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暴れカボチャ襲来

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暴れカボチャ襲来

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■幕間:お化けカボチャの捌き方

 頭に乗った精霊の指示に従って二匹の獣が畑の中を縦横無尽に駆けている。
 獣うちの一匹、狼は彼女の意思を理解しているのであろう。蔓を伸ばして叩いてくるカボチャに対し、蔓を噛み切ったうえで咥えて運んでいた。
もう片方の獣、巨躯の犬はバシバシと顔を叩いてくる蔦などお構いなしにカボチャ本体に咬みつき、深く歯牙を突き刺している。
「しょうがないですねえ〜。でもネギとかは絶対咥えてはだめですよ〜?」
 二匹を共にしているのは精霊のルナだ。
 彼女は二匹の頭を撫でると収穫した作物を村へと運んでいく。
「クケケ、ケケ」
 狼に咥えられているカボチャはまだ元に戻ってないようで、ちぎれた蔓を必死に動かしている。
 なにかを伝えようとしているようにも見えるカボチャにルナは優しく話しかけた。
「大丈夫ですよ〜。わたしがちゃ〜んと保護しますから〜」
「クケ、クケッ! クケッ!」
 言葉が通じたわけではないだろうが返事をするようにカボチャが高らかに笑う。
 つられたのだろうか。狼も同じように笑おうとして――
「ケーッ!」
 と叫んだきりカボチャは喋らなくなった。どうやら笑おうとした際に牙が深く食い込んでしまったようだ。
 しまった、と言うように狼が頭に座っているルナを見上げるように視線を動かす。尻尾が力なく垂れた。
「だ、大丈夫ですよ〜」
「そーそー。大丈夫大丈夫〜♪」
 アニスは彼女に近づくと手にした氷漬けのカボチャを犬の脇に付けられたカゴへ入れた。
 結構な重さだというのに動じる様子はない。その身体の大きさは伊達ではないようだ。
「凍ってるですよ〜?」
「保管に便利かなーって思って」
 告げる彼女の足元が凍りついていく。
 それは円を描くように奔っていくと周囲のカボチャを次々と凍らせていく。
「にゃはは〜、『ブリザード』!!」
 宙に伸ばされた蔓が凍り、崩れ、落ちていく。
 アニスの周囲のカボチャの悉くがその活動を止めていった。
「ほ、保護ですか〜?」
「保護だよー」
「保存の間違いだろ」
 佐野は言うと指をパチンと鳴らした。
 彼の眼前、ケタケタタと笑うカボチャが突如炎に包まれた。蔓が焼き切れ、笑い声が消えていく。
 だがカボチャそのものには大きな変化は見られない。鳴かなくなったくらいだ。
「よし。こいつも頼んだ」
「は〜い」
 アニスは佐野の投げたカボチャを凍らせ、またカゴへと放り込む。
「あっちも順調だな。ルナ、保護ついでに手伝ってきてくれ」
「了解ですよ〜」
「アニスは?」
「俺と残って続きだ。全て捕獲するわけじゃないし、数個は丸焼きでいいだろう。あ、銃は使うなよ。食料に撃ち込むわけにはいかないからな」
「了解!」

                                   ■

 ルナの向かう先にはキリエたちの姿があった。
 アニスと同じようにカボチャを凍らせている。違うのは周囲全体を凍らせるのではなく、一つ手にして凍らせていくようなやり方だ。
 その所作は丁寧という言葉が似合うだろう。
「よいしょっと」
 手にした杖で叩く。カボチャが調理するのに程よいサイズで砕けた。
「あと何個ですかね〜」
 隣、同じようにカボチャを凍らせては杖で叩き割っているメーデルワードに声をかける。
 彼は嬉しそうに笑みを浮かべながら杖を振る。
「楽しみだな。ああ、楽しみだ」
 彼は周囲に転がっているカボチャを手当たり次第に凍らせていく。
 そして杖を振り下ろす。時折カボチャの「ヒイイ」という声が悲鳴のようにも聞こえるが気のせいだろう。カボチャに意思はない……はずである。
「こっちもまだたくさん残ってるし、ラスの方もまだ終わりそうにないな」
 メーデルワードの視線の先、カボチャを真っ二つに斬る青年の姿がある。
 ラサーシャだ。彼はセラータと共に剣でカボチャを次々と捌いていく。
「調理するならこれくらいの大きさがいいですかね?」
「このくらいじゃない? スープも作ってもらうからもっと小さくてもいいかもね」
 セラータがラサーシャの斬ったカボチャを見る。
 哀れ、そこには元の形がわからないくらいに捌かれたカボチャの姿があった。ときおり蔓が顔を出している。適当に斬っているのが窺えた。
「……調理の時にちゃんとやってくれますよね」
「やってくれるよ。大丈夫!」
「せや、どもないよ」
 彼らの目の前。鎮座するカボチャが吹き飛んだ。
 転がってきたカボチャには点々と穴が開いていた。
「――え?」
 トメがショットガンを片手に笑みを浮かべている。銃からはいましがた発砲しましたといわんばかりに硝煙が立ち上っていた。
「やりすぎですっ!?」
「それじゃ食べられないよ!」
「せやからどもないって」
 なあ、とトメが朋美に振り返った。
 朋美は目を瞑って首をかしげる。
「ん〜……ハロウィンとかのイベントには使えなくなっちゃう、かな?」
「ハロウィンってなんね?」
「カボチャの中身をくり抜いて飾ったりとか」
「カボチャはおもちゃやありまへんえ? 清く正しく美しく食べるもんでおます。冬至用の南京は別にして今はおやつにしましょ、な?」
 トメは言うと穴だらけのカボチャを手に取る。
「弾は裏ごしする際に取り除いたらええ。あたしが団子つくってあげましょ」
 彼女は言うと銃をくるんと手の先で一回転させると――

 ――ズドンッ

「ケヒッ!?」
 笑っていたカボチャの声は止み、穴がこれでもかとばかりに空いていた。
「あたしがカボチャの正しい使い方おせてあげましょ」
 トメは歯を見せて笑うと手にしたカボチャをカゴへと投げ入れた。
 その様子を眺めていたアニスが佐野に告げた。
「銃使ってるよ?」
「――いいんだよ。あっちはあっちで考えがあるようだしな」
 手にした氷漬けのカボチャを見る。
(保存場所のこと考えてなかったな。まあなんとかなるだろう)