると、パンダの方も英輝の方が気になるのだろう、のそのそと近づいてきた。
 はじめは穏やかな顔でコミュニケーションを図ろうとしていた英輝だったが、少しずつパンダが近づいてくるにつれて、その表情が硬くなる。
 遠目に見る分には可愛らしいパンダさんだが、しかしファイティングパンダは戦闘向きの種。近づいて見ればその瞳に、好戦的な色が見て取れる。
 っていうか、思ったより大きくないですか。英輝の顔に焦りが浮かぶ。
 徐々に距離が詰まるにつれ、「おいでーおいでー、おおヨシヨシー」のノリだった英輝の腕が、少しずつ下がってきて、徐々にファイティングポーズの形に固まる。身構えた、とも言う。
 視界の端で、他のメンバーがパンダの横を迂回してすり抜けていくのが見える。ひとまず、囮としての任務は果たせた。
 が、みるみる迫るパンダ。ファイティングポーズを取っている英輝を見て完全に、勝負を挑まれている、と思っているらしく、勢いを増して駆け寄ってくる。どうやらこの周辺、この巨木の恩恵なのか植物の栄養状態が良く、住み着いている動物たちはすくすくと育っているようだ。このパンダも、ペットとして見かけるそれよりも一回りか二回り、大きい。
「これは、ちょっと……」
 自分の手には余るのではないか、と一瞬マナを振り向く。
 が、しかしマナはとっくに戦線を離脱して、草陰に身を潜めていた。
 一応HCなどで連絡がつくようにはして居るので、このままはぐれてしまうことは無いのだけれど、しかし、酷い。
 英輝が一瞬目を離した隙をつき、パンダが跳ねた!
 一気に距離がゼロに近くなり、鋭い爪が襲いかかる。
 英輝は――一目散に逃げ出した!
「マナ、逃げろ!」
 一応声を掛けてみる。とっくに逃げているかも知れないけれど。
 英輝の任務はみんなを通すための囮。無駄に立ち回りを演じて怪我をしても仕方が無い。戦略的撤退だ。
 しかしパンダは英輝の想像以上に足が速い。このままでは追いつかれてしまう。
 なんとかマナと合流出来れば、倒せないまでも時間稼ぎくらいは出来るかもしれないのだが――せわしなく視線を動かしながら、英輝はとりあえず全力ダッシュで逃げ惑う。
「英輝、こっちこっち!」
 と、木の陰からひょこりとマナが顔を出した。英輝は慌ててそちらへ駆け寄る。が、すぐ背後にパンダの気配。
 もうだめだ――英輝は最後の力を振り絞りマナの元までたどり着くと、彼女を腕に抱きかかえるようにしてその場に伏せた。
 すると。
 しゅいぃん! と鋭い機械音が響く。
 かと思うと、強い光がひゅっと過ぎった。
 途端、焦げ臭いにおいが立ち上る。レーザーによる照射だ。
「こっちだ!」
 響いた声に、パンダの意識がそちらへ向く。英輝とマナも釣られてそちらを振り向いた。
 その先に居たのは、一台のオープンタイプのエアカー。その開け放たれたルーフから顔を出して、レーザー銃を構えているのは想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)だ。どうやら、二人の窮地を見かねて援護射撃をお見舞いしてくれたらしい。
「目を閉じて!」
 夢悠は英輝達に鋭く指示を出すと、パンダに向かって光術の光を投げつけた。
 攻撃の意図は無いのでパンダを傷つける事はないが、しかしその眩い光に目を灼かれたパンダが悲鳴を上げる。
「今のうちに、早く!」
 夢悠に促され、英輝達は立ち上がる。そして、蹲るファイティングパンダの横をすり抜けるようにして、巨木の根元目指して走り出す。
 夢悠もまた、二人の後を追うようにしてエアカーを発進させる。運転して居るのはメイドロボなので人間が運転するほどの精度は出ないが、それでもぶつかること無く移動する位は出来る。
 三人の背後で、視界を取り戻したパンダがこちらを追ってくる気配があるが、夢悠は落ち着いて、レーザー銃による威嚇射撃を繰り返す。
 彼らが時間を稼いでいる間に、先に走り出した雅羅たち一行は既に、巨木の幹にたどり着いた様だ。英輝達もじき合流するだろう。
「雅羅さんの邪魔はさせないよ!」
 夢悠は想いを寄せる相手の為、幼さの残る顔立ちをきりりと引き締めて、他の魔物や動物が襲ってこないかどうか、油断無く辺りを見渡す。
 しかし今のところ、他の脅威の気配は感じられない。
 ひとまず銃を下ろすが、しかしまた何か出てこないとも限らない。
 夢悠は気を緩めること無く、引き続き警戒に当たる。