校長室
発見! 幸せのふわふわ毛玉!
リアクション公開中!
■販売、雑貨店の新商品? ――ふわふわ毛玉が棲みついているのは、ランドサーペントのお腹の中。奇しくも、和深がウォドーを毛玉から遠ざけさせるために言った憶測が正解だったことに、和深は心の底から後悔していた。このままだと厄介なことになる、と。 そのウォドーは毛玉ライバル(?)であるンガイと火花をちらつかせていた。ライバル同士として、毛玉の戦いは避けられないのだろうとは思うのだが……誰もそれに介しようとはしなかった。 ひとまず毛玉の正体を確かめるべく、ランドサーペントの肉を欲しがっていた弥十郎が中心となってランドサーペントの解体作業に移る。大きさが大きさなので、捌くのにも一苦労しそうだ。 「昔は蛇をよく食べたが、ここまで大きいのはいなかったぞ。まぁ、食べるならば蒸すか炭火で焼くか……汁物もいいな。つくねという手もあるぞ?」 弥十郎の手伝いをする直実は、蛇を食べていた当時のことを思い出しながら蛇の調理方法について弥十郎へレクチャーする。弥十郎はふむふむと頷きながら、ランドサーペントの皮をなんとか剥いでいく。 「あ、ただ食べ過ぎると元気になるから気を付けるように」 「え、何が元気に――って、フィン!?」 直実ならではのハードボイルドな付け加えの返答をしようとした弥十郎だったが、『隠形の術』であまりにも周りに溶け込んでいたフィンが弥十郎の近くで『隠形の術』を解いたため、完全に不意を突かれびっくりしてしまったようだ。 「兄弟子、何をびっくりしているんですか?」 「いやぁ、急に黄色い生き物が出てきたなぁ、と思って」 「油断しすぎですよ。食材を前にしてどう料理しようか考え過ぎてたんじゃないですか?」 フィンからの指摘に「え、ばれた?」と返す弥十郎。どうやら、バレバレだったようだ。 ……そんなこんなでランドサーペントの解体作業も終わり、いよいよ腹部を捌く段階へやってきた。強酸の汗で手こずるかと思っていたが、どうやらランドサーペントの生体反応に合わせて強酸作用が出ていたので今は触れても大丈夫なようだ。 いよいよ毛玉がいるという腹部内を確認する。――その中には、腹部の内臓内にも関わらずふわふわさを維持し、ひと塊にまとまっているふわふわ毛玉生物の姿があった。 「ぬぅぅぅぅぅん! あの姿――やはり捨て置けん! そいつらは俺様が取りこんで、パラミタ唯一の愛され毛玉キャラになってやろう!」 ふわふわ毛玉の姿に激昂するウォドー。すごい勢いで毛玉の塊へ特攻を仕掛けようとするが……。 「油断大敵アル」 『光学迷彩』で姿を隠していたチムチムがウォドーの前に姿を見せ、ガシッとウォドーを確保。本来ならばふわふわ毛玉が逃げた場合の捕獲要員だったのだが、ふわふわ毛玉はまったく動かない様子だったので、目の前を通ろうとしてた危険因子を確保したようだ。 ウォドーはそのままどこかへ連行され、他の契約者たちはそのままふわふわ毛玉生物の観察を再開。……こちらが見ているというのに動じることなく、その場にジッとしているままだ。 「動かないねぇ……せっかく捕らえる準備とかしてきたのに」 レキが残念そうにしているが、隣にいたジョニスがツンツンと毛玉を触りつつ毛玉の様子を見ていく。 「多分、これは植物かそれに近い生物なんじゃないかと思う。暗い所……この場合はランドサーペントのお腹の中だけど、そういう場所に好んで生息し、そんな体内にいても生き延びられるほどの強靭な体力を持ってて、その個体が死ぬまでの間棲みついて、死んだら他の個体へ移動する……それ以外はまったく何も考えていない共生型のコケみたいな生物、それがこれの正体かも」 ……言われてみれば納得である。しかしそうなると、共生していた個体が死んだことにそろそろ気づき、別の個体へ移動するだろう。そうなる前に、契約者たちは各自それぞれの行動に移ることにした。 もふもふ……もふもふ……もふもふ…… ――そんな効果音が周囲からやたら目ったら聞こえてきそうなくらいに、毛玉を観察・録画したりもふもふまふまふしたりする人が多数。生態系を壊さないためにも、あまり捕獲数を多くせず……個人的に欲しい人は一人一匹まで、店長用に数匹ほどビンに確保するだけに留めておくこととなった。 あとはこのふわふわ毛玉を雑貨店の店長へ持っていかなくてはならないのだが、契約者たちはいまだもふもふの魔力に取りつかれているのかすぐに離れようとする人はあまりいない様子。さらにはランドサーペントの肉を大型飛空艇へ搬入しなければならないのでしばらく時間がかかりそうではあった。 「それじゃあ、私が店長さんのところまで運んでいってもいいかな?」 と、そこへふわふわ毛玉輸送役を立候補したのはオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)だった。オデットは《聖邪龍ケイオスブレードドラゴン》がいるので、問題なく空京まで輸送できるとのこと。せっかくの申し出なので、契約者たちはそれに応じることにする。 「僕たち探検部はもう少しこの遺跡群を調査したいので、そっちはお願いするよ」 「気を付けてね!」 ジョニスと奈留の二人からも激励を受けながら、オデットは一足先に空京にある裏通りの雑貨店へとふわふわ毛玉の輸送を開始するのであった。 「あの遺跡群、すごかったなぁ……遺跡の中、ランドサーペント、それにふわふわ毛玉。書くことがたくさんで嬉しいな〜♪」 裏通りを歩き、雑貨店へと向かうオデットの足取りは非常に軽やかだった。原因は主にポケットにしまわれたメモ帳の内容にある。 ……皆に正体を隠しているが、オデットは作家である。その身分を隠し、他の契約者と同じように活動してはネタ集めを怠らない。ポケットのメモ帳にも、今回の依頼の顛末・一部始終がしっかりとメモされている。 今回の舞台では未知とされていた遺跡群や生物が色々と判明した。それだけに収穫は上々なので、上機嫌なのであった。 「さ、もうすぐ雑貨店……おや?」 ほくほくした表情で雑貨店へ向かっていくと、ちょうどその雑貨店のカフェ風飲食スペースに店長の姿が。だが、そこには十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)とリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)の姿も見える。……オデットの記憶が確かならば、出発前も同じ状況だったような気がする。 「――だーかーらー、さっきから言ってるじゃないですか。遺跡の生き物とやらが見つかるかどうかなんてわからないし、仮に見つかったとしても可愛いかどうかはわからない。それにもし仮に可愛かったとしても可愛いアクセサリーは二種類あっても困らないと思うんです」 「いやぁ、そう言われてもなぁ。俺が頼んだのはあくまでもふわふわ毛玉生物のほうだし……てか、お前さんも契約者なのにずっとここで売込みしてていいのか?」 ……オデットは確信する。間違いない、宵一は出発前から店長と何かを交渉していたが、それがまだ続いてるのだと。出発してからそれなりに時間が経っているはずなので、長丁場の説得になっているようだ。『根回し』を使い熱弁振るっての『説得』をしているようではあるが、相手も商売人。そうすぐに頷いてくれそうもない様子である。 「いいんです! 俺の目的はこの子の可愛いアクセサリー……いや、可愛らしさを最大限にアピールするためには抱き枕のほうが最適! それを立証してもらうためにも新トレンドとしてぜひリイムを!」 かなりの根気を見せる宵一。リイムも可愛らしさアピールからの『誘惑』をして店長へアピールをしているようだが、こっちも効果は薄そうだ。 「資金として10万G出させてもらいます。だから、だからなにとぞリイムの可愛い抱き枕アクセサリーを!」 宵一は自らのポケットマネーから資金を出すほどの覚悟を持ち合わせているらしい。……やがて、店長はやれやれといった感じでひとつ息をついた。 「――とりあえず顔を上げてくれ。……お前さんの覚悟は十分に伝わった。俺も契約者たちに助けられたこともあったしな、その恩返しのつもりでやらさせてもらうよ」 「ほ……本当ですか!? やった、やったぞリイム!! これでお前の可愛さをパラミタ中に伝えられるぞぉっ!!」 店長からの言葉に、思わずガッツポーズを決めてリイムと抱き合う宵一。それを見ながら、店長は言葉を続ける。 「……だけどな、モノや人には適材適所ってもんがあるんだ。お前さんも契約者なら、契約者としての仕事を全うしてからでも交渉は遅くなかっただろ。ま、自ら資金を出すとまで言ったんだから手伝わせてもらうよ。その代わり、儲けの配分はこうでいいか?」 さっそく店長は宵一と今後の話に入り出す。店長が提案した儲けの配分はやや雑貨店側有利であったが、リイムの可愛さを伝えたいという信念のもとに動いていた宵一はすぐにそれで合意していった。――長丁場における情熱をぶつけ、覚悟を見せた宵一に店長の心も動かされたのかもしれない。 ……その様子を遠目から見ていたオデットは店長のとある言葉を思い出していた。 「モノや人には適材適所がある……」 その言葉を口にすると、ビンに入った数匹ほどの毛玉たちがチンっとビンに触れ合う音が響く。それを見て――オデットは想う。 けして人目に触れることなく、定住もしないでふわふわと静かに漂っていたり生き物と共生していただろう生物。そうしていたのもこの子たちにとっての“適材適所”であったからこそ……。 「――ごめん、野暮だったね」 ビンを目の高さまで持ち上げ、中にいるふわふわ毛玉たちへそう呟くオデット。その脳裏には……ひっそりと隠れるように、そしてのんびりと過ごしているように生息していた毛玉たちの姿が過ぎっていた。 (……この子たちのことを本に書くのはやめておこう。自分たちの勝手でこの子たちの暮らしを――“適材適所”を壊すわけにもいかない。それは私の本意じゃないのだから) オデットはそう決断すると、改めて雑貨店へ依頼の報告に向かう。 ――後日、幸せの毛玉と呼ばれるであろう彼らがたくさんの幸せをたくさんの人に運んでくれることを願いながら――。
▼担当マスター
秋みかん
▼マスターコメント
初めまして、もしくはこんにちは。最近は色々とアレな柑橘類系マスター・秋みかんです。 今回もシナリオにご参加してくださり、本当にありがとうございました。作品をしっかりと楽しんでもらえればいいなぁ、と個人的には思っております。 そして今回は久しぶりに探検部と雑貨店の店長が登場しました。こんな感じでたまには過去のキャラとかも出していきたいものです。 称号もいつも通り出たり出なかったりします。お楽しみに。 それでは、またお会いできることを願いつつ――。