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発見! 幸せのふわふわ毛玉!

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発見! 幸せのふわふわ毛玉!

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■激突、蠱毒這蛇(前編)
 拡声機による大声の出所は、どうやらこの遺跡で一番高い朽ちた建物のところからのようだ。そこには、白衣に身を包んだ人影を中心に、数人ほどいるように思える。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! “天空より堕とされし竜王・ランドサーペント”よ! 我ら秘密結社オリュンポスの一員となり、共に世界征服を目指そうではないか!」
 ……高笑いから始まった大声は、なんというかまぁいつものハデス節だった。どうやらハデスはランドサーペントをオリュンポスへ勧誘するべく、調査に協力するという名目で遺跡群に入り込み、この時を虎視眈々と待っていたらしい。
「天空より堕とされし竜王……マスター、結構かっこいいネーミングですね」
「そ、そうか……?」
 ハデスが取ってつけたような謎の二つ名に共感を示すフレンディス。……最近、アホの子具合が進んでるように思えてならない、とベルクは苦笑いを浮かべてしまう。
 そうしている間にも、ハデスは拡声器で遺跡全体に響くような大声をバカスカあげながらランドサーペントの説得を試みている。その様子はとてつもなく必死で、真面目で、滑稽だった。
 ――当然のことながら、種族の違う……ましてや言語感覚が違うのであればその言葉が通じることなど毛頭ない。ハデスの説得も空しく、ランドサーペントは殺気立ったまま威嚇して敵意を見せつけている。
「むぅ、どうやら我らの誠意が足りないと見た。……しかたあるまい、こうなったら説得を円滑に進めるための“生贄作戦”を実行するとしよう。――ヘスティアよ、生贄の準備をするのだ!」
「かしこまりました、ご主人様――じゃなかった、ハデス博士。ご命令の通り“生贄”の準備を行います」
 ハデスの後ろに控えていたヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が命令に応じると、どこで用意したのか十字架をその場に立てていく。……その十字架に両手両足を縛られていたのは、気を失っている状態の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)だった。あろうことか、ハデスは妹をランドサーペントの生贄として捧げようとしていた。
「ん、んぅ……ここは……?」
 と、十字架が打ち立てられた時点で咲耶は気が付いた様子。なぜか自分が十字架に張り付けられている状況に気付いた咲耶は、すぐさま近くにいるハデスへ視線を向ける。
「って、に、兄さん! なんなんですかこの状況は!?」
 目の前には巨大な蛇、そして十字架に張り付けられ動けない自分の身……状況が飲みこめず、パニックになりかけているが、いつもこのような役割をさせられているからか、すぐに落ち着くことはできたようだ。
「フハハハ、このランドサーペントを仲間に引き入れるために生贄になってもらったのだ。なぁに、心配することはない。ランドサーペントを仲間にできれば、このくらいの犠牲などお釣りで返ってくるほどの活躍が期待できるだろう!」
「すみません、咲耶お姉ちゃん。けど、これもハデス博士の命令ですので……」
 ヘスティアもそう謝りながらも、テキパキと『晩餐の準備』や『至れり尽くせり』で生贄準備を進めている。命令を受けているとはいえ、なんだかんだでノリノリだ。
「わ、私が生贄っ!? ちょ、ちょっと! どうしてそういう発想になるんですかっ!?」
 じたばたと十字架から逃れようとする咲耶だったが、とても脱出は無理そうだった。「これもすべて神のおぼしめしなのだ!」と、ハデスはわけわからないことを言っている。
 しかしランドサーペントにとってはこんなのは茶番にもなり得ない。ただ目の前にある“餌”をひと飲みにしようと、大きな顎を開き、身動きを取れずにいる咲耶へ近づこうとする。……と、そこへ咲耶の前に出てきたのはヘスティアと同じくハデスの後ろに控えていた、《巫女装束》を身に纏いし少女、奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)だった。
「ぬ、神奈!?」
「説得もダメ、生贄もダメとなると――どうやらわらわの出番のようじゃな。代々において龍を祀ってきた奇稲田家の術をもってすればランドサーペントごとき、使役するなど簡単なこと。やってやれぬことはない――じゃ、じゃが別にハデス殿のためではないんじゃからなっ! 勘違いするでないぞ!」
 典型的なツンデレを見せつける、ハデスの婚約者。凛と構え、ランドサーペントと対峙すると……気合を込めてランドサーペントへ喝をかける。
「さぁ、ランドサーペントよ! 奇稲田の令においてわらわの命に従うがよい!」

 …………。

 しかし なにもおこらなかった! そんなメッセージが流れてきそうな空気になりながらも、ランドサーペントは構うことなくハデスたちに襲いかかろうとする!
「じゅ、術が効かないじゃとっ!?」
「ええい神奈よっ! 侍のお前が術を使えるわけないだろうが! それに大声だけでは術とは言えんぞ!」
 せいぜい術に近いものといえば『天子の威光』だろうが、神奈はただ叫んだだけなので効果なし。思わずハデスがツッコミに回ってしまうほどの出落ちっぷりを見せる神奈。このままでは、咲耶もろとも食べられてしまう……!
「いけ、ウォドー! あれの中にきっといるぞ!」
「おおぅ!! ふわふわ毛玉だか何だか知らねーが、俺様とキャラ被ってんだよ! 全部取り込んでやらぁ!!」
 だが瞬間、轟く豪勢と共にウォドー・ベネディクトゥス(うぉどー・べねでぃくとぅす)が飛び蹴りでランドサーペントの顔を思い切り攻撃し、バランスを崩させていった。それを起点に、ウォドーをけしかけた瀬乃 和深(せの・かずみ)が後方から《ホエールアヴァターラ・バズーカ》で援護していく。
「Noooooooooooo!!?」
 飛び蹴りをしたウォドーは、ランドサーペントが強酸の汗を全身に纏っていたことを忘れていたらしい。飛び蹴りの際に接触した足裏部分を強酸で灼かれてしまったようだ。
「……いや、お前ポータラカ人だろ。そういうのって全員にダメージくるもんなのか?」
「何のこれしきぃぃぃ……俺様以外の毛玉がいることへの怒りでどうとでもなるわぁ! 全ては唯一の毛玉キャラとなるために!」
 ウォドーの根性に思わず呆れる和深。……元はといえば、このポータラカ毛玉がごねたのでふわふわ毛玉を探しに来た。だが本当に見つけられたら色々と厄介なことになりそうなので和深は「案外、ランドサーペントの腹の中にいるのかもな」と根拠もないことを言ってしまったのが始まり。
 それがきっかけで、ウォドーを毛玉から遠ざけるためにランドサーペント討伐グループに回ったわけなのだが、ウォドーの様子を見てるとそのまま自ら腹の中に入りそうな勢いだ。
「あれでも一応和深のパートナーだからな。我と月琥が接近戦を持ち込んで腹を攻撃してこよう。そうすればあとはどうにかなるだろう」
 トンデモが目立つウォドーではあるが、それでもやはり和深のパートナー。何かあってからでは遅いのでセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)瀬乃 月琥(せの・つきこ)と共に接近戦をすると進言。しかし、それに対し和深は難しそうな表情を浮かべる。
「いや、強酸のこともあるからな……色々と危ない」
 その危ない、には“脱衣的な意味”も暗に含まれていたのだが、セドナはそれを読み取ったらしい。ふふん、と胸を張りながら言葉を返す。
「なに、見られても恥ずかしい身体をしていないから問題ない」
「見ても面白くない身体、の間違いだろそれ」
 和深からの返しの瞬間……和深の顔面にはセドナの拳が着弾、思い切り殴り飛ばされていった。
「うわぁ、痛そう……。――それにしても、お腹の中に毛玉がいると思う?」
 月琥は殴り飛ばされた和深に思わず合掌してから、セドナと共にランドサーペントに対峙する。ランドサーペントは敵意を、初撃を食らわせたウォドーに向けており、噛みつき攻撃で捕らえようとしているところであった。狙われているウォドー本人は、強酸を警戒してか近づけずに、回避一辺倒のようである。
「吐き出させればわかるのだが……あの強酸、武器も溶かしかねないな」
 セドナの不安点として挙げた“強酸による武器の溶解”。特にセドナは《ドラゴンアヴァターラ・ストライク》での攻撃を予定しているため、ギフトへのダメージを懸念している。
 攻防一体となっている強酸の汗に手をこまねくわけにもいかない――そう思った時、後方から『ブリザード』の吹雪が轟き、ランドサーペントの表面一部を瞬時に凍らせていく。
「どうやら戦闘は始まったばかりのようですね。援軍に来ました!」
 セドナたちが後ろを振り向くと、そこには御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)、そして佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)フィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)熊谷 直実(くまがや・なおざね)佐々木 八雲(ささき・やくも)のランドサーペント討伐グループメンバーが現場に到着していた。さらに別方向からは猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)たちも合流していく。
 ――頭数は揃った、あとはこの蠱毒の主を退けるだけである……!