薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

ランチは危険がいっぱい!?

リアクション公開中!

ランチは危険がいっぱい!?

リアクション

「玉藻!」
「おー刀真、待ちかねた……ぞ……?」
 漸く合流出来たパートナーを鷹揚に迎えようとした玉藻前を、樹月刀真は駆け寄るなり、抱きしめた。
 想定外の反応に、玉藻はおや、と驚きの表情を浮かべる。
「凄く、心配した……もう心配させるな」
 ぎゅう、と強く抱きしめられる腕に、刀真からの強い思いを感じ、玉藻はふっと表情を緩めた。

「鉄心もティーも、酷いですのっ!」
 イコナ・ユア・クックブックもまた、やっとのことで合流したパートナーのもとに駆け寄って、ようやく、思い切り涙を流していた。

 一部がそうして再会を喜んでいる間に、一行はカラスの巣から、カラスが持ち去ったと思われる貴金属類を回収し、漸く帰途に着いた。

◇◇◇

 ランチタイム、と呼ぶには少し遅い時間になってしまったけれど、派手に立ち回った為みんなおなかはぺこぺこだ。
 と、言う訳で、蒼空学園の中庭にみんなでシートを広げて、一足遅いランチタイムと相成った。
 この騒ぎでお弁当がすっかりひっくり返って仕舞った雅羅たちの元には、作戦に協力した生徒達が集まって、それぞれの弁当を分け合い、持ち寄りパーティーの様相を呈している。
「この唐揚げは自信作なんだ、食べてみて」
 和泉北都は玉子焼きと、それから特製の唐揚げを持ってきた。隠し味は、砕いて衣に混ぜた柿の種。
 料理が得意な遠野歌菜は、巣ごもりつくねとミニトマトのバジルマリネさけとみつ葉のおにぎりのお弁当。
「こんなものしか、作れませんので……」
 和食を得意とするフレンディス・ティラからはぶりの照り焼きや肉じゃがの詰まった和食弁当。
「母様のお弁当は本当に美味しいんだよ!」
 ユーリ・ユリンの母を名乗るメアリア・トリンからもお手製のお弁当が提供された。
 他にも、杜森柚や布袋佳奈子、夜刀神甚五郎らがサンドイッチを持ってきていて、主食もおかずも十二分だ。
「うちの場合トゥマスやガルさんが山ほど食うからこれでも足りないからな……今日はあいつら居ないのにそのノリで作るべきでは無かったか……?」
 和洋中の料理がぎっしりとつまった三段お重に驚かれた御宮裕樹がぼやく横では、柳川英輝が皆に飲み物と紙コップの差し入れを振る舞っている。
「デザートもあるよー!」
「あるよー!」
 レキ・フォートアウフからはウサギ型にカットされた可愛い林檎、騎沙良詩穂からは、いつの間に用意したやら、人数分の手作りプリンが差し入れられた。
「こちらも、召し上がって下さい」
 リース・エンデルフィアは手作りのスコーンを持ってきている。
「すごい……もう、完全にパーティーね」
 みんなからの暖かな気遣いが嬉しくて、雅羅はにっこりと笑う。
「そうね、酷い目には遭ったけど、素敵な一日だったわ」
 その言葉に、那由他も微笑みを見せる。すっかり巻き込んで仕舞ったことを気にしていた雅羅は、その言葉に内心ほっと胸をなで下ろした。
「さあ、みなさん」
「いただきまーす!」
 アルセーネの音頭で、元気な声が太陽の傾き始めた青空の下に響いた。

「今日は本当にありがとう、助かった」
 グラキエス・エンドロアは、アウレウス・アルゲンテウスが死守してくれた弁当を、パートナー、そして、友人のレリウス達と囲んでいた。
「何度も言わせないで下さい、グラキエス。友人として当然のことをしただけです」
「その……これからも、友達で居てくれるだろうか」
 どことなく申し訳なさそうなグラキエスに、レリウスはにこりと笑って見せる(隣でハイラルが食器を落とした)。
「当たり前です。友人として、あなたを支えたいと思っていますよ」
「レリウス……」
「レリウス……」
 喜びに頬を緩めるグラキエス、の、隣で、ハイラルが驚きのまなざしでパートナーを見詰めている。
「お前、変わったな……」
「そうですか?」
 レリウスは不思議そうに首を傾げた。
「ほら、良かったらレリウスも食べてくれ。その、手作りなんだ。口に合うかは解らないが」
「ではお言葉に甘えて。よければ、俺のも食べて下さい」
 和やかに昼食が再開される。が、レリウスが差し出したのはむき身の軍用固形レーション。
「前言撤回っ! お前ちっとも変わってない! ちょっと待ってろ、購買行ってくるから!」
 それを見たハイラルが、慌てて立ち上がると購買へ向かって走って行った。

「玉ちゃん、大丈夫? 痛いところとかない?」
 シートの上に腰を下ろした玉藻の隣に、漆髪月夜がぺったりと張り付くようにして座っている。
 多少動きづらいのだが、しかし月夜が可愛いので拒否はしない。
「ほら玉藻」
 すると、動きづらそうにして居ることに気づいたのか、刀真が持参したサンドイッチをひとつ、玉藻の口元へと運ぶ。
「珍しいな、刀真」
「……今日だけだ、ほら……って、指を舐めるな!」
 刀真の手から直接サンドイッチを口に運んだ玉藻は、ついでにサンドイッチを持っていた指先にも舌を這わせる。慌てて刀真が手を引っ込めるが、玉藻は楽しそうににやにやと笑っている。
「玉ちゃん、それちょっとえっちい……」
「うん? どうした、月夜もして欲しいのか?」
「ひゃぁっ」
 言うが早いか、玉藻は月夜の指先を捕まえると、ぺろり、とそこを舐めてみせる。驚いた様な声を上げる様が愛おしい。
 たまにはこういうのも悪くない、と思う玉藻だった。

「鉄心もティーも酷いですの、酷いですの……」
 まだショックから立ち直れないイコナは、お弁当を広げながらもまだ二人に文句を言っていた。
「ごめん、ごめんねイコナちゃん。ほら、これ桃さんとブドウさん。美味しいですよ」
 イコナのご機嫌を取るように、ティーはお弁当箱に詰めた果物をイコナへと差し出す。が。
「……これが、ティーが私よりも大切に守ったブドウですのね……」
 攫われたときの事を思い出したイコナは、遠い目をして呟いた。