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天に地に、星は瞬く

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天に地に、星は瞬く

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 地下のドームに残された、ディミトリアスとアニューリスの二人は、言葉に出来ない感慨に、暫くただ見つめあっていたが、やがて、少し離れて所在なげだった残る一匹を振り返って、アニューリスは苦笑を浮かべた。
「……いつまでふて腐れているつもりですか、アルケー?」
「……」
 ぷい、と顔を逸らすだけで反応を返さない、超獣の姿をした生き物の、頭に当たる部分をアニューリスの指がちょん、とつつく。
「声ぐらい、聞こえているのでしょう。答えたらどうなのです」
「……」
 そうして、お互いが見詰め合うこと数秒。結局根負けした生き物……の、内から、アルケリウスは溜息を吐き出した。
「……言っておくが、声を出すのも簡単ではないんだぞ」
 というのも、今のアルケーは自力で声を出しているのではなく、わざわざ巫女が超獣に同調し、封印の中から引きずり出しているのである。超獣に対しての同調力が高い巫女だからこその力技で、こうやって声を出させることが出来ているのだが、アニューリスはにっこりと笑ったままだ。表に出てくるほうも負担が掛かっている、などとはとても言いだせる雰囲気では無い。反論を失ったアルケリウスに、思わずと言った調子でディミトリアスが囁くように言った。
「……勝てるはず無いのは、判ってただろ、兄さん」
「そうだな、そう……だったな」
 はぁ、と溜息をついたアルケリウスに、ふっと三人の間に笑みがこぼれ、嘗てのような空気が戻る。それに表情を緩ませながら、アニューリスは、ちいさな生き物の頭をそっと撫でながら、静かに二人に語りかけた。

「少し、思い出話でもするとしましょう。夜は長いのだから……」






 そうして、三人が静かに口を開いていた頃。
 地上の喧騒も薄れ、まどろむような余韻の中にあった。ステージの明かりも落とされ、壇上に残ったペトの子守唄のような歌声が、柔らかく流れ、それに呼応するようなストーンサークルからぽつぽつとこぼれる光だけが、広場を優しく照らしている。


「綺麗だね」
 バルコニーで紅茶を楽しんでいた北都は、その光景に目を細め、アップルパイを齧った。この町で採れていたという、その材料である大きな林檎は、地輝星祭の要であった超獣の存在を失った以上、味わえるのはもう最後かもしれない。そう思うと、還っていく光たちが妙に切なくも感じる。そんな気配を察してか、傍らのクナイがそっと肩を寄せた。
「最後は最後でも、ここからが、はじまりですから」
 憂う必要は無いですよ、と、囁くように言うクナイに、北都は「そうだね」と表情を緩めた。そう、この町にとってこの祭があらたな始まりであるなら、還っていくものたちも、これからまた新しい始まりを迎えるのだろう。そう思うと、自然綻んだ顔を、幻想的な光景へと向ける北都に寄り添い、クナイはそう、っとさりげなく体を傾けながら、その手を肩へと回した。一瞬くすぐったそうにしたものの、北都も逆らわず、久々ののんびりとした空気に身をゆだねた。
 ちなみに、そんなクナイが密かに、北都の歌声を録音したデータを入手うしているとは、このときの北都にはまだ、知る由はなかった。


「全く。大人しくしていてくださいと言ったでしょう」
 一方で、のんびりとも行かなかったのがグラキエスだ。
 地下の遺跡で、力の同調に協力したことで、また少し調子を崩したため、ロアのお小言は止まる気配が無い。その上、アウレウスもすっかりいつもの彼に戻ってしまい、あれこれとかいがいしく動き回るおかげで忙しない。
 とはいえ、我儘を通した自覚はあるので、大人しくしていたグラキエスは、そっと空を仰いで、ゆっくりと大気へと解けて行く光たちに目を細めた。
「…………」
 結局のところ、これで正しかったのか、やはり完全に結論を出すことは出来ないままだ。だが、ディミトリアスの、そしてアニューリスの幸せそうな顔もまた、忘れられない。その光景を何度も思い返すグラキエスの唇は、本人も知らないうちに、静かな笑みが浮かんでいた。




「きれいねぇ……」
 同じ頃、広がる光景に仁科 姫月(にしな・ひめき)がうっとりと呟いた。
 人工の光と違い、その灯火は夜空の邪魔をしない。そのくせ、足元を危うくすることもないので、広間をのんびりとめぐるにはもってこいだ。
(兄貴と一緒に来たかったなぁ……どこにいるんだろ、兄貴)
 そんなことをぼんやりと考えながら、パートナーの成田 樹彦(なりた・たつひこ)と共に散策していた姫月に「あ」と近くから声が上がった。
「お団子、いかがですか?」
 ティーだ。
 宴もたけなわ、飲みつぶれてひっくり返ったり、パートナーに膝枕してもらったりしている者も居れば、まだちびちびと酒を楽しんでいたりする面々の中で、ティーとイコナは作ったお団子を皆に配って回っていたようだ。
「沢山作っているので、よかったら」
「わあ、ありがとう!」
 嬉しげに受け取ってはしゃぐ姫月を眺めながら、樹彦はふと、懐かしい思いに目を瞬かせた。
(何だ……? 前にも、こんなことが……)
 あったような、そんな気がする。だが、その影がはっきりと形を作る前に、ふわりと光が突然、その輝きを強くして町全体を輝かせ始めた。
 遺跡に残された最後の力が、消え行こうとしているのだ。




 天蓋より這い出す 灰色の悪夢
 堕ちる太陽翳る月 乱された眠り

 月を想う 怒りの炎 月は想う 在りし日々を
 月を想う 眠りし姫 月は想う 愛しき人を

 悪夢を縛る 星々の 茨を切り伏す 星々の
 願いて歌う 星々の 狭間を結ぶ 星々の
 想いを重ね 全てを繋げ

 全ては還る 天に地に 全ては瞬く 星の様に

 



「この光が、超獣から還される、本来の力……」
 
 まるでそれを見送るようにして、ペトの小さな歌声が流れる中、給仕の手を止めて、誌穂はその光を見上げてぽつりと呟いた。超獣から呪詛が取り除かれた、パラミタの大地が持っている本来のエネルギーの姿。その恩恵を思いながら、誌穂はシャンバラ宮殿で、それを守るために祈り続けているアイシャのことを想って、ぎゅっと掌を握った。
「頑張、らなくちゃ……」
 この先も、戦い続けるために。
 そう、誓いを新たにする者があれば、その光景に束の間の安らぎを得る者達もいる。
「これでやっと……全部が還るんだな」
「うん……」
 同じように空を仰ぎながら寄り添い、お疲れ様、という言葉の代わりに、労わるように重なったヘルの手を握り返して、呼雪は目を細めてそれを見送り、歌菜も、羽純に寄り添いながら、その光景に息をついた。
 幻想的で、どこか切なくも見える光景はしかし、新たな生き方を選んだ二人を、祝福する灯火のようにも思える。超獣を吼えさせたほどの強い悲しみ、身を捧げるほどの強い想いの果てに、辿り着いた二人の言葉と、その表情を思いながら、歌菜は羽純の手に、自分の手をそっと絡めた。

「……これからも、一緒に生きようね」




 そんな彼らの、思い思いの目に見送られる光たちは、大気に解け、大地へ解け、トゥーゲドアの町に、深い夜の帳が、静けさと共にゆっくりと満ちていく。まるでその光たちを迎え入れるかのように瞬く星達に、見守られながら。





担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

ご参加された皆さま、疲れ様でした
この町から始まった物語も、ようやくこの町へと帰り着き、ひとつの結末を迎えることが出来ました
正直、よもやアルケリウスにまで手を伸ばしていただけるとは、最初は思ってもみませんでした
それが結果的に、ここまで引っ張り上げていただき、三人とも顔をあわせることが出来ました
本当にありがとうございます

さて、今回リアクション中でも触れておりました、各種欠片についてですが
今後公開予定の【帝国を継ぐ者第二部】にて使用が出来る予定です
詳細は、後日マスターページに掲載いたしますので、ご参照ください

超獣の物語はここでひとまずの終わりでございます
ですが、ある意味では始まりでもあります
また彼らと会った時には、どうぞよろしくお願いいたします