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リアクション
■激突、蠱毒這蛇(後編)
――ウォドーが囮として(勝手に)動き回っている間、集まったメンバーによってプチ作戦会議が開かれる。その中で、八雲は弥十郎の肩にポンと手を置きながらニコリとほほ笑んだ。
「弥十郎、お前も囮になってこい」
「え?」
思わぬ言葉にきょとんとする弥十郎。しかし、八雲から放たれる“兄貴オーラ”(『心理学』を応用したもの……らしい)は有無を言わせるつもりはないようだった。
「僕よりも美味そうだしさ。それに龍もいるし、あそこで走り回ってる人の身体付いた毛玉もいるから大丈夫だろ」
「失礼ながら、囮役ならばわたくしが引き受けたく思うのだが」
と、そこへ助け舟が。直実が囮役になると進言してきたのだ。だが、八雲は首を横に振ってそれを断っていった。
「これから提案する作戦じゃ、如何に蛇を混乱させるかが肝になる。僕だと間違えて『警告』しちゃいそうだし、おっさんだと殺気出し過ぎて完全にタイマン勝負になりかねない。フィンには銃で援護してほしいし、他の人たちにはそれぞれ役目がある。――そうなると、のほほんとしてて僕への合図も『精神感応』で完璧に行える弥十郎が一番適任、というわけで」
八雲の徹底した説明を聞き、直実はなるほどとばかりに納得。囮の役を弥十郎へ委ねることとした。肝心の当人は……すでにあきらめているようだ。
さて、そんなこんなで提案された作戦。それは弥十郎が(独自に動いている)ウォドーと共に囮をやってランドサーペントの気を逸らしつつ混乱させ、そこへ八雲やセルファが牽制を兼ねた奇襲を仕掛け、その奇襲に合わせた挟撃による死角からの攻撃を直実とフィンが担当。本来の作戦ならばここで終わりなのだが、挟撃によってひるんだ隙を狙い、真人と複韻魔書が氷結魔法でランドサーペントの腹部を攻撃して凍らせ、そこへセドナと月琥が和深の援護を受けながら攻撃する。
そして、その攻撃で毛玉を吐き出した場合は無益な殺生はせずすぐに離脱。吐かなかった場合、危険が及ぶので勇平とウイシアが光条兵器を用いてランドサーペントの首を一刀両断する――これが提案された作戦に+αされた討伐作戦であった。
「本当なら命を奪う必要もないのでしょうが……巣がこの遺跡群全体に及んでいるとなれば、ふわふわ毛玉を見つけられていない現状では殺生なしは難しいですね」
ランドサーペントの巣の領域を犯しているのは自分たちなので、なるべく無益な殺生は避けたい真人ではあったが……本人が説明する通り、すでに巣が遺跡群全体に及んでいること、そしてふわふわ毛玉が見つかっていないことから、ランドサーペントを追い払って捜索を続けるのは難しいと判断したようだ。
「はぁ……よくやるもんだ」
傍らで作戦内容を聞いていたローグも思わず唸ってしまう。時間がない、ということなので会議終了と同時に作戦が開始されることとなった。
「――あまりにも大きいから食材に向くかどうか……ちょっとわからなくなってきたなぁ」
第一段階、囮によってランドサーペントの意識を困惑、混乱させるフェイズ。
いまだ「食べられてもし脱出できなかったら世界最高峰の愛され毛玉キャラである俺様がいなくなってしまう……!」と、いらんことを考えているために回避一辺倒のままになっているウォドーは無視しつつ、弥十郎は本来の目的のことを考えながら『行動予測』『記憶術』でランドサーペントの動きをじっくり観察している。
本来の目的……それは二つあり、ひとつは『フィンの実戦経験を積ませる』こと。そしてもう一つが『ランドサーペントの汗と肉の入手』である。
フィンの実戦経験のほうは何とかなるとしても、もう片方の目的はちょっと難しいかもしれない……と弥十郎は考える。というのも、相手はかなり大きく、食材として手に入れる場合かなり捌くのに時間がかかる、いや不可能なほどだ。それならばせめて汗の採取だけでも……そう考えながら、弥十郎は囮としての使命を確かに全うしていく。
無意識の囮と意識された囮の二重構造により、ランドサーペントは徐々に双方を目移りし始める。途中、業を煮やしてか尻尾による広範囲の薙ぎ払いを繰り出してくるものの、薙ぎ払いに注意を向けていた契約者たちはそれを何とか回避していく。しかし大きさが大きさだけにその回避も一苦労といえよう。
……弥十郎とウォドーがランドサーペントの周辺を駆け、その気をとにかく引いていく。ついにランドサーペントは二人を共に見失い、わずかな隙が生まれる……!
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「次に繋げるために……!! せぇいっ!」
ランドサーペントのほぼ目の前に飛びかかり、牽制攻撃を行う八雲。同時にセルファも『ソードプレイ』による剣技と『轟雷閃』で派手に牽制を行い、噛みつきなどの攻撃も『オートガード』による防御で何とか防ぐ。しかし、一番危ないのはやはり巻きつき攻撃であり、それだけは絶対に喰らわないよう、しっかりとした立ち位置を形成していく。
「――フィン!」
直実の合図とともに、八雲たちとは逆方向の死角から、『百戦錬磨』の勘でベストポジションを取っていた直実と『隠形の術』で周辺に溶け込むように隠れていたフィンが挟撃を仕掛けようと飛び出す! そして直実は『クライ・ハヴォック』を使い、ランドサーペントへの警告と共に味方たちを一斉に鼓舞していく。
(森の樹は考えない――考えるから気配が出る。樹に隠れるならば“樹になる”とは考えるな……!)
師匠である直実からの言葉を心の中で反復しながら、『隠形の術』を解いて死角へ飛び出したフィン。手に構えた《レバーアクションライフル》による『弾幕援護』で攻撃しつつ、すぐさま別な物陰に隠れて『隠形の術』で自身の姿を隠し――ランドサーペントを攪乱しようとする。姿を隠す際は何も考えず、息を殺し、全てに溶け込む……!
挟撃によるさらなる攻撃を受け、ランドサーペントはひるむことなく激昂の威嚇を上げる。そして暴れ回るかのように全身を使った薙ぎ払いで周辺もろとも一斉に攻撃しだしていく!
しかし直実はそれを防ごうと《アンガーアンカー》を尻尾へと撃ちこんでその動きを抑制しようと試みる。強酸の汗によって《アンガーアンカー》の先端が溶かされるものの、なんとか肉に喰らいついてダメージを与えていった!
「怒りによってだいぶ隙ができてきています。――準備はいいですか?」
「うむ、武器での攻撃がしにくいのであればわらわたちの魔法で仕留めてくれる!」
「狙うは腹部……『ブリザード』!!」
直実の一撃や、囮と前衛によって薙ぎ払いを引きつけてくれているのを確認すると、作戦の第三段階が展開される。後方で控えていた真人が『ブリザード』、複韻魔書が『禁じられた言葉』を併用した『凍てつく炎』を同時に放ち、ランドサーペントの移動の要であろう腹部へ直撃させていく!
強力な氷結魔法をその腹部へと受けたランドサーペントはその身を大きくのけ反らせる。腹部にはしっかりと魔法が着弾したらしく、ところどころで強酸の汗ごと一部が凍りついているようだ。
「これならいける――さぁ、毛玉を吐いてもらおうか!」
「捌かせてもらうわ!」
強酸の汗も氷結してしまえば武器攻撃も通しやすくなる。真人と複韻魔書、そして和深の援護を受けながら、セドナと月琥はそれぞれ武器を構え、素早い動きでランドサーペントの腹部へ容赦ない一撃が加えられていった!
《ドラゴンアヴァターラ・ストライク》による確かな衝撃がランドサーペントを襲う。しかし、やはり体長が大きすぎるせいもあってか毛玉を吐かせるまでには至らない。
「……お願いします!」
真人の合図を受け、さらに後方で控えていた勇平とウイシアが頷く。ウイシアは身体に封印されている光条兵器《イプシロン零型》を取り出すと、勇平に手渡して『稲妻の札』による援護の準備を進める。
「勇平君!」
「任せておけ! ――ちっとばかし、本気でいかせてもらうぜ!」
これだけの大きさを斬るとなればかなりの出力が必要と判断し、勇平は《イプシロン零型》を全力で振りかざし、『アナイアレーション』による極まった剣技でランドサーペントの首を一刀両断する!
――一筋の光がランドサーペントを捉え、光の通過と共にその蛇頭は大地へ落ちていく。それに続くようにして残りの部分も大地へ崩れていった。
あまりにも綺麗に斬られたためか、血液がすぐに大地へ広がることはなく、本当に倒したのか不安が残るところではあるが……先ほどまで動きを見せていたランドサーペントが動かなくなったところを見ると、絶命したのは間違いないようだ。周囲にあった幼体の殺気も、親玉がやられてしまったことで畏怖してしまい、すっかり無くなってしまっている。
「おーい、みんなー!!」
と、そこへジョニスたち探検部を含めたふわふわ毛玉捜索グループが討伐グループたちと合流。ランドサーペント成体が現れたからその様子を見に来たのか、と思われたが……その口から、一つの事実が吐露されたのであった。
「毛玉の居場所なんだけど……今倒した、そのランドサーペントのお腹の中みたいなんだ! すぐに調べてみよう!」