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ランチは危険がいっぱい!?

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ランチは危険がいっぱい!?

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 とりあえず、大移動、大立ち回り、という展開にはならなそうだ。
 巨大カラスの巣の中で、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は内心ほっと胸をなで下ろしていた。
 彼の手の中には、パートナーであるグラキエス・エンドロア特製のお弁当が握られている。
 カラスの襲撃から弁当を守ろうと必死になるあまり、結局、弁当ごとカラスに攫われてしまったのだ。
(主の手料理……なんとしても守らねば……)
 そんな使命に強く燃えているので、正直なところ、立ち回りを演じるのは勘弁して欲しかった。折角の弁当が台無しになってしまう。
 だから、脱出しようという話が持ち上がったとき、正面から拒否は出来なかったが、内心ひやひやして居たのだ。
 後は助けが来るまで、カラスに弁当をつつかれないよう、守るだけだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 一方、巣の探索は難航していた。
 いかんせん、木が巨大すぎる。
 はじめは手分けして当たればすぐに見つかるだろう、と誰もが思っていたのだが、見通しの悪さと、カラスの群れ、さらには木の上に住み着いているファイティングパンダやらヘルハウンドやらからの妨害もあって、なかなか思うように行かない。
 ファイティングパンダにしてもヘルハウンドにしても、飛び抜けて手強い魔物というわけでは無いのだが、極力傷つけないようにしたい、と思っている者が多い為、無力化に無駄な時間が掛かっている。カラスにしても同様だ。殲滅しに来ているわけでは無い、と、眠らせたり、威嚇したりして進んでいるが、なぎ払うより遙かに時間が掛かってしまう。
「セリーナさぁん」
「姫さーん、どこだー?」
 空飛ぶ箒スパロウに跨がったリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)と、翼の靴を履いたナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)の二人もまた、木の内部から連れ去られたパートナーを探していた。
「うーん……広いですね……」
 はあ、とリースはため息をつく。
 何のヒントもなしに探し回るには、巨木はあまりに広大だ。これくらいで疲労困憊になるほどヤワでは無いが、連れ去られたパートナーも心配だし、気ばかり焦る。
「そうだ……もしかしたら」
 この古木ならば、何か知っているかもしれない。そう思ったリースは、そっと木の幹に手を当ててみる。そして、目を閉じて、心の中でゆっくりと呼びかけた。
――お願い、セリーナさんがどこに居るか、教えて――
 人の心、草の心の正しい使い方だ。(注:周囲の人にびっくりされない、という意味に於いて。)
 すると、さわさわと葉擦れの音が響き、リースの頭の中にしわがれた声が響く。
――嬢ちゃん、お困りかね
――パートナーがカラスに連れて行かれてしまったんです。どこに居るか、知りませんか?
――この爺には、よくわからんが、急に肩の辺りが重くなってのぅ、困っているんじゃが
――……肩、ですか?
――はっはっは、喩えじゃよ、たとえ。そうじゃなあ、嬢ちゃんの居る辺りの、上の方の、もっと外側じゃ
 老木の声に導かれ、リースは箒の進路を上方へと向ける。
 急に重たくなった、ということは、そこに何かがあるのは間違いないだろう。
「待ってて下さい、セリーナさん……!」
 リースは箒を握る手に、力を込める。

 そしてもう一人、同じ事に気づいた者が居る。
 レリウス・アイゼンヴォルフだ。
――わかりました、協力感謝します
 同じように老木に問いかければ、やはり、肩の辺りが重い、と言う。
 レリウスは木から聞き出した情報を、行動を共にして居るパートナーのハイラル、そして友人のグラキエスらに伝えると、そちらの方向へと進路を取る。
 それから、雅羅たち、他の仲間にも情報を共有することを忘れない。
「こちらレリウス。木の上方、やや外周寄りにカラスの巣がありそうです」
 レリウスが携帯で連絡を流すと、方々に散っていた仲間達が続々と進行方向を変え、集まり始めた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ばう、と、犬のような声がカラスの巣に響いた。
 セリーナ・ベクテイリスが連れている賢狼・レラだ。
「レラちゃん、どうしたの?」
 よしよし、とレラの頭を撫でてやりながらセリーナが問いかけると、レラは鼻先を中空へと向け、もう一つ吠える。
「もしかして、ナディムちゃんが来てくれたの?」
 くん、とレラは頷く様に吠えた。
 その言葉に、巣の中は色めき立つ。
 皆が巣の外へと視線を遣ると。
「おおい、姫さーん!」
「ナディムちゃん! リースちゃん!」
 ぶんぶんと嬉しそうに手をふる、ナディム・ガーランドの姿を皮切りにして、四方から契約者たちの気配が近づいてくる。
「歌菜……!」
「羽純くん!」
「モーちゃん」
「主!」
 わいわいと再会の喜ぶ声が上がり始める中。
「あら、気絶してるのね、ユーリ」
 ごたごたに紛れてそーっとパートナーの元までたどり着いたトリア・クーシア(とりあ・くーしあ)メアリア・ユリン(めありあ・ゆりん)の二人は、パートナーのユーリ・ユリンの寝顔をそっと覗き込んでいた。
 これだけ周りが騒がしいというのに、ユーリは目を覚ます気配も無い。
「うふふ、可愛い」
「あっ、石化されてる人がいるですぅ。今後の同人ネタとして写真を撮っておくですぅ」
 暢気にユーリの寝顔を覗き込んでいるトリアの隣で、石化大好きという不思議な嗜好を持つメアリアは、どこからともなく取り出したデジカメを那由他へと向けている。
「良かった、みんな無事ですか?」
 と、そこへぴょんと飛び跳ねるようにして現れたのはフレンディス・ティラだ。後ろにはパートナーのベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の姿もある。
「さあ、さっさと戻って飯の続きと行こうぜ」
 ベルクは背中に背負った闇氷翼を羽ばたかせると、フレンディスに続いて巣のフチに降り立つ。
 それから石化したままの那由他に歩み寄ると、静かにその体に手をかざし、女神イナンナに祈りを捧げる。
 すると、みるみる那由他の体に色が戻り、元のみずみずしい体を取り戻す。
「那由他」
 アルセーネがそっと声を掛けると、那由他の瞼がゆっくり、開いた。
「アルセーネ……? ここは……」
 ぱちくりと何度か瞬きをして、那由他はきょろきょろと辺りを見回す。
「ああ、良かった……!」
 動きを取り戻した那由他の姿に、アルセーネは思わず、ぎゅっとその体を抱きしめた。
「え、ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「心配したんですよ、ずっとこのままだったらどうしようって……」
「さあさあ、感動の再会はその辺にしよう」
 と、突然頭上から声がした。かと思うと、黒いコートに身を包んだ四谷大助がすとん、と上から降ってくる。
 きゃ、と驚くアルセーネ達の元に着地すると、大助はことさら心配した、と言わんばかりの顔を作って、アルセーネの手を取る。
「アルセーネさん、怪我はない? 心配してたんだよ」
 雅羅がな、という本音は伏せて、優しい目でアルセーネの顔を覗き込む。
「雅羅が待ってる、早く戻ろう」
「え……ええ、そうですね」
 突然現れた大助に驚きながらも、那由他が元に戻った今、雅羅に心配を掛け続けるのは忍びないと思ったのだろう、アルセーネはその場に立ち上がった。
 他のカラスに連れ去られていた人達も、おおむねパートナーとの合流が完了したようだ。
「鉄心! ティー! どこですのー!!」
 ……まだ合流しきれていない者も居るようだが、これだけの人数が居れば、安全に彼女達を保護出来るだろう。
 とにかく木を居りよう、と一行が大移動を開始しようとした、その時。

 ガアアアアアアアアアアアアアアアア!! 

 木々を揺さぶる咆吼が、響き渡った。